第31話 帰り道

 家に向かう道中を誰かと歩くことは珍しいわけではない。時間が合えば心羽みう心梛ここなと一緒に帰ることはあるし、歩く速度の問題で別々に帰っていても合流することがあることだ。

 ただ、その二人以外と一緒に家に向かうのは覚えている中で初めてだった。


「へぇ、雛沢君の家こっちの方だったんだね。学校までは、どれくらい?」

「歩いて十分くらいだな。改めて考えると本当に近いな」

「みたいだね。……荷物、重くない?」


 新嶋さんは電車で移動して五十分と言うことだったし、登下校はかなり大変なのだろうな。まあ家が近い理由としては心奏かなでが家から近い高校絵を選んだからになり、当然の結果ではあるのだが。


「別に重くはない。あーいや、重いには重いのか。これくらいなら大丈夫ってこと」

「そっか。やっぱり力持ちなんだね、男の子って」

「男だからってわけじゃないと思うけどな」


 重たい荷物を運ぶ手段は色々と心得ている。持っている力に対して持てる重量を計測する頃があれば今の心奏かなでに勝るのは運送業者と引っ越し業者くらいなのではないかと考えているくらいだ。

 いや、知らんが。


「ふーん」


 心奏かなでが心の中のボケにセルフ突っ込みしていると心音ここねは要領を得ない返事をする。


 この数分、ずっと話題を振られてはこんな風に返事をされ、話題が途切れる。これに関して言えば心奏かなでの受け答えが悪い可能性が1000%なのだが、それに対する新嶋さんの反応もあまりよくは無いんだよな。

 例えるのなら、スマホを見ている時の心羽みうのように興味の無さそうな返事。心羽みうにされるのは慣れているが、新嶋さんにされると流石に気になる。

 やはり、買い出しのペアに心奏かなでを選んだのは苦渋の決断だったのだろうか。心奏かなでにはあまり興味が無く、会話を詰まらないと感じているんだろうな。


 でも許してくれ新嶋さん。こちらは小、中、高とほとんど友達の出来たことのない生粋の一人体質だ。人とのコミュニケーションが苦手なのはもちろん、常識だって弁えてないのだから。


「ねえ」

「っ、うおぉっ!?」


 近っ!? なんで新嶋さんは振り返ったら目と鼻の先にみたいな距離にいるのかな!?


 心奏かなでが思わず仰け反るも、心音ここねは何食わぬ顔で聞いて来る。


「雛沢君ってさ、女慣れしてない?」

「お、女慣れ?」


 一体全体どういうことだろうか。交際経験ゼロ、手だって繋いだことが無いような男だぞ。あ、嘘か。心羽みうとなら幼少期につないだことがあるはずだ。普通にノーカンだと思うけど。


「いやいや、彼女いない歴イコール年齢だし、全然」

「嘘だよ。だって今、私が顔を寄せても照れてなかったもん。驚いただけじゃん」


 照れる。女の子の顔が近くにあると、照れる。

 ……なんで?


「照れるのが普通なのか?」

「普通って言うか……自分で言うのもなんだけど、私普通に顔は良いと思うんだよ」

「え、まあうん、そうかもね」

「えっ、あ、ありがと……じゃなくて!」


 目を逸らしながらあまり自信なさげだった心音ここねだったが心奏かなでがすんなり肯定したことで少し頬を赤くする。が、それを隠すために声を張る。


「可愛い女の子に見つめられたら、男の子って照れるものだと思うんだよ」

「あー、確かにアニメとかだとそうだよな」

「……本気で言ってる?」


 心音ここねはじとー、とした視線を向けて来る。疑うような、少し下に見るようなそんな目だった。


 顔が近いと、照れる。そういうものか? アニメとか小説だとそうだから言わんとすることは分かるのだが、恐らく心奏かなでは女子の顔が近くて照れたことはない。そもそも顔が近くなるとしたら心羽みうくらいというのもありそうだが。


 肯定の意味を込めて首を縦に振ると、心音ここねの目つきはあり得ない目を見るようなものへと変わって行った。

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