第2話

「おい! 鯛! 起きるぞ! 逃げよう!」


 布団から飛び出て、鯛を叩き起こした。

 布団に潜っていた鯛の奴は、ガタガタに震えやがっている。


「お、おう!」

「まずは、旅館から出ようぜ!」

「お、ああ。大地は踊らないのか?」

「はあ、お前寝ボケてんだろ!!」


 鯛の奴を連れて、この部屋のドアを開ける。

 廊下はとても暗くて静かだった。


 祭囃子は、階下から聞こえる。

 廊下を二、三歩歩いて、気が付いた。

 階下からでないと、出入り口がないんだっけ。


「とりあえずは……うーん……祭り見てみようか?」

「お、おう」


 俺は鯛を連れて、階下へと向かった。 

 

 ドーン……と、打ち上げ花火の大玉が空で弾ける音がした。

 それから、ザワザワと火花が落下する音がしている。

 

 きっと、外は色とりどりの火花が落ちているのだろう。

 そういえば、俺たち以外の人がいない。

 同じ部屋にいるはずの戸田や酒井や深川もいない。


「ちょっと、怖いけどこれは夢だと思おう。さあ、外へ行くぞ! 祭りだ! 祭りだ!」

「いや、大地? 外は海だったぞ。どこで祭りなんかやってるんだ?」

「……あ。確かにだなあ……」

「なんか、マズくないか? これ。俺は夢じゃないような気がしてくるんだ」

「確かにだなあ……まあ、深く考えるな。きっと、夢の中だよ」

「お、おう」


 俺たちは広い階段を降りて、玄関を目指した。

 土産店や自動販売機を横切ると、正面に靴が雑多に脱ぎ捨てられた玄関がある。


 玄関の外は、祭りでごった返している音だ。

 音響のあるスピーカーからの祭囃子で、鼓膜と心臓が振動するかのようだ。

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