第二節 幼馴染とお出掛け

第19話 最近気になる男の子

「あの子、誰だったんだろ」


 呟いてみるも、もちろん答えなんて帰ってこない。


 新嶋心音ここねは自室の机の上で考え事に耽っていた。

 最近少しだけ気になる男の子、雛沢心奏かなで君。教室では目立たないほうで、友達がはまっているというアニメのタイトルが書いてある本を読んでいたのでそれをきっかけに話しかけてみたのだが、想像通り静かな子だった。

 一応定型文のようにアニメを教えてね、なんて言ってみたけれどあんまり期待はしていなかった。ただ、その日の部活終わりにはアニメを色々と送って来ていた。がっついているなぁなんて思いもしたのだが心音ここねの返信には週末まで完全に未読、週末になってやっと既読になったかと思えば結局既読無視だった。


 ただ、それ以上に驚いたことが一つ。

 部活帰りにショッピングモールへお昼ご飯を食べに行っていた時、すれ違いざまに名前を呼ばれたような気がした。振り返ってみると、一見だれか全くわからない人だったのですぐに視線を逸らした。

 ちょっと好みかも、なんて思いながらだったので名前くらい聞いておけばよかったかなとその時は思った。


 翌週、自分の教室でその人のことを目にするまでは。


 名前を聞く必要なんてなかったのだ。なんと言っても、既に知っている相手だったのだから。その上直近で連絡先も交換している。

 ショッピングモールで見かけたいいなと思えた人は、雛沢君だった。初見で気付けなかった理由はすぐに分かった。私服姿だったし、髪を切ってすぐの様子だった。制服姿でいつも通りの席に座っているのを見たら案外すぐに分かった。

 人って結構髪切っただけで印象変わるよね。


 試しに話しかけてみたけれど、雛沢君はやはりどちらかと言えばノリの悪い人だった。何を言っても無関心なように反応してくるし、聞いているのかどうかすら怪しい。毎回同じように、うん、そうだね、確かに、なんて肯定しか返してこないし。

 いや、同じ部活の友達との会話も似たような感じだけど、あっちはもう少し生気がある。雛沢君は生きている感じがしない。しかもなんだ、私と話をしてすぐ教室を出て、帰って来たと思ったら調子が悪い? 失礼にもほどがある。それとも、人と話すのがアレルギーなのかな、なんて思った。


 そして今日、おすすめのカフェがあるんだ、と友達に誘われて学校からは少し離れたところまで出かけた。こんな機会はあまりないし、そのカフェ自体実際に中々オシャレでいい感じだったのでテンションは高めだったのだが、窓の外に雛沢君を見つけてからはカフェを楽しむどころではなかった。

 よく見てみると、カフェの向かい側で何やらイベントをしているらしい。あれに参加をしに来たのだろう。スマホ片手に誰かと待ち合わせしている様子だった。


 オタク友達かな、なんてドリンク片手に眺めていると、やってきたのはゴスロリ姿の女の子だった。眼帯までして、がちがちのコスプレイヤーだった。あれだろうか、オタクグループの姫と言うやつだろうか。そんなことを思っていると、雛沢君とその女の子は二人で会場に入って行った。

 だから何というわけではない。ただ、心音ここねは自分と話をしている時にはしなかったような爽やかフェイスをしている心奏かなでに、少しムカついただけ。

 出会ってからは短く、嫌われるようなことをした覚えは全くない。だから恐らく雛沢君にとっては心音ここねへの対応がノーマルで、あの子に対して特別なんだろうなと言うのは分かっていたのだけれど、やはりそれが引っ掛かる。


「嫉妬なんて、してるわけは無いんだけど」


 言い聞かせるように呟いて、今だアニメの名前以外に書かれていない心奏かなでからのチャットを眺める。


「確かめないと、もやもやするかも」


 心音ここねは友達が多い方だと自負しているし、友達の作り方も心得ている。誰かに好かれる自信があるだけに自分のことを好きではない相手が他の誰かを好きであるという経験があまりなかった。

 もちろん誰にでも愛して欲しいだなんて思っているわけではないし、友達百人作りたいわけでもない。無論、博愛主義でもない。


 心奏かなでに好かれないとしても、好かれていない理由くらいは知っておきたいかもしれない。


「……遊び、誘おっかなぁ~。でも二人は気まずいしな~」


 一対一の遊びに誘って断られたら萎えるし。どうせなら、そうだな。


「クラス会とか、いいかも」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る