第5話
水芭蕉の群生を、倫治は実際には見たことがない。
再びぐずぐずの汗みどろになった倫治と瑠璃子は、倫治の万年床で意味もなく絡み続けていた。倫治の胸の上に瑠璃子の頭が乗っている。後ろ髪はやはり刈り上げたばかりなのか、ちくちくと倫治の皮膚を刺した。カーテンを閉め切った室内は、昼近くでも薄暗かった。
それで、ぽつりとそんなことを倫治が言うと、瑠璃子は顔を上げて倫治をわずかばかり見下ろした。瑠璃子の表情はやはりどこか変わっていた。女は男と身体を重ねると、とたんに肌から険が消える。それまで視線や呼吸、身体の使い方の全てで厳密に一線を引いていたものが、ぱっと消え、急激に親密になるのだ。あんなに馴れ馴れしくふるまっていた瑠璃子だったが、そこだけは絶対的に途絶していた。
倫治も経験が多い方ではないが、一線を越えたあと、女の身体の周りに確かにあった、硬く透明な膜が消えたと実感したことは一度や二度ではない。最後まで変わらなかったのは伸子くらいか。
「水芭蕉、見たことないの?」
やはり、その言葉の使い方にも気遣わしい優しさが、ふわりと香る。瑠璃子自身は気付いていないかも知れないが。
「写真では知っとるが、実物は見てないな」
「そう」
瑠璃子は倫治の胸に再び頭をおいた。短いその髪をなでると、瑠璃子は倫治の脚に自分の脚を深く絡めた。
「私も、一度だけだわ」
言葉を続けようとはしなかったので、倫治は溜め息を吐くと共に、枕元へ転がしていたリモコンをつかみ冷房を入れた。さすがにこれ以上は脱水症状を起こしかねない。こおおとエアコンが唸りだすが、これもロートルだから効きはじめるまでに時間が掛かる。よくぞ壊れもしないで働くものだ。冷気より先に家電特有の匂いがやってきた。
「後藤さんと早苗は似てたろう」
「ええ。とっても」
「その後、早苗はどうした」
「とても荒れたわ。私、たまたま一緒にいたってだけで、路地裏の壁に押し付けられて首を絞められたのよ」
瑠璃子にはもう、早苗にいじめられていたのが自分だったことを隠すつもりはないらしかった。原因というのも、およそ察しがついた。瑠璃子が真美子の娘だと知られたからだろう。
「なんであんただけが幸せなのよ。なんであたしばっかりこんなハズレクジ引かなきゃなんないのよって。早苗には、私が幸せなように見えていたみたい。――不思議ね。人間って、自分ばっかり不幸だと思ってたら、他人の苦しみは思いきり低く見積もるの。親が離婚してくれてたら見なくて済んだものがたくさんあるってこと、早苗には想像もできなかったの」
瑠璃子の指先が倫治の胸の上を這う。ゆっくりと腹の上へと降りてゆく。
「そこからは早苗にも思うところがあったのか疎遠になったんだけど、相変わらずファッションで目立つタイプだったから、学内で見掛けたら気付くし、人からの噂もよく流れてきたの」
「ファッションで目立つ?」
「思想をファッションに反映させるってこと。服装って、私なんかは快適さとか、ちょっと色や形が好きかくらいしか考えないけど、そうじゃなくて、内面を外見に反映させて主張しようとするというか」
「コスプレみたいなものか?」
「ええと、少し違うんだけど……ううん、もしかしたら根っこは近いのかも。自分はどういうステージや属性を持っているのかってことをファッションで主張するのね。矢野さんは、自分が本当は何を考えているかとか、本心を世界中に知らせたいと思う?」
「思わんよ、そんなことしてみろ、煩わしいもんが湧いて出てくるだけだろ」
「私もそう思う。でも早苗とかみたいな人って、一生懸命「わたしを知って」「間違えないように完璧に理解して」って、外見でも言葉でも求めないではいられないみたい」
「病気か」
