第12話 セノア・チェグレット。
突然現れた執事家系の男──セノアに驚きつつも、僕は冷静を装っていつも通り自己紹介をする。
「私はクルフ・アルセイダーです、よろしく」
僕は右手をセノアに差し出す。
「よろしく、クルフさん」
彼は笑顔でその手を取り、固い握手を交わした。
(……?)
握手の瞬間、僕は一つの違和感を覚えた。
こいつ男か?という違和感を。
女性しか生まれないアルセイダー家とは間反対に、チェグレット家では男性しか生まれることがない。
勿論、目の前にいるセノアもチェグレット家の一人であるのだから執事服を身に纏っている。
髪も長いとはいえ、彼は何処からどうみても男そのもの。けど、僕が握った手は明らかに女の子のそれである。
男のように振る舞ってはいるものの、違和感を持った上で見てみれば、確かに女の子のようにも思える。
どっちだ!?一旦聞いてみる!?
でも本当に女の子なら僕と同じように、性別を隠しているのかもしれない。ううん、迂闊に聞くのはやめた方がいいか。
うん!ボロ出すの待とう!!
「そういえば、クルフさんは何を試行錯誤していたんですか?ちょっと前に呟いていましたよね?」
セノアに言われて、ああそんな事言ってたなと自分の発言を思い出す。独り言聞かれているのって、結構恥ずかしいな。
「大会に出るにあたって……僕が使える魔法をどうやって戦闘で活用しようかって、考えてたんです」
「魔法ですか」
「はい。五歳児なので使える数少ない魔法を工夫しないと、戦闘すら出来ませんから」
「そうですか……」
流暢に話す五歳児を見て、多分セノアは引いているのだろう。「え、こんな話す?」って目で僕を見ている。
話すのだから仕方ないだろう?
ま、引かれようと僕は自分の秘密がこれ以上バレなければそれでいい。そこだけ注意して話すようにしよう。
僕がうんうんと意味もなく頷いていると、セノアが右手に赤色の魔力を灯し始めた。
「クルフさんが何属性の魔力を持っているか分かりませんが、どんな魔力でも反転させることができます」
「反転……?」
セノアは右手にある赤色の魔力を青色に変化させてみせる。
「これが反転です。僕は火属性魔力を持っているので、反転させて水属性魔力を得ることができます」
「おお!!」
僕は目を輝かせた。
魔力が無限の可能性に満ちていることはだいたい理解できていたが、まさか反転することで幅が広がるとは知らなかった。
もしかすると、この技術を使えば【最強の一端】の新たな力を引き出せるのかもしれない。
いい情報を得たぞ。
「これは戦闘でも応用できる技術です。……少しは試行錯誤の幅が広がりましたか?」
セノアはニコリと微笑み、僕に問う。
この人、めっちゃいい人じゃないか!!
「はい!新しい考え方が出来そうです。ありがとう!」
「どういたしまして」
僕はセノアにお礼を言って、レクナの時同様に少しの間だけだが雑談をすることにした。
知識を得るだけ得てさよならーはちょっと寂しいし、この人の性格とかを知るためにも会話をしておこうと言う訳だ。
かと言っても大会まで時間が有り余っているのでもないので、実際に雑談できたのは十分ほどだった。
けれどチェグレット家の人だから出来る話なんかもしてくれて、大変有意義な時間を過ごせたと思う。
もしかしたら敵同士になるかも知れないけれど、僕はセノアと仲良くなれたと実感できた。
「楽しい時間でした!ありがとう、セノア!!」
僕がお礼を言うとセノアは嬉しそうに言う。
「そう言ってくれたのは、クルフさんが初めてかもしれないです。……僕もとても楽しかった」
そう言うセノアは何処か寂しそうでもあった。果てしない孤独の中を彷徨っているような、そんな片鱗が見えた気がする。
「また私と遊んでくれますか?」
僕はセノアに問いかけた。
僕らの交流がここで途絶えてしまわないように、次への布石を敷いておく。そうすれば、いつかまた話せるだろう。
「ええ、絶対に……!!」
セノアは僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
優しくも何処か力強く、彼は僕の体を抱きしめる。
あったかい、これが絆か……
(……ん?)
そして、再度覚える違和感。
背丈の差から、抱きしめられると僕はセノアの胸元に顔を突っ込むことになる。それはいいんだ、それは。
問題はそこじゃ無い。
顔に伝わる、男ではあり得ない柔らかな感触。ふわふわとした、前世の私なら馴染みの深いあの感触。
これは、おっぱい!!
間違いない、私は確信した。
セノアは、絶対に女の子だ!!男装執事だ!
でもそれは言ってはならない。なぜなら、顔を上げた時、セノアの顔は真っ赤に染まり大粒の涙を浮かべていたからだ。
何で泣いているのはわからない。
けど……友達には、なれたのかな?
もしそうならば、セノアが言ってくれるまで僕からこれを聞くようなことはしないでおこう。……絶対に。
「じゃあ、お互い大会頑張ろうね」
セノアが体を離してくれた時、僕は言う。
「はい。クルフさん、お気をつけて」
その時のセノアの表情は少し前向きなものだったかも。まだ寂しさが全部取れた訳じゃ無いけれど、前よりかはずっといい。
「うん!」
僕は元気よく、大会へ足を進めた。
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