第9話 カナハ姉さんの呼び出し。
朝起きると、珍しくカナハ姉さんの部屋に呼び出された。
特に呼び出されることをした覚えもないし、そんな感じの話を聞いたこともない。一体、何の用だろう。
「カナハ姉さん。クルフです」
部屋のドアを三回叩き、カナハ姉さんから入室許可が降りるのを待つ。なんか緊張するな。
「どうぞ」
ちゃんとメイド服は着て来たし、注意される点は無くして来た。どんな用事だろうと、ドンと来い!
「失礼します……」
とか細い声で言いながら部屋に入ると、カナハ姉さんの机の周りに見知らぬ大人たちが鎮座していた。
ふーあーゆー?誰やお前ら。僕の心の中は、これ一色に染まった。めっちゃ馬鹿っぽい、今後気をつけよう。
「よく来てくれました、クルフ」
とても笑顔で迎え入れてくれる姉さんとは正反対に、知らない大人の人たちは僕のことをとても睨んでいる。え、僕何されるの!?
取り敢えず、知らない人もいるし一応女の子のフリしておいた方がいいよな。男ってことはバレないようにしよう。
「それで、カナハ姉さん。用件は?」
僕が単刀直入に聞くと、姉さんは一拍置いてから僕に提案する。
「話の前に。椅子、座ったら?」
「は、はい!」
特に怒っている様子もないので、椅子に座る指示は姉さんの気遣いによるものと見て間違い無いだろう。
この感じだとあんまり気張らなくても良いのかもしれない。ほら、そう考えれば知らない大人たちだって……いや、絶対なんかあるわ。
さて、何が飛び出す。
あくまでも仮定だが、師匠のところへ行っていることはバレていない筈。【隠密】の効果は伊達じゃない。
うん、やっぱ分からないや。
僕は一旦椅子に腰掛け、姉さんの表情を伺う。彼女の表情は依然笑顔のままだった。
「さてクルフ。今日貴方に来てもらった理由は、ちょっとした腕試しの提案をする為です」
「腕試……し?」
腕試し?五歳児に?何を考えてるんですか僕の姉さんは。
「まぁ、腕試しって言うのは名目上なんです。一応そうなるかな、と言う考えで提案します」
僕は息を呑む。
山籠りとか滝修行とか言われたらどうしよう。普通に心配なんだけど!?
「王国御三家大会に出場してみませんか?」
王国御三家大会?なにそれ。
「なんですか、それは?」
「クルフも当然、王国御三家は知っていますよね?」
「勿論です」
王国御三家か。そういえば昨日なんか来てたよな、あのウィルムンドの人。名前までは覚えてないけど。
「それらが一丸となって年に一度行われる実力勝負の大会、それが王国御三家大会です」
「左様でございますか」
王国御三家大会については百歩譲ってわかった。けど、なんでそれに五歳児を出場させるかね。
普通もう少し歳を取ってからの出場で、実力を見せつけて「あいつは何者なんだ!?」ってなるのがセオリーの筈。
色々、すっ飛ばし過ぎてませんか?
何にせよ僕はまだ、そういう大会には出場する気は全くない。今は姉さんたちを応援する側に回っていたい。
なので全力を尽くして話題をずらそう。
「ですがカナハ姉さん、僕はまだ五歳です。出場には少し早いですよ」
「大丈夫です。実力を測るためなので」
はい、第一回目失敗。
「それに、僕はサクナ姉さんにも勝てません。歳が少し離れているとはいえ、そんな僕が実力を出せる筈もないです」
「問題ありません。以前の二人の戦いを見ましたが、サクナ相手にクルフは勝ち寸前まで追い込みました。十分でしょう?」
2回目も失敗と。
「決定的証拠に僕が使える魔法は【ガラス細工】と【身体強化】と【強度強化】だけですよ!?」
そうだ。僕は人にこの三個しか見せていない。後者二つはまだマシだが、前者に関しては陶芸魔法だぞ。戦えるわけがない。
さあ、この話はなかったことにしてもらおうか。カナハ姉さん!!
「嘘……ついてますね?」
「……え?」
「貴方は隠しているようですが、少なくとも【完全修復】なるものと【隠密】が使えますよね……?」
あっれ?何処でバレた?
「ふふ、それだけあれば戦えますよ」
万策尽きた。僕は大会に出なくてはならないのかもしれない。というか今、決定事項に昇格しただろう。
「なのでクルフ、貴方に王国御三家大会に出場してもらいたいのです」
側から見たら姉から弟への何気のないお願い。でも僕には、絶対に断れない圧力のある指令にしか取れない!!
多分、断ったら命はない。分かんないけど、カナハ姉さんから溢れ出るオーラが僕の勘にそう言い聞かせている。
なので答えは一つしかない。
「で、では……出場します」
「了解しました。クルフ、大会にはこちらの方も来る予定です。今紹介しますので、交流してくださいね」
半ば強制的に出場することになった僕に構うことなく、カナハ姉さんは部屋の奥から一人の女の子を連れてきた。
この体格、綺麗な瞳。何処かで……?
「クルフ、こちらは元仮面侯爵の名を持つ──レクナ・リディフさんです」
カナハ姉さんに紹介され、レクナと呼ばれた十五歳くらいの女の子が僕に手を伸ばす。
「よろしくね、クルフ君」
とても笑顔。凄い可愛いんだけど、今僕のこと君呼びした?
カナハ姉さんが凄い勢いで僕らのこと二度見したんだけど、大丈夫そう?
それに、元仮面侯爵……あ!!まさか、あの時に顔をバッチリ見られたから、この距離だと正体普通にバレてる!?
この現状において、僕の秘密の二つ目が公にされてしまいそうなのですが。
「よろしく、レクナさん。でも、私は女ですよ?君ではなく、さんの方が馴染みやすいです。どうも違和感が」
一応返事の時に工夫した。これで上手く軌道修正出来ればいいのだが、どうだろう。
「そうですね。今は、そうですね。訂正します。クルフさん……よろしくお願いします」
あー、絶対バレてるうううう。
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