「そうなのかも。そこまで求めだしたら不健康だと思う。でもやらずにはいられないの。それは早苗の目から見えている世界が、ものすごく狭くて窮屈だったからなんだと思う」
「その、世界が狭いっていうのもよくわからんな。それはインターネットとかで世界中の人間とやりとりしてたりっていうのがないって話か?」
「そうじゃなくて――自分の発言を聞いていたり、自分のことを見ている人がどれくらいいるかってことを想像できる幅っていうのかしら」
「誰にどう見られているかを考えて行動するってことが、うまくやれねぇってことか」
「そう」
そんなことなら――インターネットは関係がない。ウェブが普及する以前から、人目を考え立ち居振る舞うというのは、社会に生きていたら当たり前の話しだ。それが上手くやれなかったというなら、それは生き辛かったろう。
「私は、実際の面識なんかはなくても、SNS上で私のことが見えている人とはもうコミュニケーションが成立していると思うの。だから、自分の意見は別に曲げたりしないけど、その場所で言う必要があるかどうかの引き算はするのが当たり前だと思うのね」
「言わんでもいいことを言うヤツは昔からいるし、そういうのはハブられるのが当たり前だったからそこは分かるが、前半がよく分からんな。それは、実際に会ってはいなくてもインターネットなんかで何か書いたりそれを読まれたりしたら、それでもうコミュニケーションは成立してるって考え方か?」
「そう」
「それ、疲れんか? ただ普通に仕事したり近所付き合いするだけでも疲れるのに、わざわざ疲れるための場所を増やしとるだけなんか? 今の連中は」
「ほんと疲れると思うわ。そしてハマる人ほど抜けられなくなるの」
「なんだ、それも病気か」
「そうねえ、そうなのかも。……人付き合いって、本音と建て前を分けるのが大人なら当然のことだと思うんだけど、早苗は実生活でもウェブ上でも、本音をぶちまけずには生きられない子だったの。昔はインターネットの世界ってアングラで汚い本音を垂れ流しにしていい下水みたいな場所だったみたいだけど、今は時代が変わって、そこでも公共性に配慮することが当然だってふうに変わってきてしまった。使用層が拡大したのだから、当然よね。でもその変化に適応しそこねた、古い世代の人たちが残ってるから、よけい早苗も歯止めが効かなくなってしまったの」
倫治の臍にまで伝い落ちていた瑠璃子の手が持ちあがり、今度はぺたりと倫治の心臓の上に乗せられた。
「つまり早苗はね、自分が人に理解されたい、認められたい、見てほしいを発信するのに必死で、他人からどう見られているかが意識のなかになかったの。見えている半径一メートルくらいの狭い世界を見落とさないようにするので精いっぱい。でも自分を見つけて欲しいから日々の感情をSNSに書き込んで、こう見られたいという属性のファッションの型に自分を押し込んで飾り立てるの。それが攻撃性だってことに気付いてないから、周りからはどんどん人がいなくなっていく。だけど早苗って、人から距離をおかれているなとか、無視されてるなってことは敏感に察知するから、余計過剰に傷付いて悪化するのね」
倫治はうんざりした。聞いているだけで憂鬱になる。
「それでね、あるとき、ぱったり見掛けなくなったの。一ヵ月くらいだったかしら。次に見掛けたときには冬だったから、いなかったのは秋だったと思う。それで気付いたの。服も髪型も、顔も変わってるってことに」
「顔が?」
「あの子、整形してたの」
ああ、と腑に落ちた。遺影の顔が自分にも伸子にも、後藤にもまるで似ていなかったあの顔はメスを入れていたからか。
「水商売に手を出して、お客さんの愛人みたいになってお金もらって、それで更に整形をくり返して、ダウンタイム中に休むから単位もとれなくなって、三年のはじめにはもう退学してたわ。そこからは会ってなかったんだけど……」
