第32話:生徒会の実力2
堂前さんがやってくるのを我妻はただ見ているだけだった。
彼が我妻の半径3メートルまでやってくると、我妻は持っていた二本の剣を地面に落とした。もともとかかっていた重力に堂前さんの周囲に発生した重力がプラスされ、重さに耐えきれなくなったみたいだ。
何もできずにいる我妻に堂前さんは容赦無く拳を放つ。
我妻はわずかな抵抗とでもいうように力を振り絞って両掌を堂前さんにかざす。しかし、彼女の両手は堂前さんの拳の軌道からわずかに逸れている。
掌で受け止めるわけではないらしい。そう思った瞬間、我妻の手に剣が生成される。
三日月型包丁のような両手持ちの剣。両端にある柄を手で持ち、刃の部分で堂前さんの拳を受け止める。
返り討ちかと思われたが、堂前さんの着ているスーツは刃よりも硬いようで二人の衝突は我妻が少しダメージを受けて後退する形に留まる。
すると突然、堂前さんの頭上を2本の剣が降下する。
剣は彼の両肩を突き刺すも、スーツの硬いボディに弾かれた。だが、剣の攻撃による反動で堂前さんのHPが減る。
よく見ると、柄を握った我妻の両手人差し指が前にいる堂前さんを指していた。
我妻は堂前さんがやってくる間に攻撃の算段を立てていたのだ。
堂前さんのやってくる途中で剣を落とした行為はわざとだったに違いない。
自分が堂前さんのかけている重力に耐えるのが精一杯だと思わせ、堂前さんが躊躇なく攻撃を仕掛けてくるように仕向けた。
そして、攻撃を仕掛けてきた寸前に、体を動かして両手持ちの剣を生成してガード。持った瞬間に人差し指を堂前さんに向けることで、発射させる剣の標的を定める。堂前さんの放つ重力はいずれも下に向いているので、剣の発射場所を頭上にセットすることで重力による加速を経て、堂前さんに突き刺さるようにした。
持っている刃で拳を突き、発射した刃で方を突く。
堂前さんの着ているスーツに耐久性がなければ、今ので我妻の勝利が確定していたに違いない。
「彼女、やるねぇ〜」
久世さんがモニターを見ながらボソッと呟く。
幸先は不安だったが、さすがは我妻だ。この調子でいけば、堂前さんに勝てるかもれない。
そう思ったのも束の間、モニターに映った我妻が横へと吹っ飛んでいった。
一瞬何が起こったか分からなかったが、堂前さんの上がった足を見て理解した。我妻の体に蹴りを食らわせたみたいだ。
「一体、何があったんだ?」
どうして堂前さんは我妻に対して簡単に攻撃を食らわせることができたのだろうか。
「重力を消したみたいね」
俺の疑問に答えたのは井伊予だった。
彼女の返答に対して、久世さんが「正解」と呟き、説明を始める。
「我妻くんが攻撃を打ち終えたタイミングで半径3メートルにかけていた強力な重力を消し去った。それによって、我妻くんは浮遊する形となり、身動きが取れずまんまと蹴りを受けたというわけだ」
堂前さんの能力は【重力操作】。重力を大きく掛けるだけではない。逆に重力をかき消すことで動きを止める方法もあるわけだ。我妻が重力を受けても攻撃を通すことができると分かって、攻撃パターンを変えてきたようだ。
「浮遊にどう対処するか。見物だね」
「そういえば、他の子たちに関してすっかり忘れてしまっていましたね」
そういえば、久世さんがモニターを拡大してから俺たちはすっかり我妻と堂前さんの戦いに魅了され、他3組の戦いを見ることを忘れてしまっていた。
「失敬、失敬」
久世さんは自分の過ちだと言わんばかりに、俺たちに謝罪しながらモニターを四つに展開する。
「っ!」
俺はモニターに映った3組の様子を見て、目を大きく見開いた。
他の3組はすでに試合が終わっているようで、3つとも1年生が床に体を預ける構図となっていた。戦っていた2年生の姿はない。
