第33話 会場へ

「お、おはよう? えーっと、大丈夫そう?」


 クラス会当日、雛沢家前で待ち合わせをしていた心奏かなで心音ここね

 お互いに私服姿で対面し、普段は見ない互いの姿に色々な感想を……抱く暇は無かった。


「あ、ああ……何とか」

「とりあえず、下ろしていいよ?」


 玄関の前に立った心奏かなでは肩にクーラーボックスをかけ、両手で炭を持ち、その他の荷物も何とかねじ込んだうえで個人的な荷物であるリュックサックを背負いクーラーボックスとは逆の肩に水筒を下げるという、完全武装で心音ここねの前に現れた。


「わぁ、雛沢ひなざわ君凄い荷物ですね。とりあえずトランクにおいてくださいね」

「あ、義弘よしひろ先生おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「はい、お任せください。先生としてしっかり皆を守ってあげますからね!」


 心音ここねの後ろから現れたのは二人と同じく私服姿の義弘先生だった。そのすぐ後ろには義弘先生の体格で本当に運転できるのか定かではない車が置かれていた。

 ちなみに、義弘先生の服装は心音ここねのものより子どもっぽく見えた。ファッションの問題か本人の問題かは審議が必要である。


「よし、荷物は積み終わりましたね。それじゃあ出発しましょうか。二人とも、ちゃんとシートベルトを締めてくださいよ!」

「はーいっ!」

「……はい」

「出発しんこーうっ!」


 義弘先生がテンション高めに言ったのを聞いて心奏かなでは自分の居るべき場所じゃないことを察した。

 あれだ、二人ともテンションが高くて空気を読めるタイプの人間だ。さっきだって新嶋さんに先を越されたせいでどう返事するべきか分からなくなったし、これからクラス会の会場に着くまでの間に発生するであろう会話を切り抜けられるビジョンが全く湧いてこない。


「あ、そういえば雛沢君にはまだお礼を言っていませんでしたね。クラス会の為に準備をしてくれてありがとうございました。とても助かりましたよ」

「ああ、いえ。出来ることをしただけですので」

「わぁ、謙虚なんですね。先生、雛沢君とはあまりお話ししたことが無かったですが、雛沢君がいい人だってすぐに分かりましたよ」


 あれ、足届いてるのかな。義弘先生の身長はあって小学生高学年くらいだったけど、まあそれなら届くには届くか。車高が高い車ではないし。でもなあ、傍から見たら小学生が運転してるんだよなぁ。中々に珍しい光景である。


「雛沢君って私服センスあるよね、なんかこだわりあるの?」

「あ、それは先生も思っていました! いつの間にか髪を切ったり、イメチェンってやつですかね?」

「見た目に気を遣いなさいって家族に言われるんですよね。だから仕方なく」


 そういえばどこに行くのか具体的には聞いてなかったな。穴場の川があるとは聞いていたけど、どんなところなのだろうか。他にお客さんがいたら高校生が十数人も集まったら流石に迷惑だと思うのだが、大丈夫だろうか。


「って、雛沢君、聞いてる?」


 視界の端で新嶋さんが小首を傾げて聞いてくるのが見えた。


「もちろん」

「そう?」


 おっと、危うくバレるところだった。秘儀、頭を使わない会話を見抜く寸前まで行くとは流石である。


 頭を使わない会話とは心奏かなでが人とどうしても関わらなくてはならなくなった時に取る最終手段。頭では別のことを考えながら振られた話題には脊髄反射張りの無意識状態のままで答える。こうすることで心理的疲労を少しでも減らすことが出来るのだ! 

 なんて脳内解説を挟みながら四面楚歌の状況を何とか乗り切った心奏かなでであった。

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