第36話:副会長の実力4

 地上に辿り着き、出来る限り高いビルに入っていく。

 屋上に一飛びしたいところだが、屋上の様子が分からない中で【瞬間移動】は使えない。そのため、エレベーターで屋上まで上がっていく。


 屋上の景色は見事なまでに広々としていた。

 地上を歩く幻獣たちが小さく見えてしまい、空を飛ぶ幻獣たちとの距離が近すぎる。仕方ないので、今見える屋上の景色の中で空を気にせず、地上の幻獣に攻撃できる場所に【瞬間移動】する。


 高層ビルが佇む中で比較的小さなビルに降り立った。

 地上を見下ろすために手すりを上って外側に飛び降りる。【透明成化】のおかげだろうが、今のところ誰にも気づかれていない。


 一息つき、地上をゆっくり歩く幻獣たちに目を配らせる。

 数十体の幻獣たちを相手にするのは気が引ける。だが、神巫さんに俺が地上から攻撃を仕掛け始めたと思わせるためにはド派手に戦うしかない。


 掌を地上に掲げ、幻獣たちに【空間爆撃】を使用する。時間式爆破で攻撃をするため、まだ爆発することはない。屋上を周りながら見える幻獣全てに【空間爆撃】を仕掛けていく。【瞬間移動】し、同じ高さの建物を渡って遠くにいる幻獣にも設置していく。


 一通り仕掛け終えたところで、俺が地下に行く前に神巫さんのいた場所に向けて【瞬間移動】を繰り返す。幻獣が一箇所に固まっている場所を発見。最初にいた位置と類似しているので、神巫さんは同じ位置にずっといるのだと分かる。


 準備は整った。

 手を前に翳し、【氷雪遊戯】を発動。目の前に10個の大きな氷球が作られる。

 同時に、仕掛けた【空間爆撃】を起動。大きな爆破音が連なり、視界に映る幻獣たちの体がよろめく。


 作られた大きな氷球はワイバーンの形を成し、空高く飛び上がる。

 目指すは空を飛び回る同種のワイバーン、異種のドラゴンとグリフォン。


 彼らが飛び立つのを見送ってから俺は下に飛び降りた。

 風の抵抗で制服が捲れる。それを気にすることなく【火炎遊戯】の力で右手に大きな炎を灯す。ここは屋外だ。心置きなく炎を放つことができる。


 手に灯した炎はどんどん大きくなっていく。

 左手を幻獣の屯ろする位置に翳し、狙いを定める。大きくなった炎を解き放つように左手のあった位置に右手をかざしていった。


 炎のレーザー光線を発射する。

 俺から離れたタイミングで炎が可視化される。地面を焼き尽くし、幻獣たちまで突き進んでいった。

 地面に燃え盛る炎のベールが出来上がったところで、今度は全身に炎を纏う。


【瞬間移動】を発動。着地地点は神巫さんの目の前。


 視界が一瞬にして切り替わる。

 降り立つと、目の前には神巫さんの姿があった。幻獣に守られたのか傷は負っていない。炎のベールから避難するように走っていたので、俺との距離は再び開いていく。透明になった俺には気づいていない様子だ。


