あなたのパワーソングを教えて

【曲名】Destiny

【アーティスト】松任谷由美


 わたしが青春時代を過ごしたのは、バブル真っ盛り、ではないけれど、まだまだ日本全体が華やいでパワーに満ちていた頃。


 地方都市に住んでいたこともあって、男の子達は皆18歳になると待ってましたとばかりに自動車の運転免許を取り、大学の合格祝いに買ってもらったスポーツカーを乗り回しては、街で女の子に声をかけた。

 仲良くなると、次の初デートは勿論ドライブ。

「これ、私の好きな曲。一緒に聴こう? 」

 そう言って前日の夜中までかけて編集したカセットテープを渡すのがお約束だった。


 でもそれは皆、わたしには遠い世界の話。

 決して冴えない地味なコ、だったからではない。

 自分で言うのもなんだけど、むしろ若い頃はそこそこ可愛いとか綺麗とかスタイルがいいとか、そういう評価で括られるグループに属していたから、ちょっとお洒落して出かけると、いつも街で声を掛けられた。


 ……でも、わたしにはが来ない。いつもその日一日は一緒にすごすけれど、そこで終わり。

 理由は分かっていた。それは見た目と中身があんまり違うから。

 ミニスカートにヒールを履いて、一見華やかで明るい流行りの女の子に見えるのに、実は無口で、意地っ張りで、変なところで遠慮しい。それがわたしだった。

 恋がしたい、一緒に青春を謳歌する人が欲しい、いつもそう思っているのに、好き、付き合って、その一言をどうしても言えない。だから可愛くない、脈ナシだと思われてしまう。


 そんなわたしにとって、他人事と思えなかったのが、この歌。


『冷たくされていつかは見返すつもりだった。

 あれからどこへ行くにも着飾ってたのに。

 どうしてなの、今日に限って、安いサンダルを履いてた。』


 ……ごめんね、なんか思ってたのと違うんだよねキミ。

 ああまたか。でもわたし、素直じゃないから何も言わない。見栄っ張りだから、自分から追っかけたりしない。

 あっそ、いいよ別に。じゃあ、またいつか。


 そんな時、いつもこの歌を聴いた。


 ……うまく生きられない女の子って、どこにでもいるんだね。


 あれから数十年が経ち、わたしもそれなりに色々あって、時には可愛いお馬鹿さんを演じたほうが諸々丸く収まる時もあるということを学んだし、なんとか人生を共にするパートナーにも出会うことができた。


 今この曲を聴くと、あの頃のわたしにこう言ってあげたくなる。


 無理しなくていいよ。

 意地っ張りでも、見栄っ張りでもいいんだよ。

 無口で可愛くないあなたがいてくれたから、今のわたしがいるんだよ。


 大丈夫、安いサンダルを履いてるあなたを愛おしいと思ってくれる人が、必ずどこかにいる。

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