第5話 メイド家族のお茶会。

 師匠との修行から帰宅しメイド服に着替え終わると、空はもう明るかった。


 寝ている時間なんてなかったので、【完全修復】で適当に眠気を覚ましつつ、いつも通りにリビングルームへ行く。


 本当にこの魔法は都合がいい。大怪我をしても発動さえ出来ればすぐに治るし、睡眠時間だってカットできる。無理しすぎると倒れるけど。


 僕は地味に長い廊下を進み、リビングルームへと辿り着く。しかし、早かったのかまだ誰も着いていなかった。


「あれ、サクナ姉さんくらいはいると思ったのに……」


 だが、一回部屋に戻るのも二度手間なので誰かしら来るまでティータイムを楽しむことにした。


 確かキッチンルームの何処かに、サクナ姉さんが集めていた茶葉が保管されている筈だ。


 何かしら淹れて飲もう。


「ふんふふんふふん♪」


 朝一番に自分で淹れて飲むお茶は最高だ。


 窓から程よく差す太陽の光が心地いい。今にも瞼が落ちてしまいそうだ。(五歳)


 早く姉さんたちも来てくれないだろうか。みんなでお茶でも飲んで話がしたい。


「早く来ないかなぁ……」


「……誰が来て欲しいの?」


「うわぁ!!??」


 顔を見ずとも分かる。この耳元で囁かれるasmrボイスは、タルラ姉さんしかいない。


「タルラ姉さん、びっくりしたよ」


 あはは、と笑う僕に姉さんは鋭い目を更に細めて言う。


「さすがにお姉ちゃん、弟にそんな態度取られたら悲しくなっちゃうなぁ……」


「ご、ごめんね!?」


 不意を突かれたとはいえ、少しびっくりするだけでこんなに凹む。ここが姉さんの可愛いところでもあり厄介な所なのだ。


 これは当分、弟離れしてくれなさそうだ。


「あ、そうだ……タルラ姉さん、お茶淹れたんだ。飲まない?」


「飲む」


 即答だった。


 僕は既に机に用意しておいたティーカップに、姉さんの分のお茶を注ぐ。お茶のいい匂いが再びリビングを包み込み、幸せな気持ちになる。


「はい、どうぞ」


「……ありがと」


 姉さんはふーふーと息を吹きかけてお茶を冷まし、ゆっくりと一口ずつ飲んでいった。


「……おいしい」


 そう言ってくれると、美味しいのはわかっていても安心するし嬉しい。こんな日々が、ずっと続けばいいな。


「あ、そうだ」


 昨日、いや今日?まぁどっちでもいいけど。師匠に教えてもらったケーキの作り方、ここで試しに使ってみようかな。


 姉さんたちも喜んでくれるかも。


「どうしたの?」


「いや、ちょっとキッチンで作りたいものがあって……」


 そう言って、僕はキッチンに籠った。


 大まかな作り方は覚えている。記憶力もいい方なので、材料や分量は事細かに覚えている。


 手順さえ間違えなければ、最高のケーキが作れるだろう。


「あ、でも師匠の教えてくれたケーキ、少し大きすぎるな。ちょっと小さくしよう」


 と創意工夫を凝らし、僕はケーキを作り始めた。


「……出来た!」


 出来栄えは上場、あとは味だけが心配だ。


 一応味見用に一つ多く作ってあるので、それを食べて毒味だけしておこう。変なのを姉さんたちに食べさせる訳にはいかないからね。


 食べてみた感じよく出来ている。味に問題はないし、気持ち悪い舌触りもしない。


 完璧に完成させることが出来たと言えよう。


 さて、これを姉さんの所へ持って行こう。


「姉さん出来たよ……って、なんだもうみんな居たのか」


 僕がリビングに戻ると、僕の知っている姉さんが全集結していた。


 タルラ姉さんは元からいたとして、サクナ姉さんにリチェル姉さん、そしてもう一人──カナハ姉さんだ。


 カナハ姉さんが知る限り一番年上で僕より八歳上。でも、年よりも大人っぽく見えることで有名だ。


「カナハ姉さん久しぶり!お茶とケーキを作ったんです。食べてもらえませか?」


 僕がお茶とケーキを運ぶと、カナハ姉さんは笑顔で受け取り喜んでくれた。でもなんだろう、この違和感。


 姉さんの間合いに入った瞬間、何かの壁を貫通したみたいな感覚が僕に押し寄せた。


 何か自然展開でもしてるのかな?


「ええ。……こんなに出来の良いケーキをクルフが?凄いんですね、さすが私の弟と言ったところでしょうか」


「えへへ……」


 褒められると、なんか照れる。


 同時にとても暑い何かが背後で蠢いている気がするけど、うん。気にしないことしよう。


「リチェル姉さんもこの前はごめんなさい。これ!良かったら食べてください」


 リチェル姉さんにもしっかり渡す。この前のお詫びの印も兼ねて。


「ほんとう!?ありがと、クルフ!」


 うん、リチェル姉さんも喜んでくれている。よかった。


「はい、サクナ姉さんもどうぞ」


「ありがとう、クルフ」


 みんなお茶もケーキも美味しいと言ってくれて、結構評判は良かった。まさか、師匠が教えてくれた技術が早速役に立つとは。


 師匠の言うことは素直に信じて従っておくことにしよう。ま、悪いと思ったことは絶対にしないけど。


 こうして、メイド家系アルセイダー家の慎ましいお茶会は終わったのだった。

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