【瞬間移動】を発動する。同時に炎を右手に集中させる。

 今度は神巫さんの頭上に位置して拳を放つ。すると、今まで遠くを見つめていた神巫さんが俺へと視線を定めた。


 前に転がるようにして拳を回避する。拳は地面を抉っていった。

 神巫さんは俺のいる方に振り向き、胸元にしまっていたクナイを三本飛ばしてきた。【多様剣聖】で剣を生成し、一掃していく。


 殺気を飛ばした瞬間、すぐに気づかれた。やはり、我妻と同じく神巫さんも戦闘に長けている。


「ようやく攻撃を仕掛けてきましたね。待ちくたびれましたよ」


 彼女に話しかけられたところで、俺は【透明成化】を解いて姿を現す。


「幻獣たちがいなくなったと言うのに、随分と余裕ですね」


「また召喚すれば良いですから。ハヌマーンとの戦いで私がものの数十秒あれば幻獣の住処を作り出せると分かったでしょう?」


「ええ。身に沁みるほど分かりました。だからもう幻獣は召喚させません!」


 右手に灯された炎を消し去り、代わりに剣を持つ。

 地面を蹴って神巫さんとの距離を一気に近づける。神巫さんは迎え撃つように胸ポケットから小刀を取り出し、左手に持つ。元々右手にも小刀が握られているので、俺と同じく二刀流だ。


 俺の一振りを神巫さんは小刀にも関わらず余裕綽々と受け止める。

 剣術に関しては神巫さんが一、二段階上であろう。なんせ俺は我妻の能力を真似た時に初めて扱ったのだから。


 神巫さんは俺の剣を弾く反動で後ろに下がる。【幻獣召喚】を繰り出すために距離を取ろうという算段だ。だが、そうはさせない。俺は【瞬間移動】で神巫さんの背後につき、再び剣を振るう。彼女は俺の方を向いて小刀で受け止める。


 それからも一進一退の攻防が続く。

 彼女が距離を取ろうとした際に、【瞬間移動】で彼女の背後につき、能力を使う前に剣で攻撃を仕掛ける。神巫さんはその度に小刀で攻撃を防ぐ。


 おそらく、神巫さんは俺の剣を受け切りながら隙を突くための方法を考えているに違いない。

 俺はただがむしゃらに彼女に剣を振るい続けた。彼女をその場に止めつつ、彼女が俺の攻撃を回避するための戦術を繰り出すまで。


 そして、俺の攻撃が鈍り始めた時、彼女は新しい行動に出る。

 俺の剣を弾き、距離をとった瞬間、持っていた小刀を俺に向けて飛ばしてきた。

 突然の行動で判断が遅れ、右肩を取られる。反動で持っていた剣を地面に落とした。


 俺が作り出した隙を縫って、神巫さんはもう一方の小刀を口に咥える。【幻獣召喚】を使うために空いた両手を合わせようとした。


 今だ。


 心の中で呟いた合図とともに、急に地面が揺れる。

 神巫さんは何事かと合わせようとした手を止めた。その次には、俺と彼女の立つ地面が割れ、俺たちは宙に浮く形となった。


「久遠くん。あなたもしかして私の能力を!」


 神巫さんは下を覗いた後、俺の方に顔を向ける。

 予想外の出来事に驚いているのか、眉間に皺を寄せ、額から汗が流れている。

 

 地下には俺たちのいる地面を崩したフェンリルたちの姿があった。

 地上に出る際、俺は神巫さんの【幻獣召喚】でフェンリルを召喚させていた。そして、拳で地面を叩くことで彼らに場所を教え、教えた場所から神巫さんを逃がさないように攻撃していた。


 あとは隙をついてフェンリルたちに天井を攻撃させ、俺たちを地面に落としたのだ。


「ですが、足場がなくとも、私の能力には関係ありません」


 神巫さんは止めた手を再び合わせようとする。


「残念ですが、地下にいるのはフェンリルだけではないですよ」


 俺が言うと同時に、神巫さんの腕が蛇に包まれる。


「エキドナ……」


 彼女は後ろにいる半人半蛇の姿に驚愕する。地下に行かせた幻獣たちが今度は自分の前に立ちはだかっていった。数体の蛇が彼女の腕に絡まり、掌を合わせることを防ぐ。何もできない状態の神巫さんに対して、俺は空いた手を彼女の身体に翳す。


「これで終わりです。【空間爆撃<ローカス・ボミング>】」


 神巫さんの周辺の波が一斉に揺れ動く。


「勝者、久遠遥斗」


 爆破が起こり、勝利のアナウンスが流れる。

 同時に、俺の視界は白くなり、意識が吹っ飛んでいった。

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