大東亜連邦の志は高く
第39話 マレー航空戦コタバル大襲撃
12月8日早朝のマレー半島コタバル
大日本帝国陸軍は宣戦布告と同時にマレー電撃作戦を開始した。海軍の大艦隊と戦闘機大編隊に万全と護衛されている。コタバル、シンゴラ・パタニ、ナコン、バンドン・チュンポン、プラチャップに強襲上陸を実施し、特にコタバルは英空軍の飛行場が存在するため、早急に制圧すべきと言われた。
「こんな朝っぱらから敵機を叩けるってのも良いもんだな。戦闘機に護衛されているのも有り難い。九七式軽戦闘機が届かない所も一式軽戦闘機は余裕綽々か」
「地上の敵機に47mm榴弾を撃ち込む時以上の快感はありません。早く撃ちたくて腕がウズウズして」
「もう少しで到着する。私語は慎めと言っても聞かん坊の集まりだ」
コタバル市街地の上空を日の丸を翼に刻んだ単発機と双発機の群れが通過する。対英宣戦布告から間もなかった。まだ迎撃態勢が整い切っていない早朝の時間帯を狙う。敵機が迎撃に待ち構えている可能性を鑑みて足の長い新型軽戦闘機と双発の軽爆撃機(又の名を重襲撃機)を投入した。新型の重戦闘機は英空軍主力戦闘機(ハリケーン)と対決すべく、より奥の飛行場襲撃に向かっており、英空軍の戦闘機を捜し回っている。
「こちら隼隊。敵機は見られず。存分にやってくれ。上は任されし」
「よっしゃ頼んだぞ! 全機急降下開始!」
「編隊を崩すな! しっかりと47mmを叩きつけるんだ!」
「九九式軽爆撃機の軽快さを舐めるなよ!」
日本陸軍は航空隊にいち早く航空無線機を搭載させて連携を強化している。偵察機の長距離用と観測機の中距離用は一般的なのに対し、戦闘機同士の連携に短距離用は軽戦闘機至高論に「雑音ばかりの重荷で不要」と断じられたが、石原莞爾の鶴の一声で研究と開発が行われた。ノモンハンの空戦で大々的に使用された際は雑音混じりを差し引いても連携力の強化に一役買う。従来は熟練者のベテラン同士がハンドサインや以心伝心で連携した。ひとたび大戦争が勃発して新参者のアマチュアが入ると崩れ去る。かなり強引でも航空無線機を浸透させたことは正解なのだ。
コタバル飛行場に突入した戦闘機隊と軽爆撃機隊も航空無線で円滑な意思疎通が可能である。戦闘機隊は飛行場上空を埋め尽くして一時待機する旨を伝えた。軽爆撃機隊はお礼を言ってから編隊を維持して急降下を開始する。全く無駄のない連携は妙技と見えるが航空無線機の普及によるところが大きかった。
「ロケット弾発射ぁ! 飛んでいけぇ!」
「樽みたいな戦闘機を並べていやがる。隼の細身とえらい違いだが、情けも容赦もしない」
「機体を引き上げるぞ。歯を食いしばれぇ!」
「奥井機が先走りやがった。もう47mmを撃ってる。これじゃ当たらんのに」
「榴弾の破片でも当たれば御の字だ。俺達は露払いに徹する」
九九式軽爆撃機は史実における二式複座戦闘機を模している。双発機はエンジンを左右に持ち機首に武装を集中させられた。双発機特有の長大な航続距離と相まって万能論が浮上するも陸軍は川崎に単発機と別のアプローチを仕掛ける。軽爆撃機という名の軽爆撃機と開発を命じた。
陸軍の襲撃機は低空飛行より敵地上部隊へ爆撃と銃撃を与える。九九式軽爆は安定性と操縦性、一定程度の機動性を重視する代償に速度性は犠牲に払った。敵地上部隊の苛烈な対空砲火を想定した重装甲を施す。これに重武装と携行する兵装が加われば重量は嵩むばかりだ。川崎の優れた設計も大重量の前には押し切れない。中島製の空冷複列14気筒1550馬力のハ5を採用した。液冷エンジンの計画も存在したが被弾に対する脆弱性が懸念される。
「あまりに脆いな。ロケット弾だけで傷だらけだ。47mmを撃つまでもない」
「適当な建物や避難壕に放り投げろ。敵兵は一兵たりとも逃すなのお達しだ」
(20mmが勿体ない。フィリピンに向かった仲間が羨ましいな。あいつらはB-17をボコボコにしているに違いないぜ)
「敵戦闘機! 樽が来た!」
