第57話:学年チーム戦に向けての特訓
「よっしゃ! 特訓よ!」
美里は実技場の真ん中に立つと高らかに声を上げた。
「いえーい!」
美里に続くように、来栖もまた声を上げる。
陽気な二人とは相反して俺と晶は実技場の隅で縮こまっていた。
ようやく、学年チーム戦に出場するチームでの練習に臨むことができた。他の生徒も現在は学年チーム戦に向けて練習に励んでいるようで授業外での実技場の使用許可を取るのに手間取ったのだ。
実技場で練習する際には、能力による怪我の防止のためにクラスカースト決めで使ったバッジが必須となる。職員室で受け取ったバッジを胸につけ、俺たちは実技場内に入った。
バッジによって付けられる膜には耐久値がある。一定のダメージを受けると、剥がれてしまい、再び膜が生成されるまでに数十秒要する。特訓して膜が剥がれたら休憩というのがパターン化されるだろう。
「特訓と言っても、まずは陣形を考えないとな」
学年チーム戦はグループA〜Dまでの4人が集まる。強さがバラバラのため、単純なパワーで押し切るようなことはできない。しっかりとした戦術がなければグループA、B同士の対決で終わるだろう。
美里や晶の能力をうまく活かすことがトーナメント戦を勝ち抜くポイントに違いない。特に美里の能力は使い方さえマスターすればAグループに匹敵するほどの力になりうる。
それに、2人の能力が新たな境地を踏むことは俺にとってもプラスに働く。今後対峙する敵と戦っていくためには【部分時戻】や【瞬間移動】の能力は必要不可欠になってくる。
「そういえば、来栖の能力って一体何だったんだ?」
「私の能力? やだな! 私たち、クラスカースト決めの時に戦ったじゃん! 久遠くんって案外忘れっぽい?」
「いや……覚えてはいるんだけどさ。来栖が能力を使う前に決着がついたから能力について知らないんだ」
「あ、あれ……そうだったっけ?」
来栖は頭を掻きながら視線を明後日の方向に向ける。来栖と戦った時、前の真賀田との戦いで手に入れた【空間爆撃】を使用したら、一瞬で決着がついてしまったのだ。【超絶記憶】を有しているので、俺の記憶が間違っているはずがない。
「来栖さん……遥斗に惨敗したんだ……」
横にいた美里が来栖に冷たい視線を送る。チーム内では二番目に強いはずのBグループメンバーがコテンパンにされた話を聞き、グループの選定をミスったと感じたのだろう。
「仕方ないんだよ! 私の能力って発動までに時間がかかるから、それまでは相手から能力のイジメを受けることになるんだもん!」
来栖は必死に弁明する。しかし、美里は冷ややかな視線を送ったままだった。
「時間がかかる能力ってのは一体どんなものなんだ?」
もう一度問いかけると、来栖は美里から俺に顔を向けた。
「能力名は【三ノ断罪<トレス・ダムナチオ>】。3回の攻撃で相手を確実に仕留める能力だよ。1回、柳井さんを実験体としてやってみた方が理解が早まるかな」
「なんで私が実験体にならないといけないのよ!」
「そうしてくれると助かる」「私も一度見てみたい」
俺が賛成を示すと、隣にいた晶も同調する。
「あんたらも私を何だと思ってるのよ!」
来栖に向いていた怒りの矛先が俺たちの方へ向きを変えた。
「まあ、バッジついてるんだから心配するなって」
俺は自分の胸を叩くことで俺たちを守ってくれる存在についてアピールする。
「もう……か弱い女の子に何をさせようとしてるんだか。まあ、いいわ。遥斗がどうしてもって言うのならやってあげる」
美里はため息をつきながらも要望に応じてくれた。実技場の使用時間は限られているのだ。理解が早くて助かる。
「それで、私はどうすればいいの?」
「柳井さんはその場に止まっているだけで大丈夫だよ」
話が決まったところで来栖は横にいた美里へと体を向けた。能力を使うためか少し距離を取る。それから両手で構えの姿勢をとった。
「それじゃあ、行くよ」
来栖が掛け声をかけると、美里は顔を強張らせる。唾を飲んだのか微かに喉が動いた気がした。俺と晶は呑気に二人の様子を見る。
【三ノ断罪】とは一体どんな能力だろうか。
来栖は瞬間的に息を吐くと、美里との距離を一気に近づける。拳を握ると、それを美里の足に目掛けて放つ。
「一ノ断罪」
放たれた拳の先から魔法陣のような紋章が開かれる。何事かと思った時には、来栖は体を反転させながら美里の背後に回った。
握った拳を開き、指同士の間隔を無くして包丁のような形を作る。それを今度は美里の首目掛けて打つ。
「ニノ断罪」
打ち払った手が美里の首元に紋章を発生させる。今の美里には足と首の二つに紋章が刻まれていた。
来栖は再度体を反転させて流れるように美里の懐に入った。指の間隔を離し、何かを掴むように指を僅かに曲げる。
「三ノ断罪」
構えた手を今度は美里の胸目掛けて放った。能力名と同じ名前を叫ぶと、前二つよりも大きな紋章が発生した。先ほどまでびくともしなかった美里だったが、『三ノ断罪』が決まるや否や後ろへと吹き飛んでいった。
バッジが展開した薄い膜が割れる。今までそんなところを見たことがなかったので、それだけで来栖の放った技の威力を知ることができた。
吹き飛ばされた美里は背中を地面に強打する。バリアがなくなったからか苦悶の表情を浮かべた。俺たちの方を見て、何かを言おうとしているが、口が動くこともなければ声が出ることもなかった。
「これが私の能力だよ。ごめんね、柳井さん。しばらくは動けないと思うから」
来栖は倒れた美里に向けて両手を合わせて謝罪する。
「定められた三つの場所を攻撃すると発揮する能力か」
「そっ。足、頸、心臓の三つを順番に攻撃すると発生する能力。発動条件は難しいけれど、決まったら今の柳井さんみたいにしばらくは動けなくなるんだよね」
なるほど。だから美里は口を動かすことができず、声も出すことができなくなっていたのか。確かに、発動条件は難しいが、発動すればかなり強力な能力だ。
クラスカースト決めの時は気づかなかったが、確かに来栖は上位グループにいてもおかしくない存在だったわけか。
来栖の言ったとおり、しばらくの間、美里は動くことができずにいた。何も知らず、軽い気持ちで美里を実験体にしてしまって申し訳ない気持ちになった。
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