1-4
少し
そこにいたのはリリーベルの
(見つかったら大変だわ! ああ、どうか私に気が付きませんように。ここにいるなんてバレたら、しばらくご飯も抜きだし、どれだけ
リリーベルは真っ青になり、小刻みに身体を震わせた。
実はリリーベルはここに集っている、どの令嬢の侍女でもない。
リリーベル自身が、
母親が他界した後、仕事の都合で屋敷を空けることが多かった父親は、リリーベルを世話する新しい母親が必要だと思ったらしい。
急いで知人の
それが今の、リリーベルにとっての継母だった。
夫に先立たれても、ひとりで子育てをしてきたラウラの
ラウラと連れ子の娘たちは、リリーベルが
リリーベルの父親が仕事で長く不在なのをいいことに、ラウラは
そしてその状態は、父親が
義理の姉であるエイラとシイラも、ラウラと同様にリリーベルを
幼いころの思い出の
アクセサリーはもちろんのこと、ドレスなど一枚も持っていないし、姉たちとは食事の内容もまったく違う。
さらには侍女を
今夜もリリーベルをパーティーに参加させるつもりはなく、侍女として連れてこられたのだ。
着飾った三人は
(三人とも、顔が赤いわ。それに視線で穴を開けてしまうくらいの勢いで、辺境伯様を見つめてる。みんなと同じように素敵だと思っているのかしら)
間もなく楽団が演奏を始め、いよいよダンスタイムが始まった。
令嬢以外にも、その身内の男性貴族などが参加しているため、ホールの中央では、何組かの男女が手を取って踊り始めている。
この日の主役であるエリアスの周囲には、相変わらず令嬢たちが陣取っていた。
「ねえ、エリアス様。……そろそろ踊ってはいかがかしら」
「あまり
「まあ。あなただって三回も、エリアス様に申し込んでいたのじゃありませんこと?」
隙間からちらりと見えるエリアスは、何も言わずに冷たい表情をしてワイングラスを
やっぱり怖い人みたい、とリリーベルは思ったが、それどころではない。
踊っている人がゴランを踏みつけてしまうのではないかと考えて、テーブルの下に隠れたまま、ハラハラして様子を見守っていた。
すると一度はしなくなっていた強い香水の匂いが、再びふわりと
「ど、どうかしら。さっきより、少しは華やかになりましたでしょう?」
「まあまあですわね。私もお化粧を、しっかり直してきましたわ」
「少し口紅が
大広間に戻ってきた紫色のドレスの令嬢たちは、またうっとりした様子で口々にエリアスを称賛する。
令嬢たちの声には、ワクワクとした期待と興奮の響きが込められていた。
しかしエリアスは、すでに楽団が二曲目のワルツを
さらに三曲目の演奏が終わっても、まったくの無表情でなんの反応もなかったため、かすかに会場がざわざわし始めた。
「いったいどうされたのかしら、エリアス様」
「人数が多いから迷っているのではなくて? ああドキドキしますわ。さっき一瞬、私と目が合いましたのよ」
「何を言ってらっしゃるの、それは私を見たのですわ! エリアス様にはなんというか、運命を感じるのですもの」
ざわめく会場で四曲目の演奏が始まったとき、ついに
「――エリアス! そろそろ踊る相手を決めたらどうか。じっくり品定めするのもよいが、このままでは夜が明けてしまうぞ。まさか明日の夜まで、パーティーを続けるつもりではなかろうな」
そんなに
エリアスはむっつりした顔で立ち上がり、ため息をつく。
令嬢たちがいよいよだわ、と頰を
(見つけた! あんなところにいたのね!)
むっちり太った大根のようなゴランが、国王の座っていた立派な玉座の下から這い出して、ちょろちょろと床の上を走り出したのだ。
リリーベルを見てぴょんぴょんと
リリーベル以外から姿を見えなくする魔法を使っているので見つかる心配はないものの、
(ゴランちゃん、やめて! おとなしくして戻ってきなさい!)
リリーベルは必死にテーブルの下を這って、ゴランのもとへと近づいていったのだが。
「――陛下。決めました」
かつかつという靴音が、リリーベルのところに近づいてきて、ぴたっと止まる。
えっ、とリリーベルが顔を上げたそのとき、
「これが『花嫁候補』です」
まったく感情のない声で言うと、エリアスは無造作にリリーベルの手首をつかみ、テーブルの下から引っ張り出したのだ。
どよっ、と大広間がざわめき、楽団は演奏を止めた。
「はいいっ? えっ、あっ、あの……」
この大広間で、誰よりも
貴族と令嬢、国王までもが見守る中、リリーベルは埃だらけの粗末なワンピースにくしゃくしゃの赤い髪という
ふと見るとゴランはテーブルの上に飛び乗り、それぞれの手にフォークとナイフを持ち、丸い顔に満面の
(やっ、やめなさいって! 他の人たちからは、フォークとナイフが空中に浮かんでるように見えるはずよ。バレちゃうってば!)
あわあわしているリリーベルを
「これにて、私の義務は
は? と国王を
「では、失礼」
そう言ってエリアスは、リリーベルの手首を
「えっ、えっ? 待ってください、これはあのっ、どういう……っ」
ほとんど引きずられるようにしてついて行くリリーベルだが、何を言ってもエリアスは気にするそぶりも見せない。
そのリリーベルの背中に、燃えるような
背後に令嬢たちの悲鳴を聞きながら、リリーベルは
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