第17話「待って、だめ」
























 クリスマスは、ふたりきりで。


 どこにも出かけず、家の中でまったり過ごすことにした。

 愛が毎年ケーキを作るのがお決まりの習慣だったというから、材料だけ買いに出掛けて、そこからはキッチンでふたり。


「生クリームを混ぜる時は、空気を入れる感じで…」

「へぇ……さすが愛。慣れてるね」

「うん。ケーキ作りは幼少期からの習慣だから」


 愛に作り方を教えてもらいながら、ケーキ作りと夜に食べるご飯を作り進めていった。

 彼女は本当に手慣れていて、出来上がったケーキはお店に出せるんじゃ…?レベルで綺麗なもので、簡単としながら自分の部屋まで運ぶ。

 私の部屋にはテレビがあるから、映画も観れるし今日はずっとそこで過ごすつもりで、準備していく。


「お疲れさま、愛!乾杯」

「……ん、芽紗もお疲れさま」


 本当ならこういう時、お酒でも飲みたいんだけど……私達はまだギリ二十歳じゃないから我慢する。

 だけどもう、来年には誕生日を迎え愛は一足先にお酒が飲めるようになる。彼女の誕生日は1月だから。

 そうなったらお祝いがてら、酔ってる愛を見たいな…なんて思い馳せながら、シャンメリーを喉に通してケーキをつついた。

 ほとんど愛の作ってくれたケーキは甘さ控えめで、チョコが好きな私のために薄く伸ばしたおしゃれ仕様のチョコレートが上に散りばめられていて……それがまたおいしかった。


「んん〜、おいしい!愛ってば天才」

「…よかった」

「ほんと作ってくれてありがと!大好き」


 いつものように軽口の“好き”に反応を見せた愛が照れて目を細める。

 その光景を眺めながら食べるご飯はもっとおいしくて、ウキウキ気分で食べていたら、不意に。


「……クリスマスは、セックスするのが定番らしいの」


 愛が、ぽつりと呟いた。


「…する?」


 まだまだ料理も冷めやらぬ頃にお誘いを受けて、フォークの先をついばみながらコクンと頷く。

 ……本音を言えば、する気満々だった。

 クリスマスを言い訳に、私も抱いてもらう気だったから、これはちょうどいいとケーキは後で食べることにしてふたり毛布に潜る。

 しばらくモゾモゾしながら愛に抱きついてみたりとイチャイチャして、愛も受け入れてくれたからキスもしてみて、徐々に気持ちを盛り上げる。

 そのうち愛も覆い被さってきて、相手の首に腕を回しながらまたキスをねだった。


「…電気消す?」

「……このままでもいいよ」

「えー……はずかしい、かも」

「やだ?」

「んー…いいよ」


 なんとなく、電気を消したくない雰囲気を察して頷けば、愛は僅かに揺れた瞳を隠すように瞼をおろして、照れる私の唇を奪った。

 どこか性急にも思える手が裾に伸びて、やんわりと手を重ねて止める。


「脱がせてもいいけど、あんま…見ないで」

「…どうして?」

「明るいの、恥ずかしいから…」


 もう何回もセックスしてて、お風呂にだって入ってるけど……改めて明るい中で触られることに抵抗を覚えた私を、彼女は優しく抱き包んでくれた。


「かわいい、芽紗…」


 本心だと信じたい言葉は、きっと今までの学びだと虚しくなるものの、今は蓋をしておく。

 見たくない現実を遠ざけるように目を閉じて、後は与えられる感覚に浸るだけの時間を過ごした。

 私の服を丁寧に脱がせてくれた愛は、やっぱり胸を見ると固まっちゃうみたいで、“見ないで”というお願いも忘れてじっと眺めだす。


「やだ…って。見ちゃだめ…」

「……ごめんなさい」

「なんでいつも、そんな見るの…?」


 恥じらいをごまかすついでに聞いてみたら、返答に困ったのかまた固まった後で、私のことを抱き締めた。


「…内緒」


 よっぽど言いたくないようで、珍しく言葉を濁された。


「やだ。教えて?知りたい」

「……プライバシーの侵害です」

「そこまで言う…?」


 あまりにも頑なだから、それ以上は彼女の気分を害すると判断して、ものすごく気になるけど押し黙る。

 考えてみても、愛の考えなんて分かるわけもないから思考を止めて、行為に没頭すること……数時間。


「っぅあ……やば…まって、愛…ストップ!」


 何回も■■せられまくってるから、さすがに体力の限界を迎えて止めてみても、彼女は股の間から顔を話すことはなく。


「ぅうんん……っは、やば、やばい……愛ってば…ま、まって…っそれだめ!出ちゃ…」

