第7話前編 神様に会いました。

 ってな訳で、僕は師匠を手助けするために彼の跡をつけている。出て行ってからだいぶ時間が経ったせいで、見つけるのには苦労した。


 【魔力障壁】でカバー出来ているので多分魔法は使い放題。【身体強化】で足を強くし、凄まじい速度の師匠を追跡する。


 どんな速度で走るのか気になったが、ロクなことにはならないな。走った場所には砂埃が蔓延しているし、軽く災害である。


 バッタの大群か何かに似ている。たまに現れる災害のやつ。


 まぁそれはいい。


 師匠は走り続けてからもう一、二時間経過している。街も村もだいぶすっ飛ばして来ているので、今何処にいるか……分かんない!


「でも流石にここまで遠くってなると、結構しんどいかもなぁ。師匠見失ったら帰るのは困難だ」

 

 そこが一番の問題でもあったりする。ついてくるのはどうにでもなるが、帰るには師匠の存在が必要だ。


 帰路なんて分かるわけがない。なので師匠に死なれると、僕も家に帰れなくなるのでどうにか生きてもらわなければならない。


 僕の大作戦は激化している。


「おや?」


 師匠の動きが止まった。もしかして、目標に遭遇したのか!?


「これは、結構ヤバそうだな」


 師匠は素早く背負っていた大剣を引き抜き、構える。その前には全滅寸前の小隊と、謎のフードの集団加えて使役されたドラゴンがいた。


 情報過多な現状に、僕は混乱しそうだ。


 では一旦整理しよう。そのために魔法【浮遊】で少し上空に移動します。


 全滅寸前の小隊は仮面侯爵らしき人物を中心に五、六人が残っている感じ。皆んな剣を構えて息を切らしている。


 フードの集団は如何にも怪しい本を片手に、地面に魔法陣を構築している。紫色の濁った魔力の光が彼らから滲み出ている。


 使役されたドラゴンだが、これは言葉の通りだ。駄目な点としたら、ドラゴンなんて普通現れないってことくらいだ。


 以上三点のポイントを前に、師匠は次の行動を考え続けていた。下手に動けないし、第四者として介入するには戦力差が酷い。


 さて、どう動くのだろう。


「仮面侯爵!救援要請を受け参上した。ジェドリック・パドラー、貴殿らに協力する」


 どうやら予定通り仮面侯爵と共に闘うらしい。ってか、師匠の名前初めて聞いた。ジェドリック・パドラーと言うのか。


 初めて出た情報に驚きつつも、変わりゆく戦況に目を落としてはいけない。僕はしっかりと分析した。


「ありがとう、ジェドリック殿」


「お気になさらないよう。今は危機を脱することに集中しましょう」


 危機を脱すると言っても、一人だけでも生き残れれば大勝ちみたいな状況だ。まずフードの集団をどうにかしないことには話が進まない。


 僕の予想ではフードの集団を倒せば、ドラゴンの使役は無くなる。そうすれば、ドラゴンは自由になり暴走する。


 あ、でもその可能性も駄目な気がする。


 かと言って彼らにドラゴンを倒すだけの余力があるとは思えない。


 最強と言われている仮面侯爵もボロボロだ。仮定だが、「最強」というのは噂に尾ひれがついた結果なのだろう。


 立ち振る舞いを見てもわかる。師匠が予想していた通りの子供だ。彼に場を制圧できる程の実力はないとしていい。


 本当に状況は最悪だ。


 帰れなくなることは覚悟した方がいいかも知れない。

 

