第8話 動く点の軌道に規則性は無い
「結局大したもの買えなかったわね」
「そう? 午前中よりは成果あったんじゃないかな」
昼食後に服を更に買い足した三人は帰りのバスの最後尾に並んで座っていた。
「まあそうね。少なくとも外に出ても恥ずかしいなんてことはもうないんじゃないかしら」
「
なんて言う
「そうか? ありがとな」
「うん。ね、ねえ
「俺でいいのか? 大した力にはなれないと思うが」
「う、ううん!
「まあ、今日のお礼もしたかったし、そうじゃなくてもしょっちゅう世話になってるからな。俺でよければ」
「う、うん! よろしくね!」
「じゃあね、
「ああ……
「ううん、気にしないで。それじゃあ、また月曜日に」
玄関前で分かれて、
「いやー、家が近いっていいよね。すぐ行ったり来たり出来る」
「遅くなって一人で帰る時も特に気にすることないしな」
「ご飯も作ってくれるし、
「え? ああ、まあ」
「あー、
「そう、だな?」
隣の家の玄関の前に立った
「ねえ
「なんだよさっきから、なんかテンション高いな」
「えー、別に? それはそうとあんた、好きな事かいるの?」
「……本当にどうしたんだ? 普段そんなこと聞かないだろ」
「ちょっと気になっただけよ」
「で、どうなのよ」
キッチンで夕食の支度をしている母とリビングのソファで寛いでいる父にただいまを告げてから、二人は自室のある二階を目指す。
「
「……その、二次元には当然いますよって言い方何よ」
「そのまんまだよ」
「はぁ」
「まあいいわ、とにかくいないってことならそれでいい」
「そんなこと知ってどうするんだよ」
「どーもしないわよ。服とか髪を気にしだしたから、もしかしたらって思っただけよ」
もしかしたら、なんなのだろうか。彼女が出来たんじゃないか、好きな人が出来たんじゃないかって、そういうことだろうか。
「あり得ないな」
「誰かを本気で好きになったことなんて、一度もないし」
このキャラ可愛いなとか、好みかもと思ったことはある。もちろんアニメやゲームのキャラクターにはなるのだが。でも、現実を生きる誰かのことを本気で好きになった試しなど一度もない。
それどころか基本的に他人より喜怒哀楽を感じにくいのだ。
「誰かを好きになるなんて、どんな感覚かすら分からん」
一つ、世の中の大抵のものはあったら嬉しいが無くてもいい。必要以上を望まぬべし。
一つ、事実は事実として受け止める。それが自分に対して否定的な内容であろうとも、それを客観的に評価して受け止めるべし。なお、相手の物言いが良くても改善するとは限らない。
一つ、嫌なことは嫌だとはっきり言う。逃げることは罪じゃない。逃げたいと思えば真っ先に逃げるべし。
そんなマイルールを抱える少年に、恋はまだ時期相応のものだった。
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