「ん……いいよ」


 最終的に、人生初の■■■をしてしまうという大失態を犯した。


「……愛がやめてくれないから」

「ごめんなさい、足に挟まれて耳を塞がれてたせいで聞こえなくて」

「嘘つき。最後の最後は聞こえてたじゃん!」

「……すみません。あまりよく覚えていません」

「Siriじゃないんだから。ばか」

「ごめんなさい、芽紗。次からは控えます」

「しないって約束して」

「…次からは気を付けます」

「何を、どう気をつけるの」

「吸水シートを敷いて、シーツが濡れないよう手配した上で…」

「■■■させる気満々じゃん…」


 事後になって、嫌な顔一つせず掃除をしてくれた愛だったけど、意地でも“もうしません”とは言わなかった。

 …そう考えると、意外と愛ってえっちに関しては頑固かも。

 頑固というか、自分の意志が明確にあるというか……むっつりというか?

 とにかく、愛の中の人間性が垣間見えて素敵なクリスマスになったことに変わりはなく、その日は夜も結局がっつりセックスして終わった。


 セックス尽くしのクリスマスを終えると、次は年末年始。


「宅飲みしたいから、芽紗の部屋貸してくんない?みんなで集まんない?」

「…私まだお酒飲めないんだけど」

「飲むのはジュースだよ!だから大丈夫。…で、どう?」


 せっかくだから愛とふたり、またイチャイチャするだけする日々を送ろうと思ってたら……思わぬところで友人からのお誘いというか、お願いが入った。


「あー……愛に聞いてみるね」


 とりあえず友人にはそう伝えて、帰宅してから愛に確認してみた。


「……いいよ」

「…愛も一緒にどう?」

「遠慮しとく。楽しんで。私は部屋にいるから、何かあったら呼んでね」


 聞いてしまえば、愛が断ることもなく……なんだか悪いことしたかなと思いつつ、年末のカウントダウンは友達数人と自室で過ごす流れになった。

 その日から、愛は部屋にこもりきりになることが増えて。

 覗いてみたら、部屋にいる間はひたすらパソコンの前で何か作業をしていた。…文字打ってるみたいだから、レポートでも書いてんのかな。

 ヘッドホンをつけて集中する背後を、ドアを数cm開けた隙間から眺める。普段なら物音ひとつで気が付く彼女も、最近は気付かないくらい集中してることが多かった。

 …そのせいでクリスマスからの数日、一回もえっちしてない。キスすらも。


「……愛ー…」

「…うん、なに?」

「実は怒ってたり…する?」


 ドアのとこから声をかければすぐに気が付いてくれて、私の元へ歩み寄ってくれた愛は、私の問いにキョトンと首を傾げていた。


「怒ることがないよ。どうしたの?」

「いや……大晦日、ふたりで過ごせないから…嫌だったかなって」

「それは仕方のないことだから。気にしないで」


 理性的な返答が、今は本当にありがたかった。


「ごめんね、愛。年末なのにひとりで……あ。実家帰っててもいいんだよ?」

「……他人が家に入ること自体、安全面において好ましくないから。その状態で芽紗ひとり置いて帰るなんてこと、できないよ」

「ほんとは、やだった…ってこと?」

 

 言い回し的にそうなのかな?って思って何気なく聞いて……ハッとなる。

 これは、意図しないところで“やだ”が出てしまうのでは?

 気付いてからは、期待半分に愛の返答を待った。


「…嫌ではないよ。心配なの」


 だけどその期待も、あっさり打ち砕かれた。

 拗ねた気持ちで「あーそうですか」と適当に返事をして、踵を返す。


「芽紗」


 それもすぐ、腕を掴まれて足を止めた。

 なに、と言葉を発する前に部屋へと引っ張られて、気が付けばベッドの上。


「え……あ、愛?」

「もっとちゃんと、顔見せて」

「な、なん…で」

「カップルはこういう時、慰め合うんだって」


 いつもいつも思うけど、そういう情報はどこで仕入れてくるのか。

 とにかく人の落ち込んだ顔を見なきゃ気が済まなそうな愛に従って、気恥ずかしくも顔を向けたら、すぐに唇を奪われた。

 ……なんだか最近、愛が積極的で嬉しい。

 だけど同時に、もっと欲が湧く。


 早く「やだ」って言ってもらって、正真正銘の恋人同士になりたい。


 その思いが行き過ぎた結果。


 私は……









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