「状況の説明をした方がよろしいか?」


 緊迫する中、仮面侯爵は師匠に問う。


「いや、それよりもまずは魔法が使える方がいるのかを知りたい」


 うん、やはり師匠は戦闘慣れしている。


 別に起こってしまった事を聞くより、今何ができるかを聞いた方が生存率は高くなる。良い判断だろう。


「魔法が使えるのは私を含め二人。支援魔法を使えるのは一人もいません」


 バフは見込めないと。この感じだとデバフにも期待は出来なさそうだな。


「そうですか。なら、少しずつ後退しましょう。私が駄目だった時の保険として、ウィルムンド家に要請を出しました。彼らが来てくれれば、勝機はあります」


「ウィルムンド!?剣士の家系の……?」


「はい。友人がいるのです。彼に頼みましたので、いずれ救援が来るでしょう」


「それまで生存すればこちらの勝利と」


 話が進んだな。


 やはり師匠は凄い。自分が死んだ時、戦闘不能になった際のバックアップもして来たのか。


 それに頼んだのがウィルムンド家なのは強力だ。


 僕らの国には王国御三家というのが存在する。この三家が国の最高戦力となり、我が国を武力国家にしている要因でもある。


 世界でも指折りの強さを誇る剣士の家系──ウィルムンド。他国や個人間の諜報に長けた執事の家系──チェグレット。そして、そこ知れぬのメイドの家系──アルセイダー。


 一応僕の家も御三家だったりする。


 その中でもウィルムンドはドラゴンを討伐した経験のある者が多い。場の制圧に関しても様々な知識を保有している。


 到着まで生存すれば、仮面侯爵の発言通りこちらの勝ちと言えるだろう。


 さて、どう生き残る。


 あ、でも万が一が普通にあり得そうだから僕が【魔力障壁】を何個か展開しておいた方が良さそうだ。


「────【魔力障壁】」


 結果は失敗。ああ、障壁の外に魔力を出さないようにしているから失敗率は高いのか。


 なら一回障壁を解除して────────


「────────社会見学はどうだったかな、僕?おやすみぃ……ヒヒ!!」


「しく、じった!!」


 腹部を貫く幾千もの光の剣。


 障壁を解除した瞬間の攻撃。多分、魔力の流れが変わり何者かに存在がバレた。


 まずい……意識が遠のく。


 体が……地面に落ちる。


 また、死ぬのか?嫌だ、そんなのは……嫌だ!!


 僕の願いは叶わず、意識は暗闇に包まれた。


    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 目を覚ますと、そこは最後に見た景色とは対照的に一面真っ白な空間だった。


「あれ、僕……死んだのかな」


 手足の感覚が薄い。動かせることには動かせるが、なんか空を触っているみたいで気味が悪い。


 あの攻撃……障壁無しで防御も出来なかった。死んでいても不思議ではない。


 こっからどうなるのかな。


「なんか辛気臭いね?どったん?」


 突然、目の前に見知らぬ美青年が現れた。


 白髪で切れ目、何処か子供みたいな風格。でも、そこ知れぬ何かを秘めているような人。


 切れ目から覗く瞳は何色とも表せない色をしていて、何秒も見ていたら吸い込まれてしまいそうだ。


「あ、君死んだと思ってるでしょ?」


「え、ええ」


 凄い話しかけてくるので、僕は答える。


「大丈夫、ここは生と死の狭間。君はまだ死んでいない」


「なんでそんな事、分かるんですか?」


 生と死の狭間?この人は何を言っているんだろう。でも、何でだろう。嘘を言っているようには思えない。


「何でかって?じゃあ自己紹介しようか。────僕は君の世界でいうところの神。アイ・アム・ゴッド!!」


 とうとう神が出て来たか。いや、異世界転生してしまってるから出て来ても不思議じゃないけどさ。


 あと絶妙に突っ込みずらい発言やめろ。


「で、その神様が死にかけの僕に何か用ですか?」


「いやあのね?流石に五歳で死ぬのは早いんだよね。僕がせっかく、願いを聞き入れて転生させてあげたのにさ」


「────あんたが!?」


「お、えらく食いついたね」


 ここにいたのか。僕を転生させた神というのが。


 僕は昔から神なんていうのは信じていなかったが、実際目の当たりにすると結構面白いものだな。


「でも僕にも非はあるんだ。異世界に興味持った日本人なら、絶対に面倒事に首を突っ込む。なのに僕は、転生特典みたいなものを渡してもない」


 なんか話が進んでいく。


「だから、渡そうと思うんだ。最強の一端を」


 嬉しい話だ。でも努力しないで得る力は、僕が望む最強には程遠い。僕は、努力した結果の最強が欲しい。


 だから辞退しよう。例え、死ぬことになっても。


「お断りします。努力もせずに得られる最強の力は、いりません」


「おお即答だね」


 意外ー!と神は僕に関心しているようだった。しかしすぐ「でも……」と言葉を続ける。


「僕だって最初からレベルカンストの力を与えるつもりはない。言ったろう?最強の一端を渡そうと」


「え……?」


「だから死ぬ気で努力してね。この力は、君が望み努力する限り力を強めていく。この力は、君だけの固有のものだ」


 努力する限り、力を強める。そうかこの人、本当に神なのかも知れない。だから最初から分かっていたのか。


 チャラついてる雰囲気さえなければ、凄い威厳のある神だったろうに。残念である。


「今からそれを渡す。だから君は一瞬で理解しろ。一瞬で構築しろ、助けたい人を救う力を」


 そう言って、神は僕に光の結晶を手渡す。


 それは僕の体に染みつき、雪のように溶け込んでいった。でも正反対に、あたたかい。


「今から君の体を全回復させる。まだ生きているから安心して。目が覚めたら、地面に落下する前に敵を撃て」


「はい!」


 この力で守ってみせる。師匠も、仮面侯爵も全員。

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