酒カスOLとレンタル彼氏とのタイムトラベルプルーラブ?

柊准(ひいらぎ じゅん)

第1話 砂時計な出会い

 私は今日も息が詰まるような思いをして環状線の電車に乗っている。この車両の箱は当然通勤ラッシュで、満員だ。


 誰か知らない、額に汗が滲んでいる中年のサラリーマンが背後で私のことを押している。それが厭で仕方ない。


 すると世田谷ー、と車掌のアナウンスが響いた。


 その駅で多くのスーツの男女が濁流の川のように流れていく。私――秋月帆波もその駅で降りた。


 改札を通り外に出ると、雨がぽつぽつと降ってきた。私はバッグを頭に被るように持ち上げ、地面を駆けた。


 そしたら、ことんとバッグに飴玉が落ちた。桃色のフィルムで雨粒で輝いている。


 私は茫然としてしまった。


 なぜなら周囲の光景がコマ送りの映像のように緩やかなものになったからだ。


 すると白髪の、顔立ちが中性的なスーツ姿の男性?(なぜかその人と私だけが動いている)が、その飴玉のフィルムを外し、私の唇に飴を押し当てた。


 また茫然としてしまう。彼の宿されている薄茶色の瞳に吸い込まれそうになった。


 見惚れているの? こんな子供に?


「一口食べてごらん?」


 その少年は、甘く微笑んだ。


 胸がキュンとした。そして彼の言う通りにする。虜になってしまいそうなほど、甘い飴玉だった。


「ほら、魔法にかかった」


 幸福感と充足感が胸の内側にじわりじわりと広がった。


 唇は、彼が触れたところがひりひりとする。


 そしたらそれを見透かしたように、アイドル顔負けのとびきりの笑顔を見せた。そして、彼は持っていた鞄から砂時計と名刺を取り出した。


「これ、あげます」


 名刺には、「レンタル彼氏。黒田礼二」とあり、三十分の砂時計が手にずっしりと重たさを感じる。


「もし、私をお呼びのときには砂時計を逆さまにしてください」


 それでは、と彼は、黒田は去っていった。


 それが合図だったかのように周りの光景が元通りなった。


 彼は一体。私は曲の歌詞ではないが、黒魔術にかかってしまったように、夢中になっていた。


 ♡


「ただいま〜」


 誰もいない自宅に帰宅を告げ、電灯を付ける。


 そして冷蔵庫を開けて、缶チューハイのプルタブを開ける。


 ごくっ、ごくっ、と飲む。頭にキーンと響く。


「くぅうう。キンキンに冷えてますね!!」


 おつまみ。おつまみ。今日はコンビニのホットスナックだよ〜ん。


 持っていたレジ袋からカレーまんとピザまんを取り出して、それをレンジで五分温める。


 そして、私は少しの緊張感を覚えながら「よしっ」と息込んで砂時計をひっくり返す。


 インターホンが鳴った。玄関へと向かい、扉を開ける。


「どうも。お呼びいただきありがとうございます」


「あんた、酒、飲めるわよね?」


「えっ、はあ。まあ、一応」


 嗜む程度ですが、と言った彼の言葉を遮り、手を引っ張ってリビングへと挙げた。


「王様ゲームしましょ。負けた方は全裸になる王様ゲームね」


「えっ、そ、それは・・・・・・・」


「なによ。エッチしてるお客さんだっているんでしょ」


「いや、そんな破廉恥なことはしていないというか、しているというか・・・・・・」


「なによ、ハッキリしないわね。あんたは某アニメのシンジくんかしら。逃げちゃ駄目だって言ってみなさい」


「に、逃げちゃ駄目、だ?」


「なんか、違うわね。まあいいわ。さっそくやるわよ。ゲーム方法は簡単。缶チューハイを多く飲んだ方が勝ち。それだけよ。さあ、いくわよ」


「えっ、もう。はあ。はいはい。いきましょうか」


 ♡


「あれ、ここはどこ?」


「もう、酔いすぎですって。でも秋月さんが十二本。そして二十四本で私の勝ちですね」


「わあった。わあった。脱ぐわよ」


「いや、私はそんなつもりじゃなかったので、別に脱がなくても」


 私は気分がよくなってまずスーツの上着、そしてシャツを脱ぎ、そしてブラジャーに手を掛けようとした時、


「ちょっと待ってください!!」


「ん? あんたもすごい顔が赤いわね。あっー。もしかして恥ずかしいんだ。やーい、やーい」


「秋月さんは子供ですか」


「そんなこと言うな。この、生意気・・・・・・」



「秋月さん。眠っちゃったよ」


 私は彼女をベッドまで運んだ。そして髪を撫でて、


「あなたのために――から来たって言うのに。あんまり私をからかわないでくださいよ」


 そう言って私は砂時計を元に戻して、立ち去っていった。



「あれ!? なんで、上半身がブラジャーだけなの?」


 私は昨夜のことをうろ覚えながら回想して、恥ずかしさから顔が紅潮した。


つづく

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