第49話:Bグループメンバー選定2

 翌日。昨日話したとおりBグループメンバーの勧誘を行うこととなった。

 

 クラスカースト決め最終日のメッセージを参照し、名前と顔が一致していない生徒は暦に教えてもらった。暦はすでに全員の顔と名前、それから能力を暗記しているらしい。【超絶記憶】を持っているが、自ら知ろうとはしないため会話した奴しか知らない。


 Bグループにいるメンバーの顔と名前が分かったところで、美里と晶と協力し、上位3人に各々声をかけることとなった。


 俺が声をかけることになったのは真賀田 進也だ。


 真賀田はBグループ内で一番実力がある。上位クラスで真賀田が負けた全員がAグループ入りをしているのでトップになっていても無理はない。【空間爆撃】の能力は俺も多用させてもらうくらい強力な能力だ。


 ただ、真賀田には芦田のような雰囲気がある。実際、上位リーグの時は戦う前に罠を仕掛けるなど姑息な手を使っていた。狡賢さは人一倍だ。


 美里に説明すると「私たちに何かしてきたら遥斗が止めてくれる条件付きならオーケー。遥斗よりは弱いんでしょ」と言われた。


 敵ならともかく仲間に何かをしてくることはないと思われるので、俺は真賀田を勧誘することにした。それだけ真賀田の能力を買っているのだ。


 午前最後の授業が終わった。


 俺はすぐさま席を立ち、真賀田の席に足を運ぶ。他の二人を見ると、二人とも俺と同じタイミングで他のメンツの元に歩き始めていた。


「真賀田〜」


 近寄りながら彼の名前を呼ぶ。真賀田は上げようとした腰をそのままの体制でキープし、俺の方を見る。


「久遠くんが僕に声をかけてくるなんて珍しいね。何かあったの?」


 行動を妨げられたのに、真賀田は嫌な顔一つしないで朗らかな笑みを浮かべる。手に爆弾さえ仕掛けられなければ、この優しい雰囲気に安心するはずなんだがな。やっぱり、何も知らない晶や美里に任せるべきだったろうか。


「実は今、学年チーム戦のメンバーを探していてな。あとBグループのメンバーだけ決まってないから真賀田に声をかけたんだ」


「なるほど。せっかく声をかけてもらって申し訳ないんだけど、僕はすでにチームが決まっていてね」


 先生から発表を受けてすでに3週間が経っているのだ。すでにチームに入っていると言われても驚くことはない。


「ごめんね。遥斗」


 すると後ろから声をかけられる。謝罪とともに肩を叩かれた。肩に乗る手の先を辿っていくと我妻の姿がある。


「もしかして、真賀田は我妻と手を組んだのか?」


「ええ。今回のチーム戦では【空間爆撃】の能力は大いに役に立つと思ったからね」


 これには流石に驚いた。まさか身内が先に誘っていたとは。


 我妻はそれだけ言うと俺の元を去っていった。


「ごめんね。我妻さんに誘われて断れるはずもないからね。上位リーグで彼女の実力は知っているし、なんて言っても可愛いからね。では、僕はこれにて失礼」

 

 我妻に続くように真賀田も俺の元を去っていく。


 俺はどうやら下心に負けてしまったみたいだ。まあ、俺も我妻に誘われたら迷わず了承していただろうからお互い様か。


「話は聞かせてもらったよ! どうやらBグループのメンバーに困っているみたいだね」


 真賀田の後ろ姿に目を向けていると、再び後ろから声をかけられる。聞き覚えのある声のためか脳裏に一人の人物が思い浮かぶ。


「来栖か」


 後ろを向いて確かめると、脳に浮かんだ人物と目で見ている人物が合致した。


 来栖 清香。真賀田と同じ上位リーグで戦ったことのあるクラスメイトだ。


「こんにちは、久遠くん。話すのは久々だね」


「上位リーグ以来だな。それで、どうしてここに?」


「久遠くんがBグループのメンバーを探しているみたいだったからね! これは私がなるしかないと思って声をかけたんだ!」


 記憶の中でBグループのメンバーを確認する。確かにクルスの名前が刻まれていた。


「はぁ……勧誘したけど、もうチーム決まってたみたい」


 ちょうどそのタイミングで美里がやってくる。後続に晶もいて、彼女は俺に向けて首を横に振った。晶も勧誘に失敗したらしい。


「ちょうど良かった! これはやっぱり私がなるしかないね!」


 美里の発言を聞いた来栖はテンション高めで両手を叩く。


「えっ!? もしかして私たちのチームに入ってくれるの? えっと名前は……」


「来栖 清香だよ! よろしくね。柳井 美里ちゃん、それと永井 晶ちゃんも!」


「一回も話したことないのによく私の名前を知ってるね」


 美里は呆気にとられた様子で来栖を見た。そういえば、来栖にとっては「クラスメイトの名前を覚えるのは基本中の基本」なんだっけ。


「うん。クラスメイトの名前は全員知ってるから。話は戻るけど、美里ちゃんたちのチームに入ってもいいかな?」


 来栖が美里に一歩近づく。


「私は別に構わないけど……」


 美里はそう言って俺の方を向いた。特に否定する要素はないので肯定を込めて頷く。


「でも、来栖さんはBグループの中では一番下に位置してるよ」


 美里の後ろで晶がそんなことを呟いた。


 晶が言っていたのは俺も気になっていたことだ。記憶の中にあるBグループのメンバーで来栖の名前は一番下に書かれている。当初の目的は『できる限り強い生徒をスカウトすること』だ。来栖に当てはまっているかと言われれば肯定はできない。


 多分、晶はそれがあって美里に教えたのだろう。決して悪気があったわけではないはずだ。


「そ、そうなんだ。誘った3人に含まれていなかったから下位の方だと思ったけどまさか最下位とは……」


 先ほどまで乗り気だった美里の動きが止まる。最下位だと聞いたことで当初の条件を思い出したみたいだ。顎に手を添え、冷静に真面目な表情をして来栖を見る。


 反対に来栖は不思議な顔で美里を見ていた。


「でも、美里ちゃんも最下位だよね。それにDグループで」


 純真な眼差しで美里の心を抉っていく来栖。その発言は美里にとっては急所だ。案の定、美里は「うっ!」と言う唸り声をあげて、硬直状態になった。


 膝から崩れ落ち、顎に添えた手を地面につける。知人ではなく、他人から言われた時のダメージは計り知れないみたいだ。


「すみません。あなた様を私たちのチームに受け入れます」


「やった!」


 会心の一撃を受けた美里は地面に崩れ落ちた状態で来栖の願いを受け入れた。俺と晶は昨日と同じように引き攣った表情を向け合った。美里に提示された条件は一体何だったのだろうか。


 何はともあれ、これで俺たちのチームメンバーは全て決まったのだった。

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