第3話 夏祭り

「俺も踊ろうかな?」


 鯛がぼそりと言った。


「あ、俺も……」


 玄関を開けると、そこには海の上に屋台に、神輿に、浴衣姿の人々がいた。みんな踊っているみたいだった。


 いや、でも変だ。

 みんな蜃気楼のように姿が朧気だぞ?


「これなんだ?」

「やっぱり、夢かー。なんだよ、夢なんだよこれは」


 玄関先は砂浜だった。

 広々とした海の上は、祭りで輝いていた。 


「踊ろう」

 

 鯛の奴が開き直って、海の上を歩き出した。

 

「ほら、大地も。一緒に踊ろうよ」

「ああ……」


 俺も海の上に砂浜から乗っかる。

 海の上は、変な感触だった。

 海水は柔らかく。揺れ。足腰が不安定になる。 


「これは踊りには、うってつけだ!!」

「ああ、海の上で踊るの最高ーーー!」


 俺たちは海の上で、朧気な姿の踊る人々や神輿を担いでいる人々と、陽気に踊った。最初、踊りなんて知らなかったけど、みんなの動きを真似した。鯛もそうだった。


 朧気なみんなの踊りと、祭囃子に合わせて、俺と鯛は踊った。


 高波、大波、荒波、つむじに、潮風に乗って、秋田竿燈まつり。鳥取しゃんしゃん祭。徳島阿波おどり。日向ひょっとこ夏祭り。馬関まつり。山形花笠まつり。博多祇園山笠。高知よさこい祭りなど、昔に一度は行ったことがある賑やかな景色が、俺の脳裏を順々に横切っていく。


 もう、小一時間経ったかな。


 少し疲れて。ふと、俺は踊りを止めて花火が気になった。見上げてみると、巨大な花火が打ち上げられたようだ。ヒュルヒュルと、空に昇っていく音がとても痛快だった。


「お! これは期待!」


 俺は空を見上げた。

 ドーーーンっと、特大の大きい音が空で鳴り響いた。

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