第5話

「この祭りには、どうして来たの?」

「……へ?」

「お、おう。起きたら、花火が鳴って、そして、外を見たら……」


「鯛! 黙って、黙って」

「お、おう」


 俺は少し考えてから、こう言った。


「お姉さんの方は、どうやってこの祭りに来たの?」

「え? そりゃ、家の近くだから……」

「……へ?」


 かき氷がカラになる頃には、竹のベンチを照らす日差しの中に、風鈴の音がどこかから、鳴ってきた。


「私、帰るね……」

「……」

「お、おう」


 浴衣姿の綺麗なお姉さんは、この海からは遠い岩場の方へと歩いていった。


 辺りを踊る人たちの朧気の姿が、いつの間にか、どこかへと消えていた。神輿を担ぐ人たちも、祭囃子もなくなっている。


 海の上の波も穏やかになって、なんだか、後の祭りのようだ。

 

「……鯛。俺たちも帰るぞ」

「……そうだよなあ」

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