第11話 王国御三家大会に出場します。
今日は王国御三家大会。
何の捻りもない名前をしているが、王国の主戦力となる家が実力を競い合う名誉ある大会だったりする。……らしい。
僕はそんな大会に家から選ばれた期待のルーキーではなく、嫌々参加した女装メイドである。
「クルフ、頑張ってね」
僕が剣を携え、眠そうに会場付近を彷徨いていると不意に後ろからタルラ姉さんに声をかけられた。
応援グッズらしきものを重装備し、自分はさぞ大会なんて出ませんみたいな顔をしている。だが、姉さんも大会にしっかり出ることになっている。
「タルラ姉さん、僕の応援で気を抜きすぎないで下さいね?自分の試合もあるんですから」
「大丈夫、私に勝てない敵なんていないよ」
どっから湧いてくるのだろうか、その自信。
まだ姉さんも十歳だよ?いくらなんでもそれは虚勢と言わざるを得ない。まぁ、心強い姉ではあるよね。
「慢心は身を滅ぼしますから、しっかり戦ってください。頑張って、タルラ姉さん!」
「クルフ、私が優勝したら結婚しよ?」
「お断りします」
僕が丁重にお断りすると、ええと泣き声を出して別れを惜しみ始めた。が、僕は「行ってきます」と足を会場へ進めた。
ってか、なんで僕求婚されてんの?
「心配はしていましたが、とうとう弟に求婚までしましたか……はああ、姉としては心配です」
多分一連の流れを見ていたであろうカナハ姉さんが、僕の元へ駆けつけ話しかけてきた。
心配してたって事は、僕の知らない場所で姉さんはそれらしき行動の片鱗を見せていたのだろう。うーん、こっわ。
「大丈夫です。求婚されたと言っても姉さんですから。知らない人よりはマシですよ」
「クルフがそう言うなら構いませんが。いえ駄目な気が……まぁ今はいいでしょう。優先すべきは大会ですからね」
姉さんは納得出来てない様子だが、心機一転し話を大会の内容へと移行させた。
「カナハ姉さんは大会には出られないのですか?」
僕はちょっと気になっていたことを聞く。
僕ら姉弟の中では一番強いカナハ姉さんが、少しばかりも自分が出る旨を告げたことがなかった。
普通、実力勝負ならカナハ姉さんの出場は絶対である。だから気になったのだ。
「今回の大会には出場しませんよ。なにせタルラとクルフの初舞台ですから、そっちに目を向けさせたいんです」
とカナハ姉さんは言う。小声で「私が出ると全部掻っ攫ってしまうので」とも言っていた。
姉さんの発言的に、僕らを引き立たせるためにわざと出場を蹴ったのだろう。何してくれてんのこの人。
「取り敢えず、クルフが強いのは重々承知ですので、派手に披露して来てくださいね」
姉さんは相変わらず満面の笑みを浮かべている。
ま、しょうがない。頑張るとしますか。
「ではカナハ姉さん、僕はこの辺りで失礼します。僕の活躍、見ててくださいね」
「はい、頑張ってきてください」
経緯はどうあれ、姉さんが用意してくれた初の晴れ舞台だ。それを無碍にしてしまうのは大変惜しい。
姉さんの悲しむ顔も見たくないし、ここは少し派手に打ちかますとしよう。
そんなこんなで、僕は大会の会場へと足を踏み入れた。
大会は国の中心部にある大きな闘技場で行われる。現地には多くの観衆が押し寄せ、辺りはごった返していた。
僕は選手入場口からすんなりと入れたので、特に困ったことに遭遇することもない。
こういうバックアップが出来ている点は、異世界も現代社会に負けていないと言えよう。
「さて、大会の内容は……一対一のトーナメント方式と」
選手控え室にデカデカと貼られた大会概要を一読し、一日の流れを把握。その後大まかに予定を立ててイメージトレーニングを始める。
神から貰った【最強の一端】の使用は厳禁だ。【リガド】を闘技場内で撃とうものなら、会場がどうなるか分かったものではない。
それにあの場に居合わせたウィルムンドの人間にバレるかもしれない。それは勘弁である。
なので大体の戦闘は【身体強化】と【隠密】で乗り越えることにしよう。師匠との修行で培った体術と剣術なら良い感じに戦えるだろう。
こんな感じでイメージトレーニング終了。
「あれは……特に変わりないな」
僕は脳内に広がる万能属性魔力の光を見たものの、特にこれといった変化はなし。神の言うとおり、努力次第で変化するので間違いないようだ。
「でも努力ってどのラインを指すんだろう。単純な修行とか勉強とかのことなのかな……?」
その線で探ってみてはいるが、万能属性魔力が誕生して以降の変化はない。魔法の熟練度と知識量だけでは、大した成果は得られないのかもしれない。
となると後は何だろうか。
考えられるのは時間経過か知識の応用。多分前者よりも後者の方が可能性は高いだろう。
万能属性魔力を生成した時も、普通の知識だけでは行わないことをしていた。その点から考えれば、知識の応用を努力とみるのかも。
「試行錯誤しろってことか……」
それもまた努力だよね。
僕は大きなため息を溢し、大会が始まるまでの時間を待とうとしていると不意に声をかけられる。
「……何を試行錯誤するの?」
僕は声の方へ目を移す。
キリッとした目に整えられた眉を持ち、黒と青のメッシュ長髪の美少年が立っていた。背丈は明らかに僕より高い。
年齢はタルラ姉さんよりちょっと上だろう。
美少年はその長い髪を紐で結びながら、僕との距離を詰めてきた。
「突然ごめんね。僕はセノア・チェグレット、執事の家系チェグレット家の者さ」
執事家系来たぁ!!
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