ふふ、と瑠璃子の零した吐息が倫治の裸の胸をなでた。
「こっちが気にしないように、見ないように必死で過去にしてきたのに、早苗はずっと私のことを見てるの。私だけ幸せそうに生きて見えるのが許せなかったんでしょうね。私が大学を出て就職して、旦那と出会って結婚して――あの子、それをずっと待ってたの」
ぎり、と瑠璃子の爪が倫治の肌に立つ。まるで心臓を抉りださんとするように。
「私だって早く家を出たかった。名前を変えて出直したかった。子供ができて、私は絶対に母さんみたいにはならないって、ちゃんと子供と向き合う母親になるんだって思ってた。ちゃんと自分の人生を生き直そうと思ってた。なのに、まさか旦那に手を出してくるなんて思わないじゃない」
「早苗が、か」
瑠璃子の身体は、強張っていた。ようやく効きはじめた冷房が、触れた瑠璃子の肩を冷やしていた。
「あの子はもう、怖いものも守らなきゃいけないものも、なんにもなかったのよ。自宅に押し掛けてきて証拠の動画を見せられて、旦那なんか青ざめて土下座してきたわ。別れるつもりなんかなかったすまない許してくれって、何それって思うじゃない。それで早苗はずっとにやにや笑ってるの。そういうのの全部を早苗は見たかったのよ。旦那を寝取りたかったわけじゃない。私を同じ奈落の底に引きずり降ろしたかっただけ」
瑠璃子はゆっくり身を起こすと、引きつったような笑みを浮かべて倫治を見下ろした。
「それで、そのあとは。子供はどうした」
瑠璃子は、目を細めて首を横に振った。
「だめになっちゃったの」
思わず倫治は瑠璃子の腹部に手をあてていた。わずかに残った妊娠線のあとが、死産時期が後期だったことを示している。
「知らなかったのよ。中期以降の死産ってふつうの出産と出し方は変わらないのね。でも陣痛は来ないから膣にバルーンを入れて無理矢理産道を開いて薬もガンガン効かせて……苦しかったなぁ、一人で全部耐えるの、ほんと辛かったな……身体も気持ちもボロボロで、でも七日以内に死産届けを出さなきゃ罰則でお金払わなきゃいけないの。旦那逃げちゃって連絡も取れなくて、どうしようもなくて母に電話してきてもらったんだけど、呼ばなきゃよかったって心底思った。あの人も早苗と一緒。私が普通に幸せそうに暮らすのが許せないのよ。病院で私を見た母が、すごく嬉しそうに泣いてるところを見て、あの瞬間に、私の中の何かがおかしくなっちゃったんだと思う。きっとわたしの頭は何かに呑まれてしまったのよ。子供の骨壺を抱えて一日中ずっとソファに座ったままでいたから、旦那も怖がって、本当にウチに帰ってこなくなったわ」
倫治は自分も身を起こすと瑠璃子の身体を引きよせた。そこにはもう真美子の面影は見えなかった。それはただ瑠璃子だった。倫治の肩に額をあずけ、瑠璃子はふるえる吐息を細く長く倫治の胸にふきつけた。
「さすがにもう旦那とやり直すつもりはなかった。でも実家に帰るのはもっと嫌だったから、名前は戻さないままにしたの」
「それで沢村じゃなくて間原なんか」
倫治の言葉に瑠璃子は頷いた。沢村は、真美子の嫁いだ先の名だ。
薄暗い中、とろりと濃い感情をその身一杯に詰めこんだ瑠璃子の裸体が浮いて見える。生々しいのに現実感がない。どこか演じているように見えるのは、女がそもそも女を演じて生きているからかも知れない。それは、男が男を演じる舞台から降りられないのと、きっと同じことなのだ。
自分達は何時だってきっとそうなのだ。世間が用意した顔と服をまとって、なんとか取り繕って生きたふりをする。だからこそ、こうして肌と肌を重ね合わせるような相手にだけは剝き出しのままを受け入れられたい。どうしても、そう願ってしまうのだろう。
