第30話 クラスメイトと買い出し

「手伝ってくれてありがとね。次はこっちだよ」


 放課後、心奏かなで心音ここねに先導されてホームセンターまでやってきていた。

 学校から近い場所にあり、徒歩十分程度だった。


「えっとね、炭は確かこっちの方に……」


 新嶋心音ここねは誰よりも真面目で熱心だった。

 その日、心奏かなで心音ここねに抱いていた感想を変えるきっかけになったのは終始彼女が浮かべていた真剣な表情だ。


 最初はただただ明るく、楽しいことが好きな人なのだろうと思っていたのだがその実何かに取り組む姿勢は真剣だった。楽しいからこそ真剣に取り組んでいるのかもしれないが、それでもあそこまで真っ直ぐな目を見せられると第一印象を覆されるのも仕方ない。

 心奏かなでには到底できないものだった。


「あとこれと、こっちも買っておこうかな。雛沢君、大丈夫?」

「ん? まあ、大丈夫」


 炭が最も大きく、その他火を扱う類のものもそれなりに重たい。クーラーボックスは肩に掛ければ何とかなるとして、両手が塞がっているから炭の入った箱の上にこまごまとしたものを積み上げていたのだが、流石にそろそろ限界だ。

 それを察してか心音ここねが訪ねてくるが、心奏かなでとしては何ともない。何と言っても双子の教育の賜物で荷物持ち役は慣れている。別に嬉しくは無い。


「へぇ、結構力持ちなんだね。実は筋トレしてたりする?」

「いや、まったく。でも、男ならみんなこれくらい余裕なんじゃないか?」


 心奏かなででもギリギリセーフだし。


「そう? やっぱり、男の子って頼りになるね」

「そう、か。まあ、これくらいならな」

「うん、すっごく助かってる。よし、こんなもんだし、買っちゃおうか」


 満足気に頷いた心音ここねに連れられて、心奏かなでは大量の荷物を会計まで運んだ。


「それで? どこまで運ぶんだ?」


 購入したクーラーボックスの中にこまごまとしたものを詰め、多少は余裕が出来た心奏かなでが隣の心音ここねに聞いた。

 その瞬間、心音ここねは少し気不味そうに視線を逸らした。


「あー、それが。本当は私の家まで持って帰ろうと思ってたんだけど、思ったよりも重そうじゃん? でも、私の家ってここから五十分以上かかるから雛沢君にそこまで持ってきてもらうのは申し訳ないし。妥協案なんだけど、雛沢君のお家に置いておいてもらえないかな。もちろん、そこまでは持って行くよ!」


 購入したものはかなり多く、その大半を心奏かなでが持っているが持ちきれない分は心音ここねが持っている。小物が入ったその袋を掲げながら、どうかな、と少し不安そうに心音ここねが訪ねる。

 

「いいけど……家がここから近いって、よく分かったね」

「え? そ、それは前に聞いたことがあったからだよ! 雛沢君の中学校、ここの近くなんでしょ? だったら地元かな、って!」

「まあ、そうだな。ここからだと、十五分くらい歩いたところか」


 確かに心奏かなでの中学校を知っていれば家が近いと考えるのも自然なことだ。同じ中学校出身の人ならそれなりにいるはずだし、新嶋さんが知っているのも理解できる。

 新嶋さんは凄く慌てているが、新嶋さんがわざわざ事前に調べてきたと勘違いしたと思ったのだろう。だが普通に考えてそんなことをする理由がないし、心奏かなでがそんな勘違いをするわけはない。


 心奏かなで心音ここねを安心させるために何とも思って無さげに答える。それを見て安心したのか、心音ここねは表情を整えた。


「それじゃあ、連れてって、雛沢君の家」


 言われて気付く。どうやら心奏かなでは今日初めてクラスメイトを家に案内するらしい。

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