第14話 顔合わせ

「待ち合わせ時間には、まだ少し早いか」


 十時集合で、まだ九時五十分。スプリングが住んでいるのはここから少し離れた場所らしいし、早めにつくのは難しいだろう。


「まあとりあえず連絡しとくか。えっと、何か目印になりそうなものは……」


 待ち合わせと言ってもお互いに顔を知らない現状だ。せめて何か目印になるものを探してその前で待って居よう。

 と言ってもここは既にイベント会場の前。多くの人でごった返し、心奏かなでと同じく待ち合わせをしているであろう人がめぼしい場所は既にとられてしまっている。


 これは困った、とさらに視線を巡らせていると大量の集団を発見した。


「なんだあの人だかり。あんなところに何かあるのか?」


 皆スマホを見下ろし突っ立っているし、何かあるというよりは有名なシンボルでもあってそれを待ち合わせ場所にしている集団、と言った感じ。ただ、それらしきものは見当たらなかった。


「ハチ公みたいな像があるわけもないし……って、もしかしてあれか?」


 人だかりの真ん中に、何やら他の人々とは明らかに違う異色の輝きを持つ者があった。それは恐らく服なのだろうが、色とりどりの服を着る人がいる中一人だけくっきりとした白黒を身に纏うシックな少女を心奏かなでは見つけた。

 背丈は低く目印には相応しくないような気もするが、それはそれとしてあのモノトーンは目立つ。世の中には変わった格好をした人がいるんだな、なんて思いながら視線を向けているとその人物と目が合った。


「ども」


 距離もあるので聞こえることはないだろうが、目があった人には取り合えず会釈をするのが心奏かなでの流儀だ。

 

 その子は非情に小柄で、周囲に集まった大抵の人々の胸の丈より低い。何やら片目には眼帯をはめており、服装は先程確認したように黒と白で統一されている。全方向にふわりと広がるスカートの内側にはぎっしりとフリルが敷き詰められていて、心奏かなでは真っ先に異世界物に登場するお嬢様をイメージした。と言っても白と黒オンリーでは華やかさは無く、むしろミステリアス色強めだった。


「コスプレか? まあこういうイベントだしな」

 

 ライオブは殺伐としたサバイバルな世界観ナタメ衣装に華やかさを望むことは難しい。実際、ライオブにあんなキャラはいないためあるとしたら他のアニメやゲームのキャラのコスプレだろうが、人が多ければああいう人の一人や二人、いると言うものなのかもしれない。


「普段外に出ないから、ファッションのことはまるで分らんな。って待てよ、あの衣装、どっかで見覚えが……」


 最近見た気がする。確か、アニメの登場キャラクターだったような……。


 頭の引きだしを開こうと心奏かなでが難しい顔で唸り声を上げていると、少し先の方からざわめきが聞こえて来た。気になってそちらを見ると、先程の集団が大きく動いているようだった。あれだけの人が一気に動く理由など多くは無く、見たところ集団の集団にいた女の子が移動を開始したらしい。

 それも、心奏かなでの方へと歩いて来ていた。


「……」


 心奏かなでは何かを口にすることは無く、代わりにチャットアプリを起動してフリック入力を開始する。


 もしかしてお前か。


 コスプレ少女のスマホに着信があったらしい。彼女は立ち止まり、折り重なったフリルの隙間からスマートフォンを取り出す。いや、あれどこにポケットあるんだよ。

 と、少女が視線をスマホに落とし、指先を走らせ始めたタイミングで心奏かなでも視線をスマホに戻す。


 そうだ。


「……」


 心奏かなでは静かにスマホをポケットにしまった。

 そして、踵を返した。


「おい、待て」


 直後、アスファルトの上をローファーが踏む音が警戒に鳴り響き、心奏かなでの書いた手の服の袖を何者かが伸ばした。


「なぜ逃げる」

「初対面の相手に追い掛けられたら普通逃げるだろ」

「むぅ、そんなにこの服がご不満か」


 心奏かなでは極力逃げたい衝動を抑えながら声のする方を振り返る。


「まあとりあえず、初めまして」


 そこには漆黒のドレスを纏った片目眼帯の少女が、所狭しとフリルたっぷりのスカートを揺らして立っていた。

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