「隼が抑える! 我らに任せられたし!」
「いつでも13mmを撃てるように構えておけよ」
「は、はい」
本機の重武装は何と言っても機首の固定武装だった。機首の中央部に47mm機関砲1門を据える。47mm機関砲を20mm機関砲4門が囲む配置による大火力は想像以上を誇った。47mm機関砲は既存の37mm機関砲を基に口径の拡大と改良が図られている。何と言っても対戦車砲が使用する榴弾と徹甲榴弾を装填した。徹甲榴弾の貫徹力が若干低い点は敵戦車の上方ないし側方から射撃することが解決する。今日は敵飛行場襲撃任務で榴弾で構成された。地上に並んだ空飛ぶ樽ことF2Aバッファローを爆風と破片が襲い掛かる。
敵陣地制圧用の対地ロケット弾が一斉射されていた。本機は爆弾を懸架できるが簡易的なレールからロケット弾を発射する。小型の30kg又は60kgの陸用爆弾を撒くことに比べてロケット弾を撒くことの方が制圧力に勝った。銃撃前に適当に撒くことで対空火器を一時的に無力できる。ロケット弾の面制圧が発揮された。地上に残骸と言う残骸が不規則的に敷かれている。
「こんなもので良いだろう。いい加減に退かないと新型戦闘機が来る。それ以前に高速爆撃機が大量の爆弾を降らした。敵機ならともかく味方機に落とされちゃ、俺たちの沽券にかかわる」
「味気ないです。敵戦闘機は護衛戦闘機が食い散らかした。敵機をロケット弾と砲弾で吹っ飛ばすだけ。やっぱり敵戦車を一撃で擱座させた時が一番です」
「富士演習場のアレは最高だった。まぁ、仕方あるまいよ」
「次こそは敵戦車を撃たせてください」
「指揮官さんが何というかだ。噂によれば英軍は碌な戦車を持っていない」
あまりにもワンサイドゲームで雑談に興じ始めた。英空軍のコタバル飛行場は大半の戦闘機を地上撃破される。この中を辛うじて飛び立ったバッファローも一式軽戦闘機こと隼の前に歯が立たなかった。英空軍は極東の小国は複葉機ばかりで単発機も運用できない。傲慢を振りまいてきたツケを払わされた。日中とソ蒙の国境紛争で謎の新型機が登場したことを真剣に受け止める。そうすればマシな戦いだったろうに至極残念であった。
「まるで鎌鼬だな」
「鎌鼬?」
「そうだ。鎌鼬は襲われた側が気づかない程の早業で切りつける。俺たちも1時間程度でサッと襲撃するだろ?」
「なるほど、言い得て妙…」
「鎌鼬は傷薬を塗って出血を抑えると言うが俺たちは致命的な出血を強いる」
「高速爆撃機隊が到着した。これより爆撃が始まる。軽爆隊は退避せよ」
まさに泣きっ面に蜂と言わんばかり、九九式軽爆撃機と一式軽戦闘機が食い荒らした後を掃除するが如く、九七式高速爆撃機改と百式高速爆撃機がコタバル飛行場上空に到達した。皆で爆弾槽の扉を開いた先に100kg陸用爆弾が黒光りして投下の時を待つ。100kg爆弾と侮ってはならなかった。薄い外殻の中に炸薬をたっぷりと詰め込まれている。
破片など何らかの物がフラップやエルロンに入り込むと大変だ。航空機の操縦は一気に困難と陥る。軽爆撃機と戦闘機は襲撃時に低空飛行を強いられて爆撃に巻き込まれやすく、史実でも海軍の坂井三郎氏は陸攻の60kg陸用爆弾の爆撃で死にかけたと述べた。
「もっと歯ごたえのある物を頼む。英国ならできるだろうよ」
「新型戦闘機を持って来いってな。20mmが迎えてやる。13mmもな」
彼らが去った後のコタバル飛行場は何も残らない。英空軍は開戦初日にマレー北部で歴史的な大敗を喫した。残存戦力を整理して南部へ移さざるを得ない。これでマレー半島の制空権は日本軍の手中に収まった。制空権という傘を失った地上の守備隊は悲惨を極める。彼らは日本軍の電撃作戦を真正面から受け止める羽目となり、視点を空中から地上に移すが分かり易く、熱帯雨林を戦車隊が薙ぎ倒していた。
「突撃! 突撃! ジットラ・ラインは今日中に突破する!」
続く
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