あるSNS上の告白

 

 はじめまして。こういった場に書き込みをするのは初めてなので、ぎわ等があるかもしれませんが、ごようしゃください。私は、今世間をにぎわせている「かねなり」の母親です。しょうを見せることはできませんが、本物です。どうしても伝えたいことがあるので、長くなりますが、読んでいただければ幸いです。


 本題に入る前に、まずは絵莉朱が起こした事件について、がい者である金成さんとめいわくをお掛かけしました方々に、深くおび申しあげます。我々は絵莉朱がけっこんしたことすら知らされておらず、事件直後に適切な対応をとれなかったことについても、重ねてお詫び申しあげます。本当に申し訳ありませんでした。


 今回私がこのような場で発言しようと思ったきっかけは、ぼう週刊誌でれんさいされている絵莉朱についての記事です。絵莉朱が起こした事件に関しては、なんらようするつもりはありません。母親として、むすめおかした罪から目をらしてはならないと思っておりますし、私にも責任のいったんはあるともうせいしています。


 ですが、あの記事における幼少期の「絵莉朱」と夫である「おおじゅん」については、あまりにも一方的な発言だと、私はいきどおっております。〝悪女〞としての絵莉朱ではなく、〝娘〞としての絵莉朱の姿を、私の口から語らせてください。と同時に、夫である太田の現在についても、お聞きいただきたく思います。


 まずはじめに、私の前夫は事故でなくなっています。これについては週刊誌の記事の通り、ちがいありません。死亡した前夫の体内からアルコールが検出されたということで、めいてい状態の前夫が誤って川に転落したことによる事故死だと結論づけられました。幼いエリスをかかえて、当時の私はしんじゅうも考えました。


 そんな時に私達に手を差しべてくれたのが、現夫である「太田潤」です。前夫の知り合いである彼は、前夫のそうや死後の手続きに関してもアドバイスをくれましたし、私はそんな太田をたよりにしていました。生前、前夫とそれほど親しかった訳でもないのに、なんて親切な人だと、そう思っていました。


 太田からプロポーズされたのは、さいこん禁止期間が経過してすぐのころでした。彼に対してれんあい感情があった訳ではありませんが、前夫の死後私を支えてくれた彼には好意をいだいておりましたし、金銭面をこうりょしても、その申し出は非常にりょく的なものでした。私は彼の申し出をかいだくし、私達はふうになりました。

 夫婦になってすぐに、太田が〝外の顔〞と〝内の顔〞を使い分ける人間であることに気がつきました。結婚前に見ていた「頼りになり、づかいもでき、社会的にも評価されている太田」は外向きの顔であり、内では「弱い立場の人間を見下し、とうし、思い通りにならないと許せない太田」の顔を現すのです。


 今であれば、太田の行動は完全なるモラハラと言えるでしょう。しかし、当時そのような言葉は存在していません。だんおだやかな彼をこんなふうにおこらせてしまう私が悪いのだと、そう思って自身を責め続けました。そうして毎日、少しずつ自分がり切れていくことに、私は気づくことができませんでした。

 そんな私に、絵莉朱は何度も「別れなよ」と言ってきました。「あいつはつうじゃない、おかしい」と。しかし私は、絵莉朱の言葉を聞こうともしませんでした。子どもの絵莉朱に何がわかるんだと、そう思っていました。いつしか絵莉朱は私に言葉を掛けることをやめ、だいに親子の会話もなくなりました。

 絵莉朱は物心がついてからは、太田といっさい関わりを持とうとしませんでした。しかし一度だけ、二人が大げんをしたことがあります。太田の私に対する態度を、絵莉朱が強く非難したのがきっかけでした。「お母さん、目を覚まして。二人で幸せに生きて行こうよ」と、絵莉朱が言ってくれたのを覚えています。


 しかし私は、差し出された絵莉朱の手を取りませんでした。あのしゅんかん私は絵莉朱よりも太田を選んだのです。私のことを愛し、そして救い出そうとしてくれた絵莉朱を、切り捨ててしまったのです。あの時の絵莉朱の絶望的な表情を、私は一生忘れないでしょう。その日から絵莉朱は家に帰らなくなりました。「あいつと何かがあったら、しょさいかくされている日記を探したらいいと思うよ」と、絵莉朱が私に言ってきたのが、私のおくの中で最後に絵莉朱とかわした会話です。しかし、私がなんと返したのかは覚えていません。久しぶりに家に帰って来て、いきなり何を言い出すのだと、しんけんに取り合わなかったのです。

 そして時は過ぎ、絵莉朱が事件を起こし、太田は入院することになりました。週刊誌には「絵莉朱の起こした事件に責任を感じての精神的な不調から来る入院だ」というようなことが書かれていましたが、とんでもありません。今回の事件も、彼は「義理の娘が私の顔にどろった」程度にとらえているはずです。


 ではなぜ太田は入院しているのか。現在の彼は、いわゆる植物状態にあります。私が内にのみ向けていると思っていた彼の顔は、職場でも立場の弱い相手に対して向けられていたそうです。そのことが職場で問題となり、彼はかんしょくに追いやられました。プライドの高い彼は、そこで自殺という道を選んだのです。


 しかし太田の思い通りに事は運ばず、彼は一命をとりとめ、今も生命をしています。病室の中でたくさんの管につながれ、意識がいつもどるのか、そもそも戻るかどうかすらもわからない状態で。このような状態になってやっと、私は太田とのいびつな関係に気づきました。そして、絵莉朱の言葉を思い出しました。


 先に言っておくと、おそらく絵莉朱は日記の内容を見ていないでしょう。太田が毎日何かを書き記していること、そしてそれを厳重に保管していることから、彼の弱みになるようなことが書かれているのではないかと考えての言葉だったのだと思います。しかしそこには、想像を絶する内容が記されていました。


 私の前夫に強い酒をすすめてわせて、川へき落としたこと。前夫が残した家や私を手に入れるために手を回したこと。前夫と太田が学生時代の友人であるということや、当時人気者だった前夫に太田がれっとう感を抱いていたこと、そして前夫の残した家屋に相当な資産価値があることも、日記を見て知りました。


 もちろん、日記の内容がどこまで本当のことなのかはわかりません。全てが太田のもうげんである可能性もありますし、いまさら真実を明らかにしようというがいもありません。しかし、某週刊誌で書かれているような〝悪女としての絵莉朱〞が絵莉朱の全てではないと、そのことだけは知っておいてもらいたいのです。


 本来の絵莉朱は、家族を大切にするやさしい子です。人を見る目もありますし、悪に立ち向かう勇気も持っていました。だからこそ、私は何度も考えてしまうのです。絵莉朱を信じて、あの子の言葉に耳をかたむけていれば、と。そんなことは無意味だとわかっていながらも、何度も何度も、繰くり返しこうかいするのです。


 これで私の話は終わりです。長々とした文章をお読みいただき、ありがとうございました。繰り返しますが、絵莉朱の犯した罪に関しては許されるものではありません。しかし私は、生まれ変わった絵莉朱が、本来の自分が持つらしさを発揮し、幸せに生きてくれることを、どうしても願ってしまうのです。

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