第18話 大倉心春

「なかなか面白かったな」

「そうだろうそうだろう、やっぱり武器は良いんだよ!」


 途中にあった謎の行動から立ち直っていこう、心春こはつは夢中になって会場中の武器や防具を見漁った。その度はいる解説を心奏かなではほとんど理解できなかったが、このイベントを楽しみにしていたであろう心春こはるが楽しそうにしていたのでそれだけで満足だった。


「カナデも楽しんでくれたなら誘った甲斐があったよ」

「そうだな。今日は誘ってくれてありがとうな。また誘ってくれよ」


 軽い調子で心奏かなでが言うと、心春こはるは少し驚いたような間を開けてから嬉しそうに頬を緩ませて言う。


「分かった。絶対誘う」


 ゲーマーネームスプリング。本名を大倉心春こはるという。

 一年以上一緒にゲームをやって来た心奏かなでと初めて実際に会ってみた帰りの電車の中、無駄に暑いスカートを恨ましく思いながら心春こはるはスマホへと視線を落としていた。


「眼帯、意外と邪魔にならないな」


 人によっては奇異の視線を向けて来る青い瞳も誤魔化せるし、意外と悪くないのかもしれない。まあ、変な目って思われる以上のダメージがありそうだけど。


「カナデ、ねぇ」


 本名だろうな、とは思っていた。初めて一緒にゲームをやった時は明らかに初心者だったしハンドルネームなんて持っていないんだろうな、なんて感想程度だった。

 心奏かなでとの出会いはふと手に取ってみた話題の新作の初プレイの日だった。RPGは一人でやるものが多い中インターネットを介して人とできる、ということでランダムマッチングに繰り出してみた時に出会った、本当に偶然のことだった。


『あ、初めまして。えっと、カナデです』


 ゲーム内チャットから始まり、数日怠惰的に続ける中で文字を打つのが面倒になった心春こはるの方からボイスチャットを提案した。

 話に聞いたところでは同い年の男の子ということで、まあよくいる流行りに乗ったタイプの人なのかなと思っていた。ただ、どうやらそういうわけでもないらしく。どちらかと言えば心春こはるは自分と同じ属性の人間なんだなと認識していた。


 特段思い入れがある人では別に無かった。今までだって同年代で男のゲーム友達くらい何人もいたし、心奏かなで心春こはると違ってゲーム好きというわけでもないらしい。

 ただちょっと、やったことのないジャンルだったし久しぶりに心穏やかに出来るゲームだったというのもあって日々の息抜きに心奏かなでと一緒にゲームをするのは習慣になっていた。


「あれ、カナデからだ」


 開いてみると、今日も一緒にライオブやるか、と尋ねられていた。

 心春こはるは自分が笑ってるのを自覚する。


 ただの息抜きのつもりが、いつの間にか心奏かなでと一緒にゲームをすることが楽しみになっていた。最初の内は初心者に色々教えてあげるのが新鮮で楽しいのかなとか思っていたけれど、時々交える雑談も、真剣なゲーム対談も心奏かなでが相手だと普段よりも楽しいと思えるようになっていた。

 まあ、普段はぴりつくような対戦ゲームばっかりやっているからライオブのゆったりとした世界観の中であう心奏かなでの時だけ気が楽になるのかもしれないけど。


 でも、今日初めて会ってみて自分の中で確信に変わるものが確かにあった。

 間違いなく、カナデが心奏かなでだったから心春こはるはライオブを楽しめていた。人としてどこか似てるのだ。似た者同士、分かり合える部分がある。だからこそ一緒にいると他の誰かと一緒にいるよりかは安心できる。


「まあ、たぶんね」


 頭の中で感情を整理しながら、あまり自信のない結論に付け足しておく。

 しかし、少しだけ驚いた。何がガサツでずぼらな男だ。そこそこイケているではないか。一緒に歩くときなんかも心春こはるが人とぶつからないようにを気を遣っていた。

 確か双子の女の子がいたんだったか、その子に鍛えられでもしていたのだろうけど。まあなんだ、女の子扱いされるというのも悪くないものだ。


「もちろんやる……次、なんかイベントあったかな」

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