1-3
令嬢たちはぴたりとおしゃべりをやめ、リリーベルも思わずそちらに目をやった。
テーブルの下からだと、近くにいる人々は
毛皮の
(初めて見たわ。あの方が国王陛下なのね……。っと、こんな姿を
ますます身を縮めてテーブルクロスの
「エリアス・シリウス・スターリング辺境伯様、おなりにございます!」
静まり返った大広間に、かつかつと小気味よく
靴音が止まると、ばさっとマントが翻る音がした。
テーブルの下で様子をうかがっていたリリーベルは、周囲の令嬢たちが一斉に、ハッと息を
「よく来た、エリアス。今宵は、お前のためのパーティーだ。じっくりと見定めて、
国王の重々しい声が、大広間に響く。
「国王陛下におかれましては、ご
エリアスのものと思われる声は、甘い美声だった。
が、どこか冷たく無感情だとリリーベルは思う。
ところが、令嬢たちは別の感想を持ったらしかった。
リリーベルのすぐ近くにいるベージュ色のドレスの令嬢は、身をくねらせてでもいるのか、フリルのたっぷりついた裾をわさわさと
「エリアス……辺境伯様……! なんて……なんてお美しい方なんですの……!」
「ほ、本当に、まさかこんなに美形だったなんて。お顔も綺麗ですけれど、すらりとして、
「あらっ、何を調子のいいことを言ってらっしゃるの。さっきは野蛮だとおっしゃっていたじゃないの。もし申し込まれても、絶対にお断りすると言いましたでしょう? 一度そう言ったのですから、断固そうするべきですわ。私は……お受けしてもいいですけれど……」
また別の令嬢の言葉に、紫色のドレスの令嬢が食ってかかる。
「まあっ、ずるいですわよ! エリアス様があんなに美形だと知ったからって!」
「その言葉、そのままお返ししますわ!」
男性でそんなに美しい人などいるのだろうか。
リリーベルはそう思って、そっとテーブルクロスの隙間から顔を出し、ちらりと上座のほうを見た。
人々とテーブルの隙間から見えた姿は、遠目でも確かに顔かたちが非常に整っているとわかる。
華やかなパーティーだというのに、服装は銀色の
シャンデリアの明かりにキラキラと反射する、見事なブロンドが
きらめく
(背が高くて、足が長いわね。美しいけれど、決して女性的ではないし……確かに、令嬢たちが
それより怖そう、というのがリリーベルがエリアスに対して感じた第一印象だった。
しかし令嬢たちの様子は、エリアスを見る前とは百八十度変わってしまっている。
大広間のあちこちから、わあっ、という勢いで、
「エリアス様、初めまして! レイル伯爵家長女のエリーナと申します。今夜はもう、どなたと
言いかけた令嬢の身体を、横から別の令嬢がぐいと押しのける。
「グレイブ侯爵家のジュリアですわ。何かお飲み物をいただきませんこと? すぐに
「飲み物係はあちらへどいていただけます? エリアス様、私はリンダと申します。どうぞお見知りおきを」
「ちょっとあなた、今私を押したのではなくて?」
「勝手によろけておいて、
(す、すごい……! お砂糖に群がる、
思わず呆然として見つめてしまったその一団とは別に、リリーベルが
紫色のドレスの令嬢が、
「ああ、なんてこと! こんなことならとっておきの、一番高価なドレスを着てくるんでしたわ!」
「私だって、エリアス様のお姿を知っていたら、お
「それはもちろん、私もですわ。今夜は地味な薄化粧をしただけですもの」
「あら、そんな真っ赤なドレスをお
「それですわ! 侍女のいる控えの間に行かなくては」
結論を出した令嬢たちは、先を争うようにして控えの間に駆けていく。
それで少し視界が開け、リリーベルは必死にゴランを探したが、まだ見つけることはできなかった。
(困ったわ。あの子は
リリーベルは
家のものから見咎められずにこれまで
むやみにリリーベルを困らせたことなどないし、むしろ仕事を手伝ってくれたりして、ゴランに助けてもらうことのほうが多い。
夜はリリーベルの
土いじりの最中も、いつも
(それなのに、今日はいったいどうしちゃったのかしら。来たら駄目だと言ったのについてくるし、パーティーの会場を走り回るなんて。……あっ)
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