第5話 点はそれぞれ特性を持っている

「って話をしたはずなのに、なんでついてきちゃったのかしら」

「いいんじゃないかな。心奏かなで君の普段着を買うお手伝いだと思えば」


 心奏かなでに彼女が出来た疑惑による騒動が雛沢ひなざわ家で起こったその週末、心奏かなで心羽みう心梛ここなを助っ人にショッピングモールを訪れていた。


「悪いな心梛ここな、付き合わせちゃって」

「ううん、大丈夫だよ。頼って貰えて嬉しいから」

「ちょっと、なんで私にはないのよ」

心羽みうは数学見てやっただろ」

「なんで私があんたと出かけてあげるのが心奏かなでに勉強教えられるのと同等なのよ」

「なんでそんなに自己評価高いんだよ……あと、教えられた言うな。教えろって言ったんだろ」

「ほら二人とも、こんなとこに来てまで喧嘩しないでよ。ただでさえ心奏かなで君、私たちの間にジャージで挟まってて目立つんだから」


 ショッピングモールの真ん中で言い合う二人を心梛ここなは優しく諫める。


「そうよ! 私と心梛ここなみたいな可愛い子連れてるのにその格好は何なのよ!」

「いや、こんな服しか持ってないから服選び付き合ってくれって言ってるんだろ?」

「……正論言われると言い返せないじゃない」


 毒気を抜かれたらしい心羽みうは鞄を肩にかけ直す。


「ま、行きましょ。実際そんな格好で隣歩かれたら恥ずかしったらありゃしないし」

「そ、そこまで言わなくてもいいんじゃない? 心奏かなで君も、あんまり気にしないでいいからね?」


 気まずそうに心梛ここなが言うと、辺りを見渡していたらしい心奏かなでがあっけらかんと言う。


「え? ああ、うん。まあ事実だし。頼むよ、せめて一緒にいて恥ずかしくないと思えるくらいにしてくれ。こっちも申し訳ない」

「あ、あれ? なんか思ってたのと違う……」

「ふふっ、まだ心梛ここな心奏かなでのことを理解していないみたいね」


 戸惑う心梛ここな心羽みうは胸を張って言う。


心奏かなでのライフスタイルはあったら嬉しいけど無くてもいい、事実は事実として受け止める、嫌なことからは徹底的に逃げる、だもの。言いがかりじゃない限り素直に受け止めるのよ」

「つまり心奏かなで君に言い返されてる心羽みうちゃんは言いがかりしか言ってないってことじゃ……」

「……こほん、さ、出発するわよ!」

「こいつ話を逸らしやがった……」


 不利を察した心羽みうは咳払い一つして歩き出した。


「それで、どこで買う? まずはお手頃なところに行く?」

「そうね。心奏かなでにはそれで十分じゃないかしら。というか、突然値の張るものを買わせても勉強にならないでしょう」

「気遣いありがとな」

「ええ、ありがたく思いなさい」


 皮肉だって分からないのか、と内心思いつつ心奏かなでは二人の後ろを付いて行く。


 周囲から視線を感じる気がする。気のせいだというのは分かっているが、心羽みうに言われた通り決して馴染んだ格好ではなく一緒にいる二人はしっかりとオシャレした花の女子高生だ。それに付いて行くジャージ姿の冴えない男。

 心奏は、自分がどれほど場違いに見えるかを痛感しながら歩いていた。


「まあ、ここよね」

「そうだね。ほら心奏かなで君。どんな服がいいか、選んでみて」


 やってきたのは心奏かなででも知っているような有名な洋服チェーン店。


「……二人に全部任せてもいいか? 俺、数学でも取り合えず式を一つ誰かに解いて貰えた方が理解が速いんだ」

「あんたね……そんなんだから成長速度が遅いのよ。いつまでも中二病から卒業できないで」

「こら、心羽 《みう》ちゃん。いちいち突っかからないの。大丈夫だよ心奏かなで君、私たちに任せて」

「ま、しょうがないわね。付き合うと言ったからには最後まで面倒見てあげるわよ」

「釈然としない……」


 苦虫を嚙み潰したような顔をして、心奏かなではしばらく二人の跡を付いて行くだけの人形と化した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る