雑貨屋リーベ 2
しばらくして戻って来たリッチーは、三つの衣装を抱えていた。
……ゲーム「ブルーメ」でも、デートの衣装は三択だったわね~。その設定の影響かしら?
現実世界ながらも、ところどころゲームの設定が見え隠れしているのがちょっと面白い。
だが、何もゲームの衣装選択を忠実に再現する必要はないと思う。
わたしはリッチーが持って来た三つの衣装を見て半眼になった。
ゲームのデートイベントの衣装は三択で、毎回「親密度爆上がり衣装」「普通」「親密度ダダ下がり衣装」が用意されていた。
お兄様は攻略対象ではないし、そもそもこの世界は現実で、ここで生きている攻略対象たちも生身の人間なので「親密度」という目に見えるバロメーターはないはずだ。
なので、親密度という言葉は好感度と置き換えることができるだろうか。
もっと簡単に言えば、相手の「好みの服」「普通の服」「嫌いな服」と言い換えることもできる。
「お嬢様、こちらのチェシャ猫――」
「はい却下ー!」
ヴィルマ、お前はあれか? 悪役令嬢を破滅に導こうとする悪魔か何かか?
リッチーが持って来た三つの衣装のうち、一番ヤバいものに食いつくか普通?
わたしがじろりと睨むと、ヴィルマがつまらなそうに口をとがらせる。
あ、これはあれだわ。わたしで遊んでいるときのヴィルマの顔だわ。この前のオリエンテーションの山火事のときは、ヴィルマのことをちょっと見直したけど考え直した方がいいかしら。
リッチーが持って来た衣装は以下の三つだ。
一、白と赤紫の縞模様のチェシャ猫の全身タイツの着ぐるみ
二、黒いゴスロリ
三、水色の清楚なお嬢様風ワンピース
もちろん、わたしが選ぶのは三以外にない。
「これで」
「あらー、こっちもおすすめなのにー」
リッチーがゴスロリをお勧めしてくるが、わたしは水色のワンピースをひしと掴んで首をぶんぶんと横に振った。
「こ・れ・で!」
こちとら「ブルーメ」をやりこんでるんですよ! この手の選択肢で外すとのちのち痛い目を見ることはわかっているんです。現実世界だろうが堅実に、石橋をたたいて進みますとも! よって、一と二は却下!
リッチーが残念そうな顔で「わかったわ~」と会計のためにカウンターへ向かう。
目的の「安全な」デート服を無事に購入出来てホッとしながら、わたしは支払いをするためにカウンターへ向かった。
このお店は支払いはキャッシュのみだ。貴族によくある「ツケ」はきかない。
ヴィルマが持ってくれていた鞄から財布を取り出し、お金を払っていると、背後でカランとドアベルが鳴った。
このお店に来て他に誰かと遭遇したことがないわたしは、「あら珍しい、ほかのお客さんかしら?」と振り返ってギョッとした。
そこには、アレクサンダー・ナルツィッセ様が立っていたのである。
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