第2話 グラフ上の点は不規則に増える

『へー、リア充もアニメ見るんだね』


 ヘッドセット越しに聞こえてくるのは心奏 《かなで》と同年代と思われる若い女性の声。


「スプリングはアニメ見ないのか?」

『私は別に見ないかなー、基本ゲーム専門』

「確かに。ゲーム以外の話題出さないもんな」


 心音ここねに初めて話し掛けられた日の放課後、心奏かなでは自室で独り言を呟いていた。いや、正確にはマイクを通して画面の向こうの友人を話しとしていた。


『今はライオブで忙しいからね。アニメを見る時間はないね』


 ライオブ、Life of fantasy。最近話題の複数人プレイ推奨のオンラインRPGだ。二人は今世界を共有して攻略に励んでいた。


「アニメなら流し見でもいいんじゃないか? コメディ系とかだったら全然問題ないと思うぞ」

『そーゆーもん? それならおススメ教えてよ』

「いいぞ。色々あるけど、サブスクの加入は?」

『するよ。金なら人よりあるからね』


 冗談めかして言うスプリング。その名前はもちろんインターネット上での活動名だ。


『でもそっかー、カナデにも女友達が出来たんだね~。お姉さんは嬉しいよ』

「誰がお姉さんだ。スプリングだって高二だろ」

『まね。あ、そういえばその、何ちゃんだっけ? にもアニメ教えてあげるんでしょ? ついでに教えてあげなよ』

「あー、そうだったな。そうするか」


 ゲームの画面をいったん閉じた心奏かなではチャットアプリを開いてスプリングにおすすめのアニメタイトルを送信する。 

 ついでとばかりに新しくフレンド欄に追加された心音ここねの名前をクリックする。


「……なあ、女子への連絡ってどうするんだ?」

『いやいや、普段通りにやればいいじゃん』

「普段通りって言われてもなぁ。女友達なんていたことないし」

『え、カナデそれマジで言ってる?』

「なんだ、同情しようってのか。ああそうだよ、というか友達だってまともにいない」


 不貞腐れるように心奏かなでが言えば、スプリングは乾いた笑い声をあげる。


『そ、そうか……カナデにとって私は友達じゃなかったんだね』


 ヘッドセットから聞こえてくるスプリングの演技染みた発言に心奏かなでは小首を傾げる。


「何言って……ああ、そうか。スプリングって女だったな」

『そこぉっ!? え、嘘!? 私、女だと思われてなかったの!?』

「いや、普通に忘れてた。そういえばスプリングも人間だもんな、性別くらいあるよな」

『まさかの人外認識!?』


 大仰なリアクションを取るスプリングに心奏かなでが笑えば、スプリングもつられたように笑いだす。


『ちょカナデ、流石にひどいって!』

「悪い悪い、うっかりしてた」

『うっかりで人間を止めさせないでくれないかな!?』


 ふざけ合った会話の合間に、スプリングにしてた様に心音ここねにチャットを送る。アニメの名前を羅列し、それぞれ少しだけ概要を添えた内容に飾り気は無かったが、心奏かなでが気にすることは無かった。


『ああ、笑った笑った……あ、そうだ! ねえカナデ、来週の休日、暇?』

「暇だけど、どうかしたのか?」

『私が人間の女だって、証明してあげる!』

「どういうことだ?」


 少しだけテンション高めなスプリングの言っていることが分からなかった心奏かなでが素直に尋ねれば、スプリングはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの鼻高々な声で言った。


『今やってるライオブのオフイベ! 一緒に行くよ!』

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