第6話 点の特性は常に変化し続ける

「う、う~ん……まあ、いいんじゃないかしら」

「ちょ、ちょっと心羽みうちゃん! えっと、よく似合ってると思うよ、心奏かなで君!」

「あのな心梛ここな、いいか。フォローする時はせめて引きつった笑みを隠してくれ」


 試着室のカーテンを開いたばかりの心奏かなでは握ったその手をすぐにでも元に戻したい衝動に襲われた。


 一通り、流行りの服装と言うものを試したと二人は言った。そのすべてを心奏かなでは着てみたのだが二人は一度として自然な笑顔を見せなかった。心奏かなでは毎回顔をしかめた。


「まあ、なんだ。流行りもんは似合わなかったが、ジャージよりはましだろう」

「そうね。その格好ならジャージよりは幾分かましよ」

「ご、ごめんね。あんまり力になれなくて」

「気を落とすな心梛ここな、元が悪いから仕方ないんだよ」


 双子ながらに心奏かなで心羽みうは目鼻立ちが整っているほうだと思っている。女性の顔など数えるほどしか覚えていないが、その中では上なのではないだろうか。そう思うからこそ心奏 《かなで》は自分の顔の出来について多少なりとも疑問を抱いている。

 綺麗とは言えない顔の造形、悪い目つき、ぱっとしない雰囲気。これが本当に双子なのだろうかと、鏡に呟きかけたことも少なくなかった。ここ数年では、一度も呟いた記憶はないが。


 だが、心奏かなでの呟きに心梛ここなは少し慌てた様子を見せる。


「そ、そんなこと、ない、と……思うんだけど」


 咄嗟の否定は尻すぼみになっていた。心奏かなでは何も言うまいと口を結び、心羽みうはこれは駄目だと頭を抱える。そんな二人の表情を見て、心梛ここなは乾いた笑みと同時に苦笑いを零した。


「あっ、そ、そうだ! か、髪! 髪の毛を、整えてみようよ! 心奏かなで君の髪、ぼさぼさだから!」

「ぼさぼさ、な」

「ああっ、別に悪い意味じゃなくって! なんと言うか未完成って言うか足りないって言うかああもうっ、心羽みうちゃん!」

心奏かなで、いいから美容院に行くわよ!」

「……分かった」


 ジャージで美容院に行くのは格好が付かないと心羽みうにはっきりと言われ、比較的似合った服を1セット購入して三人は服屋を後にした。


 やってきたのは二人が行きつけにしている美容院だった。


「あれ、心羽みうちゃんに心梛ここなちゃん。どうしたの? 前来たばっかりなのに」

「今日は私たちじゃないよ、こっちのぱっとしないの」

「誰がぱっとしないのだ……しまった」


 心奏かなでにとっては始めて来る場所だ。経験者である心羽みうたちの様子を伺おうと声を潜める予定だったのだが、つい口を出してしまった。


「ああ、そっちの。えっと、待って当ててみる。分かった! 噂の心羽みうの双子君だ!」


 どうやら今この美容室は他にお客がいないらしい。手の空いている様子の、恐らくこの店の店主らしき女性が楽し気な様子でそんなことを言った。


「そう、その不出来な弟。こいつの頭を何とかして欲しいのよ」

「み、心羽みうちゃん、その言い方だと誤解しか生まれないよ! そ、その、髪の毛を、綺麗に整えて欲しいって意味です! あ、あと心奏かなで君は不出来なんかじゃないです!」

「大丈夫、分かってるよ。さ、双子君。ここに座って。身を任せてくれていいからね~」

「えっと、分かりました」


 とりあえず言われた通りにする。郷に入っては郷に従い、その場の流れに身を任せる。これが心奏かなでなりの世渡り術だった。


「え、ちなみにリクエストとかあるの?」

「あー、えっと」

「大丈夫よ、一番似合うと思う髪型にしてやって。こういう時はプロに任せるのが一番なんだから!」

「俺の意見を聞けよ……いやまあ、特にないですけど」

「そういうことならやってみようかな! 久しぶりに好きなカットが出来そうで嬉しいわ! お客さんの中には絶対に似合わない髪形にする人がいるからちょっとうんざりしてたんだよねぇ」

「それ、私たちの前で言っていいの……?」


 ここの常連らしい心羽みうが微妙そうな顔をしたが、美容師のお姉さんは気にした素振り一つ見せなかった。心羽みうがため口なのもありどうやら相当仲がいいらしい。


 ならまあ、任せてもいいか。

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