第40話:クラスカースト決定

 本日の生徒会の集まりは終了し、俺たちはその場で解散する形となった。


「久遠さん」


 帰ろうとしたところ、神巫さんに呼び止められる。


 彼女は手に電子端末を持ちながら俺の方へとやってきた。


「本日の交流の印として連絡先を交換しようと思いまして」


 俺に向けて電子端末を掲げる。誇誉愛先輩を探すためには連絡は欠かせない。そのために交換しようと言うわけか。ポケットに入れていた電子端末を取り出し、神巫さんとアカウントを交換する。


「では、これからはよろしくお願いします」


 交換するや否や神巫さんはその場を立ち去る。今日一日彼女を見て立ち話をするような人ではないことは分かったので、特に何も感じやしない。いや、もうちょっと話したかったかも。


 久世さんのところに行った神巫さんは彼と話をしている最中、明らかな動揺を見せ、チラッとこちらを見る。遠くにいるので定かではないが、微かに顔が赤いような気がする。


「へぇ〜、神巫先輩と随分仲良くなったみたいだね」


 耳元で聞こえた声に、俺は勢いよくその場から離れる。


 後ろから伊井予が声をかけてきたようだ。心なしか表情はムスッとしている。


「どうした?」


「いや、別に。人懐っこいようには見えなかったから遥斗くんと二人きりになっても問題ないと思ったけど、自分より強い相手には甘々だったか」


「甘々ってわけではないと思うけどな」


 ただ協力者が見つかって嬉しかっただけだろう。


「ふーん。まあ、遥斗くんが言うならそういうことにしておきましょう。夜間の警備で二人っきりになった時に私が甘々になっても問題ないってことになるしね」


「問題ありだろ。警備の時は警戒体制であってくれ」


 会話がひと段落し、俺たちは二人して生徒会室を後にした。


「1つ気になったことがあるんだけど聞いていいか?」


 廊下を少し歩き、人気がなくなったところで俺は伊井予に話を持ちかける。


「何かな?」


「伊井予は俺に何か隠してることってあるか?」


 予期せぬ言葉だったのか、唐突にそんなこと言われたからか、伊井予は目を丸くして驚く。


「どうしてそう思うの?」


「俺たちを襲った奴らが何の理由もなしに俺たちに攻撃を仕掛けるとは思えなかったからさ。俺は本当に何も心当たりがないんだ。だから伊井予には心当たりがあるんじゃないかって思ってる」


「私も『心当たりがない』と言ったんだけどね。嘘だって思ってる?」


「正直な。夜襲のあったあの日、伊井予は女子寮で俺に説明していた時に少ししんみりとした様子だったからさ。何かあるようにしか思えないんだよ」


「……なるほど。夜は自分の暗い部分が表に出やすいもんね」


 伊井予は窓の方に顔を向ける。昼時であるため太陽の光は頭上から廊下に侵入している。


「しょうがない。後ろめたい気持ちのまま遥斗くんを付き合わせるのは悪いからね」


「やっぱり。何か隠しているんだな」


「私たちの教室に入ろうか。誰もいないだろうし」


 伊井予が隠していることを聞かないわけにはいかない。俺は深く頷いた。


 足先を変え、自分たちのクラスに向かう。教室は開いており、彼女の言ったとおり部屋には誰もいなかった。


「さて、まずは謝るところから始めようかな。隠し事しててごめんね」


 伊井予は自分の机に手を乗せ、こちらを覗く。謝罪の割には笑みを貫いていた。ほんの少し疾しいことを抱えているような儚い笑みだ。


「別に構わないよ」


 俺も隠し事はあるしな。20年前から転生してきたし、固有スキルを二つ持っているし。


「案外、すぐに受け入れてくれるんだね。そうなると、言わないわけにはいかないか」


「そんなに言いたくないことなのか?」


「まあ……ね。実のところ、遥斗くんをかなり危険なことに巻き込んでいるから」


「かなり危険なこと。なら尚更、言ってくれないと困るよ」


「だね」


 伊井予は自分の机に座る。


「私が生徒会に入りたかった理由は『姉さんを探すため』なんだ」


「姉さん。探すってことは行方不明になっているのか?」


「うん。この学校に在学中にね」


 同じ話が繰り返されている気がするが、まさか……


「その姉さんって、下の名前は誇誉愛だったりするか?」


 俺がそう問いかけると、伊井予は明らかに動揺してこちらを見た。


「そ、そうだけど。何で遥斗くんが知ってるの?」


 やはりか。誰も彼も同じ目的で俺を誘ってきたわけか。


「さっき神巫さんと電子端末でやりとりしてたの見ただろ? 試合後に神巫さんからお願いされたんだ。誇誉愛先輩を探すのを手伝って欲しいって」


「神巫先輩が……なるほど。久世先輩が『僕ら』って言ってたのは神巫先輩も含まれていたからか」


 どうやら、俺と神巫さんが出て行ってから久世さんと何か話していたみたいだ。


「私も神巫先輩と同じ。行方不明になった姉さんを見つけたいの。そのために協力してくれる人を集めていたの。それが遥斗くんってわけ」


「そういうことだったのか」


「今自分たちのいる学校の関係者と敵対する可能性があるから、遥斗くんに情報を出し過ぎると協力してもらえないかなと思って」


「あまり信用されていなかったみたいだな」


「ごめん。でも、学校側と戦うってことになったら嫌でしょ?」


 確かに。神山先生と戦うなんてことになったら嫌かもしれないな。ただ……


「そうでもないさ。色んな人からお願いをされているからな。頼られるのは結構嬉しいことなんだぜ」


 それに、今は君島の本性を暴いてやりたいって思いがある。誰からも人気のある人間の裏の顔。それを暴いて必要があれば成敗する。


 芦田みたいにな。


「そっか」


 伊井予は机から立ち上がり、俺の元にやってきた。そのまま俺の胸に顔を埋め、抱きしめる。


「ありがと。覚悟は決めてるんだけど、1人で戦うのは結構怖かったんだよね」


 ここに来て初めて彼女の本音を聞いた気がした。彼女の言葉に唆され、彼女の頭に手を近づける。


 刹那、ポケットにあった電子端末から通知が流れる。


 そこで二人とも正気に戻り、距離を話した。通知内容を見ると、笠見先生からだった。


「クラスカースト決めが終了したのでクラスカーストについて報告する」


 下にスクロールすると、A〜Dまで記載されていた。


「 《Aグループ》

  ・久遠 遥斗

  ・伊井予 暦

  ・我妻 凛音

  ・橘 莉央

  ・結闇 朔夜 」


 本日の結果を受け、結闇がAグループ入りを果たしたみたいだ。晶は本日のリーグ戦を勝つことはできなかったようでCグループ入りとなった。


「Aグループとして、生徒会として、協力者として、これからよろしくね。久遠 遥斗くん」


 画面を見ていると、伊井予から声をかけられる。そこには、いつもどおりの笑みを浮かべる伊井予の姿があった。やはり、伊井予には今の笑みが一番似合っている。


「ああ、よろしくな。暦」


 俺が名前で呼ぶと、伊井予は少し照れたように頬を赤く染めた。


 三日続いたクラスカースト決めはこれにて終了。明日からはついに異能育成高等学校の授業が始まる。

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