第36話 バーベキュー

 程なくして、心音ここねは川辺で遊ぶクラスメイト達の下へと帰って行った。

 心音ここね心奏かなでのような頃があったと言っていたが、やはり心音ここねにはあそこに混ざって遊んでいるほうが合っているような気がする。過去がどうであれ、彼女は今誰かと一緒に何かを楽しむ、そんな人なのだから。


 そんなこんなで再び心奏かなでが一人になって一時間ほど。少しだけ喧騒が近くなったと思って心奏かなでが顔を上げると、皆が一か所に集まってはしゃいでいた。煙が上がっているのを見るに、バーベキューをしているのだろう。


「あそこに入るのは……無理だな」


 到底混ざれる気はしない。あの集団の中で図々しくもあれが食べたい、これが食べたいなんて言うだけの度胸が心奏かなでには無かった。


「さて、こっちも飯にするか」


 当然このようなことは想定済みな心奏かなでは、心梛ここなに頼んで作って貰ったお弁当をリュックの中から取り出す。心羽みう心梛ここなにはせっかくだから皆と食べればいいと言われていたが、人数が多くなりそうなことは聞いていたし、どうせ無理だから頼むと言ってお願いしたのだ。

 正解だったな、と自己採点で満点を付けながらお弁当を開く。


「お、美味そう」


 普段心梛ここなが作ってくれるのは夕飯だけ。お弁当は基本的に母親が作ってくれるため心梛ここなのお弁当は珍しかった。長い付き合いなのでまったく食べたことが無いというわけではないが、外で食べるというのもあって新鮮な気分だった。

 

心梛ここなには感謝しないとな。いただいてっ」

「ちょっと、何してるの?」

心音ここね?」


 頭に軽い衝撃を感じて振り返ると、不満げに見下ろしてくる心音ここねがいた。手の構えを見るに、心奏かなではチョップを食らったのだろう。


「皆バーベキューしてるのに、なんで一人だけお弁当食べてるの? ふざけてるの?」

「あそこに混ざるのは無理そうだったから」

「元々入る気が無いから準備してきたんでしょ? って、クオリティー高いね、そのお弁当。お母さんに作って貰ったの?」

「あー、そんなとこ」


 不用意に心梛ここなの名前を出すと面倒なことになりそうだし、そういうことにしておこう。


「ふーん。まあとりあえず、お肉くらいだったらよそってきてあげるから。男子なんだし、お弁当一つじゃ足りないでしょ?」

「いや、そんなことは……」

「いいから。どれくらい食べるの? 取ってきてあげる。あと、一人じゃ寂しいと思うし、一緒に食べてあげる」

「何も、そこまでしなくても」

「いいから、待ってて先食べててもいいから。ね、分かった?」

「わ、分かった」


 なんと強引な。それともあれだろうか。私のクラスであるからは一人にはさせないという強い使命感と正義感があるのだろうか。確かに心ひとつで自身の環境を変える力を持っているような心音ここねだ。高い志を持っているのは不思議な事ではない。


 一先ず、心奏かなではお弁当を開いて食べることにした。


「ほら、持ってきたよ」


 しばらくすると、心音ここねは二人分のお皿を持って帰って来た。


「一緒に食べるからこそ美味しいってこともあるって、私も最近知ったんだ。だから、一緒に食べよ。もちろん同じものを」


 そんなことを言われてしまえば、強く断ることは出来ない。お弁当を一旦仕舞って心奏かなではお皿を受け取る。まあ、実際お弁当だけじゃ足りないかもしれないと思っていたところだ。


「ありがたくもらうよ」

「うん。じゃ、食べよ」


 なんだかんだ言って、こういうのも悪くは無いんだよな。

 誰かに構って貰える間は、甘んじて構われておこう。

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