第三節 クラスメイトとクラス会

第29話 朝礼前のクラス内

「先週のHRでお話ししたクラス会、今のところクラスの半分くらいの人が参加するって言ってくれてるんだ。部活で忙しい子とか、たぶん外で遊ぶのが嫌いな子は来られないみたいだけど、結構楽しくなりそうだよね」


 月曜日の朝礼前、 心音ここね心奏かなでの席の隣に立って嬉しそうに笑っていた。


 楽しくなりそう、か。分からないとか知らないというのは簡単だけど、そんなことを言ってしまったら相手が悲しむかもしれない。だったらせめて、本心ではそう思っていなくても、きっとこう返すのが正解だ。


「確かに。半分って言うと、二十人いないくらいか。それなりの大人数だけど、大丈夫?」

「うん! 問題ないよ! 場所はもう用意したし、準備もぴゅあちゃ、ぴゅあ先生が手伝ってくれてるから順調。あ、そうだ! ねえ雛沢君、今日の放課後、暇?」


 なんかちょっと、わざとらしくなかったか? 気のせい、だろうか。


「暇だけど?」

「だったらさ! 買い出し、手伝ってくれない? バーベキュー用の炭とかバーナーとか、クーラーボックスとか。あんまり大きいのは皆持ってないみたいだから」


 つまりは荷物持ちをお願いしたいということだろう。スプリングとゲームをやるのも学校が終わってからしばらく経ってからだし、その時間を使うくらいは問題ない。心羽みう心梛ここなにクラスメイトとの交流くらいしろと言われている身だし受けるのはやぶさかでも無いのだが。


「俺である必要あるか?」


 クラスにはもっと屈強な男がたくさんいる。新嶋さんと仲が良さそうな人だって多かったはずだ。そこでわざわざ心奏かなでを選ぶ理由がいまいち分からなかった。

 心奏かなでが何気なく尋ねると、心音ここねは少し肩を震わせて心奏かなでから僅かに距離をとった。


「必要は、ないかもだけど……もしかして、嫌だった?」


 決まずげにそう言われて、心奏かなでは自分の口調が刺々しかったことに気付く。

 今朝も見た怯えるような視線を見て、慌てて付け加える。


「そうじゃない、嫌ってわけじゃない。ただ、俺は頼りないかもしれないし、俺以外に手伝いたいって言う人がいるだろうなって、思っただけだから」

「ほ、本当? 私に誘われるの、嫌じゃなかった?」

「嫌なわけない」


 椅子を鳴らして立ち上がり、慌てた様子を見せる心奏かなでにクラスメイト達からの視線が集まる。

 しまった。ただでさえ新嶋さんと話しているせいで視線が合ったのに、目立ちすぎた。


 椅子を引いて座り直そうとして、くすっ、と笑みが零れるのが聞こえた。


「新嶋さん?」

「あ、ううん、なんでもない。改めて、今日の買い出し、一緒に行ってくれない?」

「え?」


 いや、あの展開でさらに押すのか。まあ、こちらの意図はちゃんと伝えたわけだし、その上で心奏かなでを選んだということなのだろう。もしかすると、他の男子にはすでに相談していたのかもしれない。その上で用事があったりして受けてもらえず、心奏かなでが最後の候補だったのだろう。


「あーうん、俺でよければ、手伝うよ」

「よかった。それじゃあ、放課後ね」

「分かった」


 心音ここねは機嫌よさげに机に戻っていく。それとほとんど同時に予鈴が鳴り、義弘先生が教壇の上で背伸びした。


 なんか最近、色々と誘われるな。

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