第40話 双子デート

心奏かなで、遊園地に行くわよ」

「いきなりどうした」


 クラス会の翌日、早朝に心羽みう心奏かなでを叩き起こしに部屋まで来ていた。


「良いから、行くわよ」

「遊園地ってどこだよ」

「ティスニーランド」

「本当にいきなりだな。チケットはあるのか?」

「当然じゃない。準備は万端よ。だからほら、行くわよ」

「……分かったよ。ちょっと待ってろ」

「ええ。十分だけ待ってあげるわ」


 それは待つ気が無いと言うんだ、と言う突っ込みを起き抜けの気怠さで諦め、心奏かなではベッドから降りる。それを満足気に見届け、既に準備万端の心羽みうは少しだけ嬉しそうに心奏かなでの部屋を後にした。


「おお……相変わらず大きいな」

「ええ、当然ね。さ、行くわよ」


 やって来たティスニーランドだが、某超世界的にな有名パークの名前に似ているが地元の遊園地である。と言ってもこじんまりとした田舎の遊園地と言うよりは、地方単位で人の集まるB級遊園地と言った感じである。

 なので、日曜日ともなれば当然のように人が集まるのだが、今日は少し少なそうに見えた。


「やっぱりゴールデンウィーク直前だとちょっと客足が遠のくみたいね。さ、時間は有限よ。遅れないようについてきなさい!」

「ちょ、待てって!」


 いきなり走り出した心羽みうの背中を追いかけて、心奏かなでは喧噪の中を駆けだした。


 人はなぜ絶叫系アトラクションなんてものを好んで楽しむのだろうか。絶境毛糸はそれ即ち身の危険を疑似的に体験するものだ。これがもし訓練なんかであるのならそれは必要なことなのかもしれない。だけど、娯楽として楽しもうとするにはあまりに物騒ではないだろうか。

 何が言いたいかと言えば、絶叫なんて嫌いだ。


「きゃああああぁぁぁぁっ!」

「……」


 心羽みうが両手を上げて楽しそうに悲鳴を上げる中、心奏かなでは安全バーをがっちりと掴んで真顔で風を切るジェットコースターに乗っていた。

 こんなものもう二度と乗らない。


「うー、楽しかったぁっ! いいわねぇ、ジェットコースター。もう一回くらい乗ろうかしら」

「止めてくれ、俺はもう乗らないぞ」

「なに? あんたジェットコースーター無理なの? ま、安心しなさい。同じアトラクションに二回乗る時間の余裕はないからね! さ、次行くわよ!」

「あっ、待てって!」


 続いてやってきたのはお化け屋敷だった。


「なあ、これって俺たちで行くものじゃなくないか?」

「何言ってるのよ、私は一人で来ても入ったわよ」

「ああ、そうか」


 心奏かなでは諦めた様に溜息を吐き、お化け屋敷を見上げる。洋館をモチーフにしたらしい黒っぽいお化け屋敷は、子どもが楽しむようなものではなく本格的な恐怖を追求するタイプのもののようだ。

 まあ、お化け屋敷くらいいか。


 連なる列を見るとどうにも他のアトラクションを比べて人が少ないらしい。人気が無いのだろうか。


「そう言えばここ、怖すぎて失神する人が後を絶たないらしいわよ」

「おいふざけんな」


 人気が無いとかではなく怖すぎるのか。要するにこの列に並んでいるのは事故物件に住もうとしている人たちみたいなものか。

 しかし、心奏かなでが逃げ出すよりも早く二人の番がやって来た。


「では、次のお二人様、前にお進みください。あ、カップルでのご参加ですね。こちら、カップルで参加いただいた方にお配りしている限定ファイルです。お受け取りください」

「へぇ、ありがとう。ほら心奏かなで、持ってて」

「いやまあ、いいけど」


 言いたいことが色々とあったが、面倒なので辞めておく。

 従順にファイルを受け取り、見下ろす。


「死の恐怖が愛を深める最高のブリッジエフェクトラブロマンスホラー。いや、どんな売り文句だ。てか吊り橋効果をブリッジエフェクトって言うな吊り橋の吊り要素無くなってるぞ」


 何なんだ、ふざけてるのか。

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