第32話 別れ際
「へぇ、ここが
「そうだな。荷物は適当に置いておいてくれ、後は俺がなんとかするから」
「え? いいよいいよ、中まで持ってくよ」
「あー……それは止めた方がいいかも」
この時間だと
「え、どうして?」
「たぶん、一緒に居るのを見られたら面倒なことになる」
「そう? せっかくなら荷物を置かせてもらうんだし、挨拶くらいしようかと思ったんだけど、雛沢君がそういうなら止めておこうかな」
「賢明な判断だ」
恐らく問い詰められるのは
「それじゃあ雛沢君、またね。当日になったら荷物取りに来るから」
「分かった。それじゃあ、また」
そんな心配をしていたが、どうやらそれは杞憂だったらしい。新嶋さんは少し嬉しそうに笑うと、手を振りながら言った。
「うん、またね」
なんか、機嫌いいな。あれだろうか、一人になれたから気が楽になったのだろうか。だとすると、流石に少し傷つくな。
「まあ、なんでもいいか」
玄関に積み上げられた荷物を家の中に運び込み、整理してから早速パソコンの電源を入れた。
一人きりになった帰り道は、いきよりも少しだけ暗くなっていた。時刻も遅くなっているのだから当然なのだけれど、心情描写をするのならここはいきよりも明るくなっていてくれなくてはおかしい。
「また、か。言ってくれるとは思わなかったな」
言ってくれるとしてもこっちが言ってくれた後だと思っていた。だって、また会いたいと思っているとは思わなかったから。
いや、もしかすると社交辞令なのかもしれない。ただ、そんな社交辞令を言われるほど気に掛けられているとは思っていなかった。まったく興味が無いように見えたし、距離が近くてもビクともしなかったし。あれは、興味が無い人の反応だと思った。
「家の場所も分かったし、進展かな」
今日はクラス会の前に少しでも雛沢君のことを知っておこうと思い買い出しに誘った。引き受けてくれるかは分からなかったし、実際あまり前向きじゃなかったみたいだけど引き受けてもらえてよかった。
一緒に喋ってみると関心を示してくれることは少ないが刺々しいことはない。話し掛けたら返してくれるし、一緒に居て居心地が割るということは無かった。特段良くも無かったが。
「でもそっかぁ、あれで照れないなら脈なしだろうなぁ」
付き合いたいとか、まだそこまではいってない。クラスの中で目立つ方でもないし、好きでもないのなら付き合う理由が無い。ただ、まさかあそこまで異性として意識されていないとは。ちょっぴりダメージである。
でも、距離が近いだけでは何ともない、と言うだけの可能性もある。
「手繋いだり、キスしたりすれば、流石に……でも、そこまでするのはぁ」
ファーストキスは取ってあるし、好きでもない人と手を繋ぐのは躊躇われる。ハグとかそれ以上なんて尚更だ。
そんなに賭けてまで雛沢君を知りたいわけではない。
「でもなぁ、照れさせてみたい、かも」
自分でも変な方向に熱が入り始めているのは分かっているが、それでも何となく楽しそうだと思ってしまった。楽しいことは大好きだ。
「一先ず、名前呼び、とかかな」
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