ただ倫治はそれについて懐疑的だった。期待は大抵叶えられないと諦めがつくくらいの長さは生きた、ということか。もう盲目的に他人を信じることは難しい。本当の剥き出しの心を誰かに語って聞かせたところで、その結果返される見解が自分にとって望ましい反応である保証はどこにもない。よしんば望ましいものであったとしても、望ましくあり続けてくれるとも限らない。何よりも、本音を明け渡すことによって、今度は相手が何時こちらを見限るか、裏切るか知れたものではないという新たな苦悩が生まれる。そのことに後から気付いて関係を深めたことを悔やむのだ。遅れてずしりと圧し掛かる絶望のほうが、よほど苦く重い。
他人を信頼などできない。全てを預けても身軽にはなれない。自由にもなれない。預けた他人という存在が増えた分、更に重くなるだけだ。だったらはじめから自分の抱えられる荷物だけをぶら下げて、今日の日を生きることに専念すればいい。そう思って倫治はこの家に戻ったのだ。
なのに、ここまで生きて歩いてきた足跡が、こうして後から追ってきた。その吹き溜まりが瑠璃子だったということなのだろう。人間はどう足掻いても自由にはなれないらしい。
「どれくらいそうしてたかしらね。あるとき、ちりんて、風鈴が鳴ったのに気付いたの」
「風鈴」
瑠璃子が少し倫治から身を離した。目と鼻の先からじっと倫治の目を見つめる。きらきらと綺麗な女の目は、底が見通せないほどに、どす黒い。
「そう。風鈴というか、石をスライスしたものを三枚ほど吊り下げただけのものなんだけど、この音がしたから、私骨壺をテーブルにおいたの」
ちりんちりんと音が鳴る部屋のなかで、女が一人、ソファから立ち上がるのを倫治は見た気がした。そのときの瑠璃子は、果たして今のような目をしていただろうか。
「そこから私、早苗のことを調べてもらったの。私一人じゃやれそうになかったから、興信所を使ったわ。それで、結果の報告書を持って出掛けたの。鞄の中にあの子の骨壺も入れて、電車に乗っていったの。あの日もすごく暑かったから、あの子が暑がって骨が傷んだらいけないからと思って、保冷バッグにたくさんの保冷剤と一緒に入れてね。ばかみたいでしょ、そんなことあるはずないのに」
こおおと冷房のうなりが増す。瑠璃子が乗っていた電車も冷房は効いていただろうか。たった一人、死んだ子の骨壺を大事に抱えて向かう先は闇の中だろうか、それとも水芭蕉の咲く沼地の底だろうか。
「興信所で調べてもらった住所は団地だったわ。私が訪ねる十年くらい前から、二人でそこに住んでたみたい。訪ねたときには、お一人でお家にいらしたわ。玄関を開けた瞬間に、顔で私だってわかったみたい。一瞬で能面の若女みたいな顔になったわ。急に訪ねていったから、用があるのが自分のほうだって思わなかったみたい。早苗の友達ですって名乗ったら、物凄い顔してらしたわ。私達が関わりあってたのも知らなかったみたい。娘はまだ帰ってないから出直してくれって言われたけど、用があるのはあなたです、聞いて下さるまで待ちますって言ったら、しぶしぶ上げて下さったの」
倫治の喉がこくりと鳴った。それはつまり瑠璃子が訪ねた家というのは。
「まずテーブルの上に娘の骨壺を――ああ、娘だったのよ、その骨壺をおいてね、早苗と旦那のことを説明したの。そしたらすごく苦い顔で自分は知らない聞いてないって言ってから、すごく汚い笑い方で「親の因果が子に報いね」ってぼそっと言ったの。それでね」
うふふふふと、瑠璃子は笑った。いや、嗤ったのか。嗤うそばから両目に涙が盛りあがってゆく。こんな風に女が泣くのを倫治は初めて見た。伸子も真美子も母も幸代も、みんなみんな悲しそうな辛そうな顔で、涙より先に顔を歪めていた。悲しい顔を作ることで泣いているのかと思っていた。でも瑠璃子は違った。こぼすつもりのなかったものが溢れ出ているのだと、倫治にも分かった。
