2-3
リリーベルの本当の母親が
優しくて歌が上手で、リリーベルのことを可愛がってくれていた。ただ身体が弱く、ベッドで寝ていることが多かった。
父親もそのころは、リリーベルのことを構ってくれたし、一緒に遊んでくれた
けれど
子どものリリーベルはひとりで会いに行くこともできず、父親は病気の
継母たちが言うには、父親は町で別の女性とふしだらにも
だから自分たちには、リリーベルを
優しい父がそんなことをしたなんて、幼いリリーベルにはとても信じられなかったが、事実かどうかは確かめようがなかった。
以来、継母は女子爵となり、連れ子の娘ともども子爵家の財産を
使用人の数を減らし、その分リリーベルをこきつかって働かせていた。
リリーベルにとってはあまりにも
『……別に私はこのままでもいいわ。ここで、ゴランちゃんがいて、
リリーベルは、本気でそう感じていたからだ。
それどころか、ドレスにもアクセサリーにも興味がなかった。
リリーベルの心をつかんでいたのは、
継母に屋敷の部屋を追い出され、物置だった納屋に住むようになってから、リリーベルは庭師のおじさんと仲良くなった。
その庭師はリリーベルの事情を知っていたので
植物や土いじりがもともと好きだったリリーベルは、夢中になってその本を読んだ。
そしてあるとき、小鳥が庭に落としていった
リリーベルは最初、奇妙な種に
『暗いところがいい……? 芽が出ても無理に抜いたら、絶対に駄目……?』
まだ種でしかないというのに、なんとなくではあるが、植物の育て方が頭の中に伝わってきたのだ。
やがて鉢から出てきた芽が大きくなり、
『もっ、もしかして、あなた……マンドラゴラさんなの……? どうしよう、すごくワクワクするし、大事にしたいけど、でも、危険で怖いのよね……?』
本によると、古代人はマンドラゴラを、
ところが、この植物は生えている状態で根っこに
さらには 土から引き抜かれるその
そのため、
無事に
後年には犬の首に輪をかけて、マンドラゴラを引っこ抜かせたという
だからリリーベルは鉢を見つめ、
目が覚めたリリーベルが物音に気付いて鉢を見ると、マンドラゴラが『よっこらしょ』とばかりに、自分で土から出てきたのだ。
目を丸くして見つめていると、マンドラゴラはとことこと歩いてきて、ぴょいとリリーベルの毛布の上に乗り、ぺこりと頭を下げた。
『キャーッ、ンキャキャ』
口と
なんとなくだが、リリーベルはそれが挨拶なのだと感じ、ぺこりと頭を下げた。
『えっと、あの。……こ、こんにちは。リリーベルです』
『キュッ、キッ、プー』
マンドラゴラはわかった、と言うように、お
驚き、
『すっごく可愛いのね! ねえ、私とお友達になってくれる?』
『キューイ、ピプ』
『喜んで? ありがとう、嬉しいわ。私、お友達が誰もいないの。……でも、約束よ、よく聞いて』
リリーベルは声を
『あなたみたいな魔草がいたら、きっとみんなびっくりして、
『ピキッ? キャキャーッ!』
『そうよ、そんなことになったら大変でしょ? だからなるべく、
マンドラゴラは真面目な顔でうなずくと、さらにリリーベルに近づいてきて彼女の手に触れた。
リリーベルが
よしよしと丸い頭を撫でながら、リリーベルは不思議な感動と喜びを覚え、マンドラゴラを大切に育てようと心に決め、今に至る。
(私は納屋での暮らしにも、不満は感じなかった。冬は寒くて、夏は虫が出るのが困るけれど……あそこでなら、お庭も近いし好きなだけ魔草を育てられるもの)
最初はゴランだけだったが、
なぜならゴランはリリーベルを森に連れていくと、あちこちの
今では、不思議な光を発する葉を持つ植物、水に
リリーベルには、彼らの太陽の光が眩しすぎるという気持ちや、水を少しだけ朝に飲みたい
鉢をじっと見つめていると、自然に魔草たちの心が伝わってくるのだが、そうした感覚がないものには、魔草は育てられないと書物にも記してあった。
とはいえ、どの魔草もゴランように知能を持ち、鉢から自力で出てきて歩き回るということはない。
いつしか納屋全体が秘密の不思議な魔草園となり、リリーベルにとっては非常に
もしも誰かが納屋に入ってきても、植えられているものが魔草だとバレないように、ゴランに
そのせいで継母たちはリリーベルのことを、雑草が好きなおかしな娘、ドレスより
そしてもちろん、リリーベルはまったく気にしていなかった。
(私はただ、魔草に囲まれて静かに暮らしていたいだけ。まさか辺境伯様の『
はあ、と肩を落とすリリーベルだったが、ぴかぴかの
リリーベルは浴槽の
「ねえ、ゴランちゃん。最近どうしたの? パーティーで走り回ったり、魔獣さんに近づいたり、
「キャッ、キャーッ」
「特に意味はない? ……それなら……」
リリーベルはしゅんとして、悲しく思いながら
「もしかして、私が
「キュルルルル!」
首がもげてしまうのではないかと思うくらい、ゴランは高速で首を横に振った。
「じゃあどうして。無茶ばかりすると、私、心配になっちゃうわ。それに家から遠く
「キュウ?」
なんで? と言うようにゴランは首を傾げる。
「だって、魔草の世話ができなくなってしまうもの。少なくとも、一カ月は戻れないのよ。その間に、みんな
枯れ草だらけの納屋を想像して、じわりとリリーベルの目に
「キャッ? キャルルルル!」
するとゴランは、再びぶんぶんと激しく首を振った。そうすると葉っぱについた
『キュウ、キュウ……キャッ、キュキュ!』
「……泣かないで……? 自分が、世話をする……? でも、どうやって。辺境伯様のお屋敷は、辺境というくらいだからすごく遠いわ。隣国との境に近いのですもの」
リリーベルは、そっと目元を指で
するとゴランは手を上げて、
リリーベルが上を向くと、わずかに空が見え、そこには大きな鳥が
「あれは……雪色大ハヤブサね。とっても速く飛べる……あの鳥さんがどうかした?」
「キュー、キュッ、キャ」
「催眠魔法と加速の魔法をかけて、三日に一回鳥さんに運んでもらう? そんなこともできるの?」
「キャキュッ!」
とん、とゴランは自分の胸を叩く。
「任せておけ? まあ、あなたってすごいのね、ゴランちゃん! それなら安心だわ。これからは、危ない悪戯もしないでね」
リリーベルはホッとして、湯の中に身体を伸ばした。
それでも、辺境伯の屋敷で暮らすという想像もしたことがなかった事態に、不安は残っていた。
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