第15話 初めまして

「まあとりあえず、初めまして」


 初めまして、な。まあ実際に会うのはそうだし、間違ってはいないのか。


「初めまして。ライオブでの名前はカナデ……と言っても、本名も心奏かなでだ」

「ライオブのプレイヤーネームスプリング。本名は心春こはる。心に春、って書いて心春こはる。今日はよろしく、カナデ」

「こちらこそよろしく、心春 《こはる》」


 ああ、そういえば。


「ちなみに、どうして俺って分かったんだ?」

「ああ、そのこと? なんとなくだよ。近づいてみて、違いそうだったらそのまま通り過ぎようかと思ってた。でも、なんだろう。髪切ったって言ってたし、服もわざわざ新しいの買ったって言ってて、それっぽいの探してたってのはあるかな」

「なるほどな。服と言えば、心春こはるの服も凄いよな」

「うっ……私もこの服は間違ってたと思ってるよ」


 指摘されて、心春こはるは苦しそうに眉を寄せる。


「でもそれ、コスプレだろ? 趣味なのか?」

「ち、違うっ! 断じて違う! いや、これはコスプレかもしれないが、趣味ではないということだ!」

「わ、分かったから落ち着け……」


 どうやらコスプレが趣味だと思われるのが嫌らしい。


「その、実はな。さあ出掛ける準備をしようとクローゼットを開いてみると、何も入っていなかったんだ」

「洗濯しちゃったとかか?」

「いや、元々なかった」

「なんで開いたんだよ、開かなくても分かるだろ」

「いや、もしかしたらあるかな~、って」

「もしかすることはないだろうよ……」


 聞くところによると心春こはるは高二という若さで一人暮らしをしている。物の管理も何もかもを自分でやっているのだろうから、もしかしてしまったらそれは普通に心霊現象である。


「それで、その。この前カナデにおすすめして貰ったアニメのキャラクターの服が可愛くて、見た瞬間衝動買いしたこの服を思い出したんだ」

「ああ、どこかで見た覚えがあると思ったらキラルか」

「そ、そうっ! キラル!」


 名前を挙げた途端、心春こはるは少し興奮気味にずいっ、と低い背丈を心奏かなでの顔へと寄せる。

 ちなみに、キラルとは心奏かなで心春こはるにおすすめしたアニメに出て来るヒロインである。


「異世界ファンタジー、だっけ。ゲームの中の世界みたいでいいなーっと思ってたんだけど、あの子可愛すぎない!? 性格もそうだけど、奇抜な格好の裏にある可憐さとか責任感とか、時たま見せる甘え下手ながらも甘える姿とか、可愛くて! 他のグッズも思わず買っちゃったんだ!」


 そうやって語る心春こはるの姿はとても楽しそうで、心奏かなでとしても紹介してよかったなと思う限りだった。


「だよな。キラル、俺も好きだな。でも、本当によく準備したな。メイクとか、時間かかっただろ」


 心春こはるのコスプレは衣装が同じだなだけではなくキラルの特徴である白い肌や青い瞳まで再現している。これはそう簡単に出来ることではない。

 なんて心奏かなでがコスプレについてはあまり知らないながらも訪ねてみると、心春こはるはきょとんと首を傾げる。


「メイク? してないけど」

「えっ、嘘だろ? じゃあなんだ、元々の顔がキラルに似てるってことか?」

「似てる? そう、かな。自分ではそう思わなかったけど」


 心春こはるは言われたことが想定外だったのか、自分の顔をペタペタと触る。


「それにその眼、それはカラコンだろ?」

「ううん、これは自分の目。私ヨーロッパ系とのハーフだから。顔が似てるっていうのももしかしたらその影響があるのかも」

「へー、なるほどな」


 正直本物が出てきたと思っていた。キラルというキャラクターについて、心奏かなではそこまで強い関心を抱いてはいなかった。ただ、言われれば分かるし、姿も頭の中に浮かんでくる。

 その姿と、今の心春 《こはる》の姿は瓜二つだった。作中屈指の人気キャラクターと言われるキラルとそっくりだったのだ。


「ちなみに、その、ど、どう、かな?」


 キラルについて思い出していると、心春こはるが不安そうに尋ねながら見上げて来る。まあ確かに、初めて会った相手にコスプレを披露するなんて不安に決まっているよな。実際、心奏かなでも最初は逃げようとしたわけだし。

 ここは、素直な感想を伝えておくとしよう。


「キラルみたいに、可愛いと思うぞ」

「……ふぇっ!?」

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