動き続ける心と心の距離を求めなさい

シファニクス

序章 グラフ上の点

第1話 グラフ上には二つの点がある

「ねえ雛沢ひなざわ君、何見てるの?」

「え?」


 教室の中で心奏かなでが読書をしていると、ボブカットの女子生徒が話し掛けて来た。

 四月前半、新年度になってから数日が経った頃。学年が一つ上がって高校二年生となった心奏かなでは去年と同様クラスメイト達と馴染めずに昼休みも一人読書に耽り続けていた。

 そんな中だったので、当然心奏かなでは彼女の名前を知らなかった。


「えっと……」

「あ、新嶋にいじま心音ここね。よろしく。それ、先週出たばっかりの新刊でしょ?」

「そうだけど……」


 心音ここねが指差すのは心奏かなでの愛読書の一つである長編シリーズ物のライトノベル。異世界ファンタジーもので少しエロ要素もあるので女子が見ることはあまりないと心奏かなでは思っていた。


「私、アニメだけだけど見てるんだ。最近第二シーズンが始まったでしょ? ねえ、今期のアニメ、他に何が面白いのか教えてよ」

「……いいけど、すぐにタイトル出てこない。また今度でいい?」

「教えてくれるの? ありがと! あ、だったらさ、帰ってからチャットで教えてよ。これ、やってるでしょ?」


 心音ここねがスマホを取り出して見せた画面に映っていたのは、近頃では主流となったチャットアプリのフレンド登録画面。


「やってる」

「よかった! じゃあ、このQRコード、読みこんでよ」

「……分かった」


 言われるがままにスマホを取り出し、数日ぶりにチャットアプリを開く。そしてフレンド登録画面に映り、心音ここねが手にしたスマホに映るQRコードを読み取る。


「わっ、ありがと。それじゃあよろしくね、雛沢君!」

「……覚えてたら」

「うん、それでいいよ。じゃあまたね」


 ボブカットの女子生徒、新嶋心音ここね。顔合わせからの数日間横目で観察していた心奏かなでの予想ではクラスの中でも最もカーストの高い場所にいるような人。

 容姿はどちらかと言うと整っている。いや、もしかしたら可愛いのかもしれない。誰かの顔を見るときに、薄っすらとフィルターがかかって見える心奏かなではよく顔を覚えていなかった。

 中肉中背、で合っているのだろうか。秀でたところは無くとも、欠けているところがほとんどないような、そんな人に見えた。


 これが心奏かなで心音ここねの初めての出会いだった。

 ここに、二つの点が生まれた。

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