第6話 襲撃を救います。
姉さんたちに出したケーキはとても好評で、カナハ姉さんがいつか両親に出そうと張り切っていたりする。
僕はそれを大変嬉しく思いながら、家族との団欒を楽しんだ。終わる時は、少し寂しい気持ちになったけれどまたやればいい。
さて、お茶会から数時間。
僕はいつものように師匠の元へ修行をしに来ていた。
強くなるための努力は惜しみたくない。嬉しいことがあったからと言って、修行を疎かにはしないのだ。
「あ、師匠!ケーキ、家族に作ったら好評でしたよ」
森のログハウスの中、師匠から出されたクッキーを頬張りながら僕は昨日の事を話した。
あ、このクッキーも勿論師匠が手作りしたものである。市販のものよりも普通においしい。
僕の言葉を聞いた彼は、大変嬉しそうに答える。
「それは良かった。まさか教えた次の日に作るとは思わなかったけどな!!」
「丁度良い機会に恵まれただけですよ」
まぁ、多分僕ならば機会がなくても作っていたかもしれない。何故なら、この世界の菓子は当たり外れが多いからだ。
確かに美味しいものは美味しい。だが現代日本と違い、味に明確な差が現れやすい。
貴族の食べる菓子は現代日本に引けを取らないくらいには美味い。けどくっそ高い。
反対に少しでも安いものを食べようとすると、それは食えたものではない。調理実習で失敗したやつより酷いのもある。
なので、食べたくなったら普通に作っていただろう。
それよりも。
「師匠。何か準備をしてるみたいだけど、何かするの?」
師匠はさっきから僕の正面で話を流しつつ、何かの準備を進めている。いつも通り魔物狩りだろうか。
でもそれにしては用意周到である。魔物狩りなら、師匠はいつも拳で殴るだけなのでさほど準備はしない。
なら消去法で何処か行くのが正解だろう。
「今さっき俺宛に救援要請が入った」
「え、それやばくない?」
「そうだ。本当にやばい。それに救援要請を入れたのは、あの仮面侯爵だ」
「仮面侯爵って、あの最強っていう」
「そうだ」
仮面侯爵。それは僕らが住んでいる国の外、つまり広い大陸何処かで活躍する素顔不明の侯爵。
男かも女かも分からないし、家が貴族という以外の情報は殆ど開示されていない。最強の技とかも全部。
そんな最強が救援要請を出すということは、本当に緊迫した状況なのだろう。だが、師匠が言ったところで状況が変わるとも思えないけど。
「それ、師匠が行ってなんか変わる?」
決して馬鹿にはしていない。
普通に考えて最強が負けるものを、元王国騎士が勝てるわけがない。
「変わらないだろうな。でも、逃すことさえ出来れば良い」
え、まさかこの人……他人のために命落とそうとしてます?善人なのは知ってるけど、流石にそれはやりすぎだって。
「命賭けるってこと?」
「そのつもりだ」
師匠は深刻な面持ちでゆっくりと語る。
「別に、知らん老人のために命を落とすつもりはない。俺は一度、仮面侯爵を見た」
ほう、顔見知りだったか。
「どんな奴かと思えば、確かに強いがあれは多分十五とかのガキだ。骨格や立ち振る舞いとかでなんとなく分かる」
「だから、まだ死ぬべきではないと?」
「ああ。俺はもう十分生きた。だから、若い子を救うってのは義務なんだよ」
やっぱり師匠は良い人だ。そう思える人っていうのは、ほんの一握りしかいないだろう。
だからこそ、死なせるわけには行かない。
そう考えていると、師匠は荷物を持ち家から出るため玄関に向かった。
「これでお前と会うのは最後かもしれない。ま、俺なんかよりも他にいい師匠を探すんだな」
「絶対、帰ってきてよ」
僕はそれだけ言う。
「ま、それは保証できない。けど一つだけ。……お前と過ごした時間は、めっちゃ楽しかったぜ」
師匠はログハウスから出て行った。
最後まで怯える姿一つ見せず、立派に勇敢に僕という子供の手本になるように進んでいった。
「さて、行くか」
死なせる気は毛頭ないので、取り敢えずついて行くことにした。かと言っても、僕にやれることは少ない。
まだ最強の力とかを身につけられていないので、ちょっとだけ強い五歳児だ。普通にボコられて終わりだろう。
だから一旦【隠密】で姿を消して行く。
でも【隠密】はそこまで万能じゃない。魔力の流れを感知できる人間には一瞬でバレる。
なのでそこは創意工夫を凝らす。
個の生命体から滲み出る魔力が、自然界のものに影響を与えて魔力の流れが変化する。それが【隠密】がバレる理由だ。
百歩譲って一定の魔力が滲み出る分にはバレる可能性は低い。魔力は感情の高まりなどによって、外に漏れる率が高い。
それをどうにか出来れば、バレる可能性は極端に低くなる筈。
魔力の体内への封じ込めは高度な技術が求められる。となると、感知されないようにすれば良いのだ。
例えば、魔法【魔力障壁】で蓋をするとか。
これは自分の周囲を一定の魔力の壁で包む魔法。僕もやったことがない。
朝のお茶会の時にカナハ姉さんが自然展開していたのを見ただけだ。試しに後ろから軽くナイフを飛ばしてみたけど、弾かれた。多分間違いない。
見真似で出来るか分からないけど、やる価値はある。
イメージしろ、分厚い壁を。あ、でも簡単に壊れたら嫌だから三重くらいにはしておこうかな。
「────【魔力障壁】」
僕の発動宣言と同時に、体の周りに三重の壁が出現した。体内の魔力が減る感覚があったので、成功したのだろう。
よし、準備は整った。
「師匠を手助けしに行くぞ!」
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