「本当にそうですねって言って、証拠の写真出したの。ほら、矢野さんも後藤さんと一緒に使われてたから知ってるでしょ? クラブ沙紀ってお店。早苗、あそこで働いてたの。そう、早苗ね、後藤さんの愛人やってたの」
「は」
「顔もずいぶん変えてたから分からなかったみたい。そもそも後藤さんて方、早苗のことちゃんと知ってらしたのかしらね? それで私、伸子さんに教えてさしあげたのよ。早苗が後藤さんに「奥さんとは別れなくてもいいけど、自分以外の女とは手を切って」って言ったんだって。それで伸子さんも切られたんですよって」
「まっ、え?」
「伸子さん、真っ青な顔になってね、そこからもう、すごくうるさかったわ。どこからかはわからないけど、御近所から苦情の声も聞こえたわ。夏で暑かったから窓を開けてたのもあってよけいに響いたのね。私、これ以上はお話にならないかなと思ったから、娘のお骨を保冷バッグに戻して、そうそう、お土産にってこしらえてきたおはぎを代わりに残して帰ったの。「ぼたもちです、どうぞ早苗さんと仲良く召し上がって下さい」って。あのときはまだ勘違いしてたから。そうそう、玄関を出る前にふり向いたらね、ダイニングテーブルでまだ伸子さんが叫んでたから、「慰謝料に関しては弁護士さんを通してご連絡しますって早苗さんにお伝えください。形ばかりだったかも知れないけれど、一応こちらはきちんと結婚してましたので」って伝えてから、扉を閉めたの」
団地の金属製のドアは、がちゃんと閉まったのだろう。だが、そのあとに恐らく風鈴の音は続かなかったろう。
伸子は、あの日、あの家に風鈴をおいていったのだから。
「でもね」
瑠璃子は両腕を倫治の首に回した。
冷えた二つの乳房が、倫治の胸に押しあてられる。冷房が効いてはいても室内の四隅には呪詛のような熱がわだかまっている。どこまでいってもこの熱は消えない。どれほど海だか沼だかの底に向かって沈んでいっても、ずっと倫治の周りを取り囲んでいるのだ。そして倫治のことをじっと見つめるのだろう。倫治が死ぬその日まで。
「慰謝料の請求はできなかったの。それからしばらくして、二人してダムに飛び込んじゃったから」
――きっとショックを受けますから、このままで。
あの日の葬儀社の人間の声が耳の奥によみがえる。
早苗はそのとき、さらに顔にメスを入れた直後だったらしい。ぐちゃぐちゃに潰されていたらしいから、伸子がやったのだろう。母子による無理心中なのか事件性があるものか、倫治も警察に話を聞かれたが、そもそも二人がダムに浮いていたと警察から連絡を受けたのが数十年ぶりに聞いた二人の消息だったのだ。関りがあるはずがない。
葬儀場の控室で、離婚してからどちらにも一度も会っていないというと、その警官には呆れ顔で「じゃあ慰謝料も払わず養育費も払わず会わずでほったらかしだったわけですか」と溜め息を吐かれた。事情を説明する意義も、わかってもらう必要性もなかったから「ほんまですね」とだけ返して終わらせた。
瑠璃子は倫治の上に再びまたがる。
「ねぇ矢野さん、この後どうします? おはぎ食べますか?」
今日、最初にも聞いたそのフレーズに、倫治は笑って「やめとくわ」と瑠璃子の髪の中に片手を差し入れた。じょり、と潔い感触が後頭部にあった。
「一緒に奈落に沈むんだろ? 分けて食っても致死量が一人分なら心中もできやしねぇ」
倫治の言葉に瑠璃子は目を丸くして「あははっ」と子供のように無邪気な声を上げて笑った。
ほろりと瑠璃子の頬を伝ったものは、冷房が効いているのだから、汗ではなかったはずだ。
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