学年チーム戦編

第41話:学年チーム戦について

 クラスカースト決めが終わり、異能育成高等学校の授業が本格的に始まった。


 朝のホームルーム前。

 教室に入ると机に顔だけ突っ伏している美里の姿を発見した。彼女の前には晶が立っており、浮かない顔をしている。


「おはよう。何かあったのか?」


 二人の近くまでやってくる。

 挨拶したところで晶が俺の方を向く。美里は変わらず顔をテーブルにつけたままだった。


「おはよう。美里がクラスカースト決めに絶望しているみたい」


「絶望ってDクラスは一昨日の時点で確定していただろ?」


「クラスはね……」


 美里が顔を横に向けて答える。

 目を斜め上に向けて俺を見る。上目遣いのはずなのに、全くもってときめくようなものではなかった。目に隈があるせいで恐怖味が増している。


「昨日メールが送られてきたでしょ。あそこに書いてある名前はクラスの中で順位づけされているの」


 昨日のメール。おそらく伊井予と教室で話していた時に送られて来たやつだろう。

 あのメールでは確か上位リーグ1位の俺と伊井予が上にいたな。伊井予には最初のリーグで勝っているから俺が1番目に来た。そうだとすると順位付けされているのかもしれない。


「それで、Dグループの中で美里は何位だったんだ」


「最下位……」


 なるほどクラスの中で一番下だと知って病んでいるわけか。


「てか、私のいた場所見てなかったの?」


 冷たい視線を胸ながら聞いてくる。

 メールには漏れなくクラス全員のグループ分けが記載されていたが、確かに美里のは見ていなかったな。


「Dグループっていうのは知ってたからな。晶がどうなったかだけしか見てなかった。Bグループに行けなくて残念だったな」


 美里から晶の方に視線を移す。


「別に。【瞬間移動】の能力だけでは戦いに不向きだから仕方ない」


 美里と違い、晶は自分の結果に不満はなさそうだった。


 彼女の言うとおり【瞬間移動】は強力な技だが、それ単体では大きなダメージを与えることはできない。少しずつ打撃を与えても【空間爆撃】みたいな技を食らえばすぐに逆転される。


「ふーん。遥斗は私よりも晶の方が気になるんだ」


 俺たちの様子を美里は唇を窄めながら見る。機嫌が良くないためか、メンヘラっぽい言動を見せ始めた。


「は〜あ〜! 伊井予さんや我妻さんが私の能力がすごいって言ってくれたのになー。なーんで最下位を取っちゃったんだろ。すごいって何なんだろうね〜」


 美里は再び机の上に顔を引っ込めた。


 何だろう。すごく面倒くさい。教室に入ってきた時に晶が浮かない顔をしていたのも頷ける。晶を見ると困った表情を浮かべていた。


「すごい能力っていうのは使い慣れるのにすごい努力がいるからね。今はまだ芽が出てないだけだよ」


 すると、美里の後ろから暦がやってくる。暦は俺と晶に向かって手を振りながら「おはよう」と言った。俺たちも「おはよう」と言い返す。


「別に努力してないわけじゃないのに」


「結果が出ていないのなら努力が足りてないのよ。まあ、高校生活は始まったばかりだし、これから、これから」


 暦は二回拍を打ってから顔を美里に近づける。口元を手で隠し、俺たちに分からないように話をした。


 何の話をしているのかは分からないが、暦の話を聞いて美里が目をパッチリ開く。そして勢いよく立ち上がった。


「いいじゃない! やってやろうじゃないの! 遥斗には指一本触れさせてあげないんだから!」


 俺が関与している話みたいだ。暦に視線を向けると、彼女は微笑みながら俺にピースサインする。一体何を美里に吹き込んだのだろうか。


 そのタイミングで先生が教室に入ってきた。立っていた生徒は全員席に着く。


「クラスカースト決めが終わったので、本日より育成のカリキュラムが本格的に始まる。それに先立って席替えを行う。各々電子板に表示された席につくように」


 笠見先生は自身の持っていた端末を操作する。


 教壇にある電子板に正方形が5列4行で映し出される。正方形の中には名前が書かれていた。席を表しているのだろう。


 俺の席は窓側最後列。一番良いポジションだ。荷物を持って自分の席に行く。


「はーるとさん!」


 席に辿り着くと同時に美里に声をかけられる。美里は俺の隣の席だ。


「なーに、ニヤニヤしてるんだよ」


「だって嬉しいじゃないか。遥斗くんは私が隣で嬉しくないの?」


「いや……そりゃ、知り合いがいてくれた方が有難くはあるけど」


「素直じゃないね。もっと嬉しさをアピールしてもいいのになー」


 美里は意気揚々と自分の席に腰掛ける。元気になってくれたのは良かったが、元気になりすぎるのも困りもんだな。


「全員席についたようだな」


 席移動を終えたところで笠見先生が再び話し始める。


「では、これよりホームルームを始める。今日は『学年チーム戦』について1限が始まるまでに説明しておく」


 持っていた端末を操作すると画面が遷移した。画面には昨日生徒会で見た『学年チーム戦』の説明が映し出されていた。


「前期は6月に『学年チーム戦』を実施する。まだ1ヶ月半も先の話ではあるが、始まるに先立ってお前たちにはチームづくりをしてもらう必要があるため、このタイミングで話をさせてもらう」


 学年チーム戦のチームづくりはランダムではなく各々で決める形となるわけか。


「チームはA〜Dまで各々一人ずつの計4人となる。クラス対抗ではなく、あくまでチーム対抗だ。そのため、グループが違えば他のクラスの子と組んでも構わない。クラスカースト決めとは違ってリーグとトーナメントを複合して行う」


 4クラス全て5人4グループで分けられているため余りは出ないわけか。


「高順位を獲得したチームには報酬があるので精進するように。チームづくりの厳守は『学年チーム戦』が始まるまでだが、チームでの連携も勝利には欠かせないので、できる限り早い段階で作っておいた方が良いだろう」


 電子板に表示された画面が消える。


「『学年チーム戦』の説明は以上だ。もし、質問があれば私の元に来い。ホームルームでの伝達事項は以上となる。授業が始まるまでは各々好きにしろ」


 先生はそう言って自分の席につく。何人かの生徒は質問事項があるようで、席を立って先生の元に歩いていく。


 俺は特に聞くことはないので、席についたまま最初の教科の準備を始めた。


「ねえねえ、遥斗」


 電子端末を操作していると隣の美里が話しかけてくる。


「どうした?」


 問いかけると美里は恥ずかしそうにしながら俺を見る。


「その……遥斗はもう誰と組むか決めてるの?」


「いや。今聞いたばかりだしな」


「そっか。じゃあさ」


 体を前のめりにし、俺にできる限り顔を近づける。


「遥斗のDを奪ってもいい?」


 多分、チームを組むと言う意味だろう。『Dを奪う』なんて言い方はやめてほしい。

 

「良いよ」


「よっしゃ。じゃあ、C枠に晶でも誘おうか」


 美里はガッツポーズをしながら言う。特に拒絶する理由もないため頷いた。


『学年チーム戦』のチームは思ったよりも早く決まりそうだ。

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