第46話:会議後の会話
「何かありましたか?」
週一で行われる生徒会の会議後。俺は神巫さんを呼び出し、校舎の階段近くで話をすることにした。授業終わりのため校舎内に生徒はほとんどいない。誰かに聞かれることはないと思い、ここで話をした。
「今日議題に上がった夜襲について思ったことがあったので神巫さんに話そうと思ったんです」
俺の言葉を聞いて、神巫さんは手に顎を添える。
「それは先ほどの議会では言うには憚られる事項ということでいいですか?」
「はい。その見方で合っています」
もし、夜襲に関わる事項であれば会議で言うのが好ましい。それをしなかったということは会議で発言するには望ましくない、あるいは馬鹿であるかの二つだ。一応念のため後者でないことを確認したのだろう。
「良かったです。では、要件をお聞きしましょう」
神巫先輩が促す。俺は前に暦と話したことを告げることにした。
「もしかすると、生徒会に内通者がいるかもしれません」
口にすると神巫さんの目が微かに開く。
「どういうことですか?」
「夜の警備を始めてから二週間が経過しましたが、敵が俺たちを襲ってくることはありませんでした。その理由について考えてみたんですが、もしかすると彼らは生徒会が警戒体制を敷いていることを知っていており、強襲をかけてこなくなった可能性があるのではないでしょうか」
「久遠さんの発言には一理あると思います。ですが、ただ単に敵が久遠さんか伊井予さんの力に屈した可能性もありませんか?」
「はい。ですが、学校で攻撃を仕掛けてくるほど敵は俺たちのどちらかに恨みを持っているんです。もし、力が劣っていると分かれば増員して攻撃を仕掛けてきてもおかしくありません。それをしてこないのは生徒会が警備するのを知り、神巫さんたちの実力を知っているからだと思うんです」
「なるほど。もし内通者がいるのであれば、警備することも分かるし、我々の実力も分かる。双方を満たせるわけですね」
神巫さんの言葉に頷く。
「ここからは提案になるのですが、警備のペアを再編成したいんです」
「ペアをですか。一体なぜ?」
「少し危険な賭けになりますが、敵の強襲を誘発し、内通者を炙り出すためです。もし、内通者がいるのなら、俺か暦のどちらかとペアになった時に仕掛けてくるはずです」
「確かに。本来なら二人いる状況が一人が寝返ったことで一人になるわけですものね。久遠さんの言うとおりかなり危険な賭けにはなりそうですが、試してみる価値はあるかもしれません」
「神巫さんはご存知だと思いますが、俺は【瞬間移動】の能力を使うことができます。生徒会が警備のために敷いたルートは全て記憶しているので、どの場所で夜襲が起こってもすぐに向かうことができます」
俺が襲われることになったら使えないだろうが、俺は一人でも敵を沈められるだろうから問題はない。
「頼もしいですね。それを狙うのであれば、再編成は日にちごとにランダムにしたほうがいいですね。まだ交流の浅い生徒同士もいるだろうし、夜襲が来なくとも良い機会にはなりそうですね。分かりました。私から会長に伝えておきましょう」
「よろしくお願いします」
「別に私に話さなくても今の理由を生徒会の場で話せば良かったとは思いますが。もしかして、私に内通者がいるかもしれないことを知らせたかったんですか?」
「はい。神巫さんももしかすると狙われる可能性があるかもしれないので」
「私が?」
意外だったのか神山さんは瞳を大きくして俺を見る。
「神巫さんが知っているかもしれませんが、俺と同じペアの伊井予は誇誉愛さんの妹なんです」
「……知らなかったです。苗字が一緒だったので、もしかしてとは思いましたが」
「今回の夜襲で狙われたのが俺ではなく暦だった場合、誇誉愛さん関連である可能性が高いはずです」
「探すなと忠告を入れてきたわけですね。それは私にも該当するわけですか」
「なので、内通者が神巫さんに危害を加える可能性があります。注意してください」
「分かりました。教えていただきありがとうございます。久遠さんも注意してくださいね。もし、違った場合はあなたが狙われていることになりますから」
話が終わると神巫さんは後ろを振り向いて廊下の方に歩いていった。あまり二人で話しているところを見られたくないのだ。すぐに退散するのも無理はない。
神巫さんの言うことも一理ある。推理を披露しておいて全部間違っていて俺が狙われていただったら笑いものだよな。
「二人で何をコソコソしていたの?」
神巫さんの去っていった方に視線をやっていると後ろから声をかけられる。
後ろを振り返ると、こちらに向けて階段を降りる睦美さんの姿があった。
「睦美さん……」
「二人で話すのは初めてね。久遠遥斗くん」
優しい笑みで俺を見る。今の話を聞いていた上での表情ならばとても怖いのだが。
「い、今の話って……聞いていましたか?」
「ふふ。生徒会、内通者かしら?」
その2単語で完全に聞かれていたことが分かった。
先輩相手に聞かれるのは一番気まずい。それも、神巫さんが行ってしまった後であるのもまた気まずい。神巫さんがいてくれれば何かしらのフォローはあっただろう。
「安心しなさい。私は久遠くんの言う内通者じゃないから。もし、内通者なら今の話を聞いていなかったと嘘つくだろうし。わざわざ君に接触したりしないから」
「……信じて良いですか?」
「ええ。信じてもらう対価として体を差し上げましょうか?」
睦美さんはそう言って腕を組み、胸を強調してくる。俺は反射的に顔を逸らした。何をしてくるかと思えばお色仕掛けかよ。
「逆に怪しまれますよ?」
「それもそうね。誘惑に負けずに冷静ね。気に入っちゃった」
睦美さんは俺の肩に手を置く。先ほどの行為があったからか無意識のうちに鳥肌が立ち、警戒モードに入ってしまった。
「編成がランダムになるなら、いずれ君とペアになる日が来ると言うことね。その時はよろしくね。久遠遥斗くん」
最初にやってきた時と同じ台詞を述べ、睦美さんは階段を上がっていく。
一体何のつもりで俺のところにやってきたのだろうか。
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