第10話 レクナと仲良くなるために。

 バレてる!!


 完全にバレてる!!


 まじでどうしよう!?


 僕の語彙力が焦りのあまり完全に崩壊した。今なら赤ちゃんごっこも難なくできてしまうのかも知れない。


 というおふざけをしている暇すら与えられてない現状。どうやって切り抜けようか。


 一番いいのは、レクナという目の前の女の子が僕の正体を誰にも明かさないことだけれど……そんな上手い話があるとは思えない。


 カナハ姉さんに【隠密】と【完全修復】がバレたのとは訳が違う。


 勝手に家を抜け出してド派手に魔法ブチかましましたなんて知られたら、カナハ姉さんになんて言われるか。


 怖くて想像もつかない。


 隠さなければ。大会に出るまでの間にレクナと親睦を深め、絶対に昨夜の事を口止めさせなければ。


「クルフ、レクナさん。じゃあ、私たちは大会の準備と話し合いがあるから二人は適当に遊んでいて」


「かしこまりました」


 と礼儀正しくレクナは返す。


「はーい」


 僕は身内なので特に気にせず返す。


 姉さんは話しながら、目で合図を送ってきてくれた。


 『なんでこの子が真実を?』と言っているようだが、ここで本当のことは話せない。どうする?適当にはぐらかすか。


 『聞き出します』僕はそう返し、レクナを僕の部屋に招くことにした。ここが一番話しやすいからね。


「あんまり物が無いんですね……驚きました、まさかクルフ君がアルセイダー家のメイドさんだったなんて」


 やっぱり分かっている。二人になった途端に君呼びへ戻している辺り、この人はやり手だ。


 下手に誘導すると返り討ちに遭いそうだ。


「僕の変装、どうやって見破ったんですか?」


 なので、初手は分かっている程で話を進めることにした。


「見破るも何も、あんな衝撃的な出会いをしたのですから分かりますよ。それに、命の恩人の顔を、忘れるわけもありません」


 そうか。迷いとかはなく、完全に彼女の目と認識する力が強いばかりに変装は見抜かれたという訳か。


 では、あとはどう口止めさせるかだな。


 僕はうーんと次の発言を考える。


「ああ、あまり考え込まないでくださいね!?……私は、貴方の事を恩人だと思っています。そんな人の秘密を、公に言うことはしません」


 考えていることまでバレているとなると、特に考えないで普通に話したほうが仲良くなれるか。


「そうですか。このことは内密に。まだまだ隠しておきたいので」


「ええ、絶対に。あ、話さない方がいいのは……男であるという事と、昨夜の件でいいですよね?」


「そうです。お願いします」


 というお願い話をしたのち、僕らは小一時間他愛のない話を重ねた。


 昨夜何が起こったのかとか、あのあと無事に帰れたとか。他の人に聞かれたらマズイけど、幸い誰も来なかったので本当によかった。


 ただ、一時間話しただけだがレクナは本当に僕の秘密を言うような人では無いことがわかった。


 逆に気を抜くと感謝されてしまう。


 助けてくれたこと、二次被害ではあるが仮面を壊してくれたことで決心がついた、などなど。まぁ感謝される分には嫌ではないので、そこは特に触れなかった。


 結果的にいい親睦会にはなったようだ。


 僕とレクナの関係は良好。このまま付き合いを続けていれば、厄介ごとに発展することはまず無いだろう。


 ああ、疲れた。


 三日ほどまともに睡眠をとっていない。【完全修復】で眠気は覚せられるが、気を抜くとすぐ体が動かなくなる。


 限界か……駄目だ、レクナがまだいるのに。寝たら…だめ、なのに……


「大丈夫ですよ、クルフさん。お姉さん方が来られましたら、起こしますね」


「そう?じゃあ、少しだけ……」


 僕の意識が戻ったのは数時間後のことだった。


 完全に気を抜いていたが、僕が今共に部屋で過ごしているのは、カナハ姉さん以外の身内が交流のない一人の女の子。


 当然、レクナは一番厄介な僕の姉さんを知らないわけで……起きた頃にはそこは修羅場と化していた。


「貴方は誰なんですか!!クルフに一体何を……?頭なんて撫でて……まさか事後ですか!?事後なんですね!!??」


 起きて早々、僕の姉タルラ・アルセイダーは僕の友に対して謎のいちゃもんを連発しているのだった。


「ええええ!?私はクルフさんとは何もしていませんよ!疲れていたそうなので、膝を貸しただけで……」


 当然初対面なので対応に困るレクナ。あわあわとパニックに陥り、助けを求め僕の顔をじっと見ていた。


「膝を貸した……私のクルフに!?私だってまだ膝枕してないのに!!ああ、クルフが寝取られた……」


「寝取るって何ですか!!私は幼児に手を出す痴女じゃありませんよ!!」


「変態はみんなそう言うのよ!!」


 本当に僕の姉さんが申し訳ない。時間が経つたびに姉さんのいちゃもんはエスカレートしていく。


 駄目だ。そろそろ止めないと、歯止めが効かなくなる。


「タルラ姉さん。僕は何もされてませんし、レクナは僕の友人です」


 静止させようと僕が一言挟むと、先ほどまで冷静さを失っていた姉さんは一気に元の姿へと戻った。


 僕の一言で態度が急変するの、普通に怖いのでやめてほしい。人様にも少し嫌な気分を与えてしまうだろうし。


「僕は親切にされただけです。姉さんが僕を想ってくれているのはわかりましたから、一旦……レクナに謝って下さい」


 僕に促され、姉さんは渋々レクナに頭を下げる。でも心底不服そうな目をしていた。……反省してねえなこいつ。


 一応場が落ち着いたのでレクナに話を聞いたところ、うっかり寝てしまっていたら姉さんが乱入。あれよあれよという間に先程に至ったらしい。


 これは姉さんが悪い。あとで叱ろう。


「ごめんなさい、レクナ。多分姉さんも悪気はないんだ。ちょっと、いやだいぶブラコンなだけで」


 僕が謝罪するとレクナは大丈夫ですと許してくれた。


「お姉様がクルフくんを想っているのは嫌と言うほど伝わりましたから。……いいお姉様ですね」


 この状況でも他人を褒めるレクナ。本当にこの人は性格がいいのだろう。


 これを見て嫉妬している僕の姉とは違って。


 僕が呆れていると、レクナは姉さんに手を差し出した。


「自己紹介が遅れてしまいました。私はレクナ・リディフです。よろしくお願いします、タルラ様」


 姉さんは仕方なさそうにその手を取る。


「タルラ・アルセイダーです、よろしく……」


 とまあそんなわけで、場は綺麗に収まった。

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