織姫と彦星に願う

黒片大豆

ささのはさらさら

「なんて書いたの?……っぷ! 『お金持ち』だなんて、子供っぽ」

「うっせ」

「わたしは……じゃん! 『織姫と彦星が、今年も出会えますように!』」

「なんだそれ、当たり前じゃん。たとえ雲で見えなくても、年一回イチャコラしてんだよ奴ら」

「うわ、ロマンもなければデリカシーもない」

「うっせ」

「でも……さ」

「ん?」

「年一回、なんだね。会える機会って」

「人間の寿命として考えたら、酷だな」

「そうかな。ちゃんと出会えるだけ嬉しいと思うよ? 羨ましいくらい」

「そうか? 年一回だぞ? なんも連絡が無ければ、お互い忘れちまうぞ普通」

「ううん、相思相愛だったら、しつこいくらいに覚えていると思うわ」

「そんなもんかね」

「んもう! ほんとデリカシーないんだから!」



***



濃い黄緑色アイビーグリーンの短冊は、笹に紛れて風に揺れていた。

今なら理解できる、彼女の言葉。小暑の候になると痛いほど頭の中で繰り返される。

後悔しても悔やみきれない。気の利いた言葉すら返せなかった自分が憎い。


空を見上げると、天の川を隔てて織姫ベガ彦星アルタイルが煌めく。

彼女は今、どのあたりで瞬いているのだろうか。



『また、君に会いたい』



今年の短冊にも、俺は、叶うことのない願いを書き留めていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

織姫と彦星に願う 黒片大豆 @kuropenn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