第四節 双子と遊園地

第39話 居場所に戻って

『ふーん、クラス会かぁ。楽しかったの?』

「分からん。まともに参加しなかったからな」

『なにそれ、すっごいカナデっぽい』


 どういうことだ、と突っ込みを入れようとして、でなかった。否定のしようがない、心奏かなでの生き方そのものだから。


「スプリングはどうなんだよ、そういう集まりには行かないのか?」

『私は……私はまあ、ゲーマーの集まりくらいかな』


 一言目に出た勢いが、すっとどこかに消えて行った。その後で、言い訳のように細々と続いた。


「スプリング? どうかしたのか?」

『……ううん、なんでもない。さ、それより狩りに行くよ、狩り。今度はS級魔術習得クエスト全コンプ!』

「うげ、それどれくらいかかるんだよ」

『そういわないで、さ』


 マップに示されたピンの位置は、何千メートルも離れた山の上。それでも確かに、ゲームの世界ならすぐに辿り着けると思えるような頂で。


『行くよ』


 先を歩き出したスプリングのキャラクターの背中は、手が届かないような絶境の中に見えた。


「あら心奏かなで、いつ帰ったの?」

心羽みうちゃん本気で言ってる? 結構前にただいまって言ってたよ?」

「うっそ、全然気づかなかった。そうならそうと、顔くらい見せなさいよね。帰ってきたら感想聞いてやろうと思ってたんだから」


 リビングに降りると、既に夕食の支度を進めている心梛ここな心羽みうがいた。そういえば、今日は父さんも母さんも飲み会だったか。


「そうだ心梛ここな、お弁当美味しかった。ありがとな」

「ううん、これくらいいつでも出来るから。喜んでもらえたら、私もそれだけで嬉しい、し。えへへっ」

「そうだな。また頼む」

「うんっ!」


 嬉しそうに笑う心梛ここなを見ていると、隣から視線を感じた。


「なんかあんた、疲れてるわね。口調が優しいわよ」

「あたかも人が常日頃から口が悪いみたいに言うんじゃない。基本的に言葉遣いは良いだろ、俺」

「良くはないわよ、一人称俺の時点で。ってそうじゃなくて、なんていうのかしらね、遠慮がち? 他人行儀になってない?」

「そんなことないだろ。え、心梛ここな、なってるか?」

「わ、私? うーん、そんなこと、無いと思うけどなぁ」


 他人行儀。何年も付き合うのある心梛ここなに対して、そんなことにはならないと思うのだが。


「そう? まあ勘違いならそれでいいわ」


 心奏かなでが真面目に悩んでいると、心羽みうはそう言ってそれっきり興味を無くしてしまった。何なんだ?


「それで? どうだったのよ、クラス会」

「どうって言われてもな。川辺に行って、遊んで、ご飯食べて帰って来ただけだし」

「感想を聞いてるのよ、感想を」

「私も気になるかも。ちゃんと楽しめた?」


 ……なんだ、皆同じようなことを聞いて来るんだな。何回聞かれても答えは変わらないけど。


「分からん。楽しいとか楽しくないとか、よく分からない」

「何よそれ、はっきりしないわね」

「もしかして、嫌な事でもあったの?」

「嫌なことは別になかった。ただ、何と言うか楽しいとか楽しくないって視点で見てないというか、何を楽しいと言ったらいいか分からないというか」


 ゲームをするのとか、本を読んでいる時間は間違いなく楽しいと思う。だけど、いざ出掛けたりすると途端にわからなくなる。何が楽しくて、何が楽しくないのかが。


「そっかぁ。でも、分からないなら仕方ないね」

「それもそうね。それじゃあこの話は終わりにして、ご飯にしましょうか」

「そうだね。すぐ準備終わるから、心奏かなで 君も待っててね」

「分かった」


 心梛ここな に返事をしてから、ふと心羽みうを見る。何だか少し、物憂げな表情をしていた。

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