「すでに終わってしまったみたいですね」
神巫さんは「当たり前だ」といった様子で淡々と事実を述べる。
残るは我妻だけ。彼女には他3人の未練を果たして欲しい。
「どうやら、今年は会長のように上級生に勝る生徒はいないみたいですね」
祈るように我妻の戦うモニターを見始めたところで神巫さんが言葉を連ねる。俺は驚いた様子で彼女を見る。
「何かありましたか?」
「我妻の勝敗はまだ分かっていないですよ」
「そんなことはありません。彼女たちのところも本来であれば、今ごろは堂前くんの勝ちで勝負は決していましたよ」
「美陽。勝手な解釈は良くないよ」
神巫さんの言葉に、俺よりも先に久世さんが喋る。
「勝手な解釈ではありません。当然の結論です」
「どういうことですか?」
久世さんの注意を受けてもなお、神巫さんは意見を変えることはなかった。なぜ、彼女がそう言い切れるのか聞かないわけにはいかない。
「堂前くんのスーツにはレーザー光線を打てる武器が仕込まれているんです。ですから、先ほど堂前くんが我妻さんに対して蹴りではなく、レーザー光線で攻撃を仕掛けていれば、今頃は堂前くんの勝ちで勝負はついていたはずです。至近距離であれば、重力を受けたとしても彼女の体を捉えることができたでしょうし」
堂前さんはスーツの中に武器を隠し持っていた。それもレーザー光線の打てる銃だと言う。
確かに、蹴りを食らわせられたのならば、レーザー光線を決めることも可能だったはずだ。
「おそらく、堂前くんはこれから我妻さんと共闘するに当たって彼女のポテンシャルを確かめているのだと思うわ。本気になればすぐにでも決着はつけられる」
神巫さんの言うとおりかもしれない。
堂前さんが『生徒会歓迎試合』を提案した張本人だ。彼は提案する際に「ペアの実力を測る」と言っていた。だから我妻の実力を測るために色々な技を食らわせている。本当なら一瞬で蹴りをつけることができるはずなのに。
我妻は堂前さんの考えを知っているのだろうか。
もし、知らないのならばあまりにも不憫すぎる。
「うーん、まだ戦ってもないのに、1年生全員を舐められるのはちょっと嫌だな〜」
我妻が戦っている様子を見ている最中、後ろにいた井伊予が声を上げる。いつも見せる陽気な感じとは違って、少し怒りを秘めた声音だった。
「ねえ、神巫さん、勝負しませんか?」
全員の注意を引き、自分に視線が寄せられたところで神巫さんの方へと顔を向けた。先ほどの声音とは一転して笑みを浮かべている。ここに来る前に見せた怖い笑みと酷似していた。
「そうですね。まだ君たち二人の実力を測っていないのに、迂闊な発言をするのは良くないかもしれませんね」
「でしょ! じゃあ、勝負しましょうよ。相手はここにいる久遠 遥斗くんがしてあげるよ!」
次いで出た井伊予の言葉に俺は空いた口が塞がらなかった。
神巫の顔が吸い寄せられるように俺を向く。彼女の威圧的な視線が俺の体を蝕んでいった。
俺は特に何も言ってないのに、勝手に話を進められ、勝手に敵として見られてしまっている。我妻も不憫だが、今の俺も十分不憫ではないだろうか。
とはいえ、俺も2年生と戦ってみたい。
彼らと戦いを交えれば、俺はより一層強くなれる。なら、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「よろしくお願いします」
否定することなく、俺は神巫さんに挨拶する。
「わかりました。では、我々も実技場に向かうとしましょう」
クラスカースト決め最終日。
戦う予定はなかったはずだが、俺は1年生の誰よりも強い相手と戦うことになった。
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