第20話 LHR

 LHRと言えば大抵は週に一度だけあるまるまる授業一コマ分を使ったクラス内活動をする時間だ。しかし四月も後半、クラス委員やその他の確認を済ませた今ほとんど暇な時間になるかと心奏かなでは思っていたのだが、先週クラス委員に名乗り出た新嶋心音ここねが早速教壇の上に立っていた。


「五月に入ってからのゴールデンウィークのどこかで、クラス会を開きたいと思っています!」


 義弘よしひろ先生が傍らから見守る中、心音ここねは楽し気に宣言した。


「懇親会、って言えばいいのかな。皆の中を深めるために、バーベキューなんかをしたいなと思っています。場所については既に候補があって、バーベキューをするとしたら皆で食材を持ち寄って楽しくやりたいと思っています! もちろん、家族で用事があったり参加したくない、という人は無理強いはしません。でも、せっかくなので来れる人は着て欲しいなって思ってます。もちろん、心美ぴゅあちゃん先生も来てくれます」

「ぴゅ、ぴゅあちゃんは止めてください! もうぴゅあと呼ばれることは諦めましたが、これでも皆よりは年上ですよ!」


 顔を赤くして起こる義弘先生に、心音ここねは小さく笑いながらごめんごめん、と軽い調子で謝っている。

 

 そんな光景を気の抜けた表情で心奏かなでは眺めている。

 本人が止めろと言っているんだから止めてあげればいいものを、なんて心の中で呟きながら。


「参加するかどうかは来週までに決めて貰えればそれで大丈夫です。参加する人数で持ってきてもらう食材なんかを割り振って行けたらなと思っています」

「はいはーい、私行くー」

「俺も俺も!」

「お前らも行くよな!」

「お、おう、行くか」


 と、真っ先に声を上げたのは人の顔をあまり見ない心奏かなででも見覚えがあるようなクラス内カースト上位の面々。心音ここねとも仲が良さそうにしているし、あの集団はどうせ行くんだろうなと勝手に思っていたが正解だったようだ。

 というか、クラス親睦会と言いつつも結局は仲がいい人達だけで遊ぶことになりそうな予感である。そこに先生が監督して付き添うだけで新鮮味などないのではないだろうか。

 

 なんて、自分は全く行く気が無いみたいに考えながら心奏かなでは残りの時間をほとんど寝たような状態で過ごした。


 そんなLHRでの出来事をその日の晩御飯中のおかずとして心羽みう心梛ここなに提供したところ、心奏かなでに帰って来たのはこんな言葉だった。


「いや、行きなさいよ」

「うん、私も、行った方がいいと思う、かも」


 心羽みうはバッサリと即答し、心梛ここなは考えながらではあったが最後にはきっぱりとした声でそう言った。


「え、いやいや、俺が言っても仕方ないだろ。どうせ隅の方で本読んでるだけだぞ」

「だから、行けって言ってるのよ。少しでも仲良くなるきっかけを作っておかないとあんた、一年中クラスに居場所ないわよ?」

「いつも通りなんだが?」

「そ、そんな悲しいことを平然と言わないで、心奏かなで君……」


 と言われてもな。実際いつものことだし。


「あんたねぇ……来年になれば受験で忙しくなるし、そうじゃ無くても社会進出はすぐそこなのよ? 少しは人と話すことに慣れておかないといけない年齢なの。分かる?」

「……まあ、理屈は通ってるな」

「本来なら理屈云々じゃなくて日常的にやるべきことなんだけどね?」


 心羽みうはあたかも心奏かなでがおかしいかのように言ってくる。心奏かなでにしてみれば釈然としないと言わざるを得ない。


「ってことで、取り合えず行ってみなさい。そこで何をしろとは言わないわ。ただ、クラスメイト達が遊ぶとなったらどんなことを、どんな雰囲気でするのかくらいは肌で感じておきなさい」

「まあ、うん。私も皆と仲良くするのは良いことだと思うし、心奏かなで君はお友達が決して多くないから心配しているって言うのもあるんだ。この前はインターネットのお友達と楽しそうにしてたみたいだけど」

「こ、心梛ここな? スプーンが曲がってるんだけど……」


 友達が少ない、などと言うのが忍びなかったのか先程まで申し訳なさそうだった心梛ここなの表情が瞬く間に暗くなり、手に握ったスプーンを曲げていた。心梛ここなの握力は心奏かなでよりもずっと高そうだった。

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