第48話:Bグループメンバー選定

 我妻とのトレーニングを終え、レジャー施設のフードコートに足を運んだ。トレーニング後に電子端末を開くと、美里から『フードコート集合』のメッセージが送られていた。


「悪い。待たせた」


 運よくフードコートに着いた瞬間に美里の姿を発見する。そこには晶の姿もあった。


「遅い! 遅すぎて4杯目のラーメンを食べるところだった」


 美里は俺を一瞥すると目の前にあるポテトに手を伸ばす。


 4杯目ということはすでに3杯は召し上がってしまったらしい。それにプラスしてポテトを食べているのだから強靭な胃の持ち主だ。


「ほどほどにしておけよ」


「うるさいな! 遥斗が早く来ないのが悪いんでしょ!」


 そう言われるとぐうの音も出ない。返事しない代わりにため息を返しておく。


「でも、この調子だと美里は一年後には巨体になってそう」


 晶がポテトを齧りながらボソッと呟く。晶の発言に対して美里は「チッチッチ」と言いながら持っていたポテトを左右に振った。


「晶は私の能力をお忘れかしら? 私が本気を出せば過去の綺麗なお腹だった自分に戻すことができるのよ」


 美里だからできる新手のダイエット法だな。自分の能力をどんなところに使おうとしてるんだよ。


「それで、何で集合をかけたんだ?」


 会話がひと段落したところで俺は空いてる席に座る。座りながらポテトをつまんで口に入れる。


「何勝手に食べてるのよ」


 美里が冷ややかな表情を送ってくる。


「……これ、美味しいな」


「当たり前でしょ。私が買ったんだから」


 買う人によって味が変わるのか。初めて知った。それにしても、適当に誤魔化したのに綺麗に乗ってきてくれたな。


「それで本題だったね」


 美里は手元にあったコップを持ち、ストローを加えた。喋る前にポテトでパサパサになった口を潤そうとしているのだろう。それだけ重要な会話ということか。


「4月がもうすぐ終わるわ」


 ストローから口を離し、テーブルに置きながら話す。もうすぐ5月か。特訓や生徒会などで案外忙しかったから実感がない。


「学年チーム戦まで1ヶ月ほど。なのに、まだBグループのメンバーを決められていない。これは一大事じゃないかな!」


 なるほど。学年チーム戦の話をしたかったから俺と晶だけを呼んだわけか。


「私たちがサボっていた3週間のうちに強い人は他のグループに入ってしまったに違いない。早く探さないとグループの中で弱い子しか捕まらなくなっちゃう。ただでさえ、私が弱小なんだから他のメンバーは強くしないと」


「美里が鍛えればいいんじゃないか?」


「私もそうしたいのは山々なんだけど、私の能力は強力すぎるがあまり使いこなすのに時間がかかるの。私はマイペースに行きたいから今回の大会は諦めて頂戴」


 そこは頑張ってくれよ。俺は晶と顔を合わせる。晶も同じことを思っているのか眉を下げ、困った表情をしていた。


「まあ、強い人間をスカウトするに越したことはないな」


「この話を持ち出したってことは、美里には当てがあったりするの?」


「それは……」


 頭の中で該当人物を探しているのか、美里は口を開いたまま動かなくなる。しばらく沈黙で満たされた。


「それはもちろんないわよ!」

 

 分かっていたことであるが、いざ本人の口から言われると冷めるな。晶の方を見ると、彼女もまた美里に冷ややかな視線を送っていた。


「し、仕方ないでしょ! 私は下位リーグの下位だったんだから誰がBグループになったかなんて知らないもん!」


「各グループのメンバーはクラスカースト最終日に発表されてただろ。それを見れば分かるだろうに」


「分かってるわよ! でも、もう見たくないの! あそこには私の黒歴史が刻まれているんだから!」


 美里は涙目になりながら訴えかけてくる。そういえば、あのメッセージって順位づけされているんだったな。美里はクラス最下位のため下にある自分の名前を再び見ることになる。それは是が非でも避けたいみたいだ。


「分かったよ。Bグループメンバーは誰なのか俺が調べて教えるよ。それに、他のクラスに知り合いがいるから、そいつにクラスのBグループで強い人がいるかも聞いておく」


 強さに敏感な宵越なら何か良い情報をくれるだろう。


「流石は遥斗! 漢ね!」


「私も探してみる。グループに誘う相手は強い以外に何か条件とかあったりする? 私、強くても怖そうな人はできる限り入れたくない」


 晶の言うとおりだ。今回行われるのはチーム戦。いくら強くてもチームの輪を乱すような輩は避けたほうが良いだろう。


「私も怖い人はちょっと嫌かな。うーん……」


 美里は腕を組みながら熟考に浸る。


「そうね……気の弱そうな男子がいいかな」


「意外なチョイスだな。その性格で強い人はいるのか?」


 結闇が頭の中に浮かぶが、彼はAグループのため誘うことはできない。


「だって仕方ないじゃん。なんか晶の言うとおり怖そうな男子も嫌だけど、自信がありそうな男子も嫌なんだよね」


 芦田の件で、怖くなくても自信がありそうな人間にはトラウマを抱いてしまうのだろう。


「てか、何で男子は確定なんだ?」


「そ、それは……今、男子1人と女子2人でしょ。なら、遥斗がやりやすいためにも男子にした方が良いかなって」


「別に俺は気にしないけど」


 暦、我妻、神巫さん、宵越といつも一緒にいるのは女子ばかりだからな。


「何よ! ハーレムでも形成しようとしているの! 気持ち悪っ!」


 美里は口元に手を添えながら軽蔑した様子で俺を見る。


「いや、ハーレムを形成しようなんてこれぽっちも思ってないけど。女子も含められるのなら探す範囲が増えるから有難いと思ったんだ」


「そ、そうなのね。なるほど」


「多分、美里はこれ以上恋敵を増やしたくないと考えているんだと思う」


 晶の言葉に美里は顔を赤らめ明らかな動揺を見せる。


「恋敵?」


「晶ちゃーん、何を言ってるのかな!?」


 両指を奇怪に動かしながら晶に語りかける。晶はまるで自分ごとではないかのようにストローを口に咥えてジュースを飲んだ。


 美里の方を向くと、美里は視線を感じて俺の方を向く。しかし、すぐに視線を逸らした。


「べ、別に、遥斗がこれ以上女子と仲良くなったら、私の立場がなくなるとか思ってないしー」


 顔を背けながら何やら口ずさむ美里に俺は冷ややかな視線を送る。美里には授業で宵越と仲良くなったことは言わないでおこう。


「どれだけ仲良くなろうが、美里を見捨てたりはしないから安心しろ」


 俺がそういうと、美里は顔を背け続けた反動の如く椅子を俺に一気に近づける。


「その言葉は信じていいのね?」


 瞳を輝かせながら俺に確認を取る。


「お、おう……」


「やった! なら、女子もオッケー」


 すごく軽い感じで条件に女子も含まれた。


 条件が揃ったところで俺たちはBグループのメンバーを勧誘することになった。

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