第4話 姉さんたちの知らぬ間で。

 サクナ姉さんとの試合を終えて、僕はタルラ姉さんの協力の元自室へ帰ることに成功した。


 本当に忙しい一日だった。


 サクナ姉さんに魔法を教わろうとしたら、まさか剣術の試合に発展するなんて予想してなかった。なのでどっさり、疲れが溜まった。


 これが僕の女装メイドとしての日常。姉さんたちと団欒し、時には厳しく指導される。そんな、微笑ましい日々。


 でも、寝ている訳にはいかないんだ。


 僕は強くならなきゃいけない。もう二度と、大切な人を失わない為に。


 僕は隠してた魔法【完全修復】を用いて体を全回復し、魔法【隠密】で体を隠し、近くの森へと向かう。


 そこで、師匠が待っているのだ。


 この世界の森には、基本的に魔物が生息していることが多い。けれど僕が今いる森は、魔物がいない。


 正確に言えば魔物は発生する。だが、それが増殖する前に、師匠が全て殲滅してしまうので一匹もいないのだ。


「おーい、師匠。来たよー」


 僕は森の真ん中にあるログハウスに入る。


 師匠は普段ここに住んでおり、思い返せば最初に会ったのもこの場所だった気がする。


「あれぇ……寝てるのかな?」


 いつもならこの時間はログハウスにいる筈なのに、一向に師匠の姿は見えない。まさか、魔物に食い殺されて……そんな訳ないか。


 あの筋肉バカの体術マスターがそう易々と魔物に殺されることはない。僕はそう信じている。


 なので適当に家の中の漁って、食べられそうなものを食べることにした。変なものを食べても【完全修復】があるから怖くないんだよね。


 使う前に死ななければだけど。


 取り敢えずログハウスの中には大量のお菓子が保存されており、流石の僕もヨダレが溢れそうでした。


「まぁ少しくらい食べてもいいよ、ねえ?」


 と、僕がクッキーに手を伸ばしたその時。


「なんだ、何処の盗賊が紛れ込んでるかと思えば……俺の弟子じゃねえか」


 家主が帰ってきました。


 スキンヘッドに黒いゴーグル。それに異世界では珍しい、ライダースジャケットを身につけたジーパンを履く筋肉ダルマ。


「お帰り、師匠!今日も来たよ」


「ほんっとに修行が好きだよなお前、ここら辺のガキで一番タフなんじゃねえの?関心だ。……菓子は一つにしとけ」


 取りかけてたクッキーだけでも貰えたので、ここは満足しておこう。


 あ、そうそう師匠には適当に近所の子供と言ってある。アルセイダー家の子供ってバレたら、色々面倒だからね。


「で、師匠、師匠!!今日は何を教えてくれるの!?」


「おう、その事だが今日は考えてきている。お前が弟子になって早一ヶ月、今日はとうとう体術とケーキ作りについて教える!!」


「やったー、体術!とケーキ作りなんでぇぇぇ!!??」


 師匠が言っていた通り、僕が弟子になったのは一ヶ月前。なんか良い感じの人を探していたら、この人に巡り会えた。


 なんでぇ!?とは言ったものの、一ヶ月も師匠をしてくれているんだ。ケーキ作りを教えようとする理由は分かる。


 それはズバリ、師匠はお菓子を作るのが好きだからだ。あの見た目で。


「そりゃわかるだろう?俺が菓子作り好きだからだよ」


 はい、大正解。


「まぁ、知っていますけど……」


 僕は呆れながらも返す。


「人ってのはな、自分の好きなものを他人にもしてもらいたい生き物なんだよ」


 どうやらそういう生き物らしい。細かい理論とかは分からない。


「だから、今日は体術とケーキ作りについてしっかり教えて行くから覚悟しとけ!!」


「は、はーい!」


 という感じで、ここからはいつものように修行が始まった。


 姉さんたちと根本的に違うのは、魔法や剣術に多少秀でているだけではない大人と戦えるという点だろう。


 それに師匠は優秀な人材だ。毎日魔物を狩っているだけではなく、元王国騎士という経歴を持つ凄い人だったりする。


 そんな人から色々教えて貰えるのだ。これ以上いい話はない。まぁ魔法は上手くないらしく、【完全修復】と【隠密】しか教えてもらえなかった。


 でもそれ以外は完璧に行ってくれる。技術だけではなく、指導方法までもが優れている。


 僕が出来るところを徹底的に伸ばし、苦手なところは出来るまで付き合ってくれる面倒見の良さ。更に的確なアドバイスをしてくれる。


 なので、技術・肉体共に一ヶ月で驚異的な成長を遂げていた。このまま続けていれば、確実に僕は強くなれるだろう。


 そう思い、僕は修行に励むのだった。


 かくして、今日の体術修行も無事に終了した。


 今までは弓矢とか槍とかの武器の使い方を幅広く教えてくれていたから、肉体を武器として使った訓練は新鮮だった。


 その後のケーキ作りもなんやかんや楽しかったし、いい勉強になった。もしかすると、この人の指導に無駄なんてないのかもしれない。


 楽しい修行の時間はあっという間に過ぎていき、気づけばもう夜が更け始めていた。


「また来いよ」


「はい、師匠!」


 僕は行きと同じように【隠密】で姿を隠しながら、静かに家の自室へと帰宅した。

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