2-4
浴室から出たリリーベルは、用意されていた分厚いふかふかの布で身体を
(えっ。私のワンピースがない……!)
身体に布を巻きつけておろおろしていると、横の出入り口から白いお団子頭の侍女頭が姿を現す。
「失礼いたします。新しいお洋服をご用意しました」
侍女頭は言葉の通り、両手に畳んだ服を
エリアスの言葉を思い出し、リリーベルは
「あ、ありがとうございます……。私がその綺麗なお洋服を着てもいいんですか?」
尋ねると、侍女頭はくしゃっと顔中を
「もちろんでございますとも。以前のお洋服とエプロンは、お部屋に
下着とはいえこれだけでも、レースがふんだんに使われていて、さっきまで着ていた
それから侍女頭は、おそらくは他国から取り寄せたと思しき、エキゾチックな
目の前には
鏡の下には小さな棚があって、丸められた綿の入ったガラス
姿を見えなくしているゴランは、そこにちょこんと腰をかけ、足をぶらぶらさせて楽しそうにこちらを見ていた。
(家にもお風呂はあったけれど、井戸の近くの石のタイルを
「リリーベル様。よろしければ、どうぞ」
「あ。ありがとうございます!」
せっせと侍女頭が髪を
こんなによくしてもらっていいのだろうか、とリリーベルが
「汚れを落とすと、なんとまあ
「えっ。そうですか……?」
本当だろうか、とリリーベルは思った。
幼いころから継母に、薄汚い、不細工だと言われて育ったため、外見に関しての自己評価は、地の底にのめり込むほど低いのだ。
それにちょっとでも髪を
(本当のお母様は……同じ赤い髪でも、とても美しいと社交界でも評判だった。似姿の絵は、みんな燃やされてしまったけれど……私の心の中のお母様までは消せないわ)
そんなことを考えていたリリーベルだったが、鏡を見ているうちにハッとした。
顔の汚れが落ちた上に湯で血色がよくなり、髪を綺麗に左右で結われた自分の顔が、一瞬母親のものとだぶったのだ。
(……お母様に似てる……のかしら? まさか、
鏡の中のリリーベルに、背後から侍女頭が笑いかける。
「ほら、すっかり可愛らしくなられましたよ。さすがエリアス様は、見る目があります」
侍女頭は満足したように、うんうんとうなずいている。
「さあ、それではこちらのワンピースを」
侍女頭に渡されて、リリーベルは
大きな白い
袖は折り返しの部分が白く、くるみボタンは服と同じ色だ。
洗練されて可愛らしいデザインだということは、あまり洋服に興味のないリリーベルにもわかった。
飾り
まったくもう、とリリーベルは
(これでエリアス様に、みっともないと思われないようになったかしら。少なくともここにいる間は髪もきちんと梳かして、怒られないようにしなくちゃ)
ね。と鏡の中の自分に、リリーベルはうなずいた。
「おお! これは驚きました。格段にお美しくなられて……大変よくお似合いになっておられますよ!」
そう言ったのは、全体的に丸くて背の低い侍女頭と対照的に、痩せていて背の高いロマンスグレイの
「あ……ありがとうございます」
たとえお世辞でも、そう言ってもらえるのは嬉しい。
服も髪も綺麗にし終えたリリーベルは、侍女頭に居間へと通されていた。
いかにも
「午後のお茶にいたしましょう。すぐに、焼き
リリーベルは、きょろきょろと部屋を見回した。
「あの。エリアス様は……?」
「ご公務で、今から国境警備のパトロールにお出かけになるところです。……そこの窓から、見られるかもしれません」
いないと言われ、自分をどう評されるか心配していたリリーベルは、内心ホッとした。
(綺麗にしても、まだみすぼらしいって言われたら、どうしようかと思ってた。でも、それだったら私以外の、もっと美しい令嬢を指名すればよかったのに。……何を考えているのか、よくわからない人だわ)
そんなことを思いながらも、こちらへ、と言う執事長について行ったリリーベルは、大きな窓の前に立つ。
ぴしっと常に背筋を伸ばしている執事長は、あちらをご覧ください、と
素直にそちらに視線を移したリリーベルは、目を見開く。
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