第31話:生徒会の実力

 久世さんと彼の後ろにいた神巫 美陽かんなぎ みよさん、そして俺と伊井予以外の生徒会のメンバーは歓迎試合を行うため実技場に足を運んでいった。


 本日のリーグ戦は各クラス一つ使う程度であるため部屋には余裕がある。それでも、空き部屋を四つ使って試合を行おうというのは、流石は生徒会といったところだろうか。


「僕らはここで歓迎試合の様子を見るとしよう」


 先ほどとは変わって久世さんと神巫さんは四角型の机の左側に座っている。俺と伊井予は二人に向かい合うように右側に腰掛けていた。


「オラクル。モニタを表示してくれ」


 久世さんが言うと、部屋に搭載された音声アシスタントである『オラクル』が反応し、電子モニターを奥側の机に表示させる。久世さんがさらに実技場の歓迎試合が行われるエリアの表示を求めると、モニターに映像が四面映し出される。


「実技場には各エリアに監視カメラが設置されている。カメラは半年までの記録を有している。僕たちは昨日のうちに君たちのクラスカースト決めの戦い模様を視聴させてもらった。だから全員の能力を把握している。しかし、君たちは僕らの能力を知らない。今後、共闘することもあると思うからこれから戦う2年生の能力を把握しておくのは悪くないだろう」


 そのためにモニタを表示させ、各々の対戦する様子を俺たちに見せたのか。久世さんが話し終えたところで、改めて展開された四面を遠目で見る。


 モニターは何もない空間を映し出していたが、しばらくしてから人影が姿を現す。顔の詳細までは判別できないが、生徒会にいた人間であることは理解できた。


 対戦前の様子は千差万別だ。義理堅く握手を交わす者。挨拶せずに各々の位置につく者。一方が挨拶しようとするが、もう一方が無視して自分の位置につく者。


 俺は自然と我妻の方に視線が行っていた。生徒会の実力を見るには、実力の知っている人間の戦いを見た方が分かりやすいと無意識に判断したのだろう。我妻のことが気になったというわけではないはずだ。多分。


 我妻は堂前さんと握手を交わした後、自分の位置につく。


 堂前さんは井伊予の竹刀と同じように武器を持ち込んでいた。

 正直、武器と呼んでいいのか迷う。俺は我妻から視線を逸らして堂前さんの背負っているバッグを見る。移動する前に見た感じでは耐久性に優れている堅物だった。


 あれをどうやって扱うのだろうか。


 不思議に思っていると突然、堂前さんの背負っているバッグが自然に開いた。徐々に口を大きく開けると、反対側に折れ込んで堂前さんを包み込んでいく。包み込まれた堂前さんはまるで戦隊モノのヒーローかのような見た目になった。


「あれ面白いよね?」


 呆気に取られた様子で見ていると、久世さんが俺に問いかけてくる。久世さんは呆れたような笑みを浮かべていた。


「なんで堂前さんはあんなのを使っているんですか?」


「理由は簡単だよ。重信の能力を最大限に生かすためさ」


「能力を最大限に生かすため?」


「戦闘特化の能力とは違って非戦闘特化の能力は、その能力単体では戦いにおいて貧弱なものが多いんですよ」


 久世さんからバトンを受け継ぐように神巫さんが話し始める。


「【透明成化】や【瞬間移動】の能力がいい例でしょう。【透明成化】は回避率、【瞬間移動】は俊敏性といった特定のパラメーターが極端に上がっただけで、後のパラメーターは凡人並みです。攻撃が劣っているので、相手の攻撃を避けても、相手に大きな損傷を与えづらい。ですが、銃を透明化させて発砲したり、瞬間移動で背後から剣を振るうとなれば強力になります。武器は能力の欠点を解消するために用います」


「私の持っているこれも、私の能力を補うために持ち歩いているんだ」


 神巫さんの話に相槌を打つように、井伊予は背負った竹刀に手を添えて言う。


 能力の欠点を補うための武器。俺にとっては一つの能力と【物質生成】で生成した武器を使えば成り立たせられる。良い事を聞いた。


「でも、堂前さんの身につけた武器って一体何の役に立つんですか?」


「見てれば察せられるかもね。始まるよ」


 話している内に準備ができたみたいで、各々が配置された地点で構えの姿勢をとった。


 アナウンスが鳴ったのか、戦闘特化の能力を持つ三ペアはそれぞれ能力を解放した。雷文と明徳さんは【雷光遊戯】を、宵越と睦美さんは【火炎遊戯】を、砂山は【風空遊戯】、灰山さんは【氷雪遊戯】を使用した。


 戦闘特化の能力を持つメンバーが戦いを繰り広げる中、我妻と堂前さんの画面だけは微動だにしていなかった。我妻は剣を二本握っている。戦う意思はあるはずだが、どうしたのだろう。


「我妻と堂前さんは互いの手の内を探っているんですかね?」


「いや、彼らの戦いもすでに始まっているよ。最も重信はお手並み拝見といった感じだけどね」


 久世さんは俺に分かりやすく示すためにか、後ろの女性二人に一言置いて我妻と堂前さんの映像を拡大する。


 二人の戦闘の様子が大きく映し出されたところで、俺は新たな発見をした。

 我妻の立っている地面がわずかに削られている。削られた地面の上に立っている我妻は体を震わせていた。


「【重力操作<オペレイティオ・グラヴィタス>】。名のとおり空間の重力を操作する能力。それが重信の持つ能力だ」


 我妻は堂前さんの能力で体にかかっている重力が倍増して動けなくなっているようだ。

 とはいえ、動けなくなろうが、我妻の能力には関係ないはずだ。俺の思考に則るようにして二人を映し出す枠外から剣が姿を現す。


 堂前さんに向かって一直線に突き進んでいく剣。それは彼が手をかざした瞬間に、勢いを失くし、地面に落ちていった。手をかざした物体の重力を操作するのか。よく見ると、脱力したもう一方の掌が我妻を向いていた。

 

 カラクリが分かったからか我妻は彼の背後から複数の剣を飛ばす。かざす事でしか重力を操作できないなら、数を増やして対象を多くするのが得策だと考えたらしい。


「甘いよ」


 久世さんがボソッと呟く。彼の声に気を取られている間に、画面では襲いくる剣が悉く堂前さんに当たる前に地面に落ちていった。堂前さんが剣に手をかざした様子はない。これは一体どういうカラクリだろうか。


「彼は今自分のいる空間の重力を上げたんだよ」


 能力について考えているのを察せられたらしく、久世さんが答えを教えてくれた。


「重信の能力は掌で対象の物体の重力を操作し、拳を握ることで自身から半径3メートルの重力を操作する」


 久世さんは俺に自分の右掌を見せ、開いたり閉じたりする。


「半径3メートル以内ということは自分にも重力がかかるんじゃないですか?」


「久遠くんの言うとおりだ。でも、彼の着ている強固なスーツが重力の変化を防いでいるから重信は従来のように動ける」


 重力の変化を無効化するスーツ。それが堂前さんの持つ武器というわけか。

 自身から半径3メートル以内の重力を操作し、かつ自分は操作した重力の影響を受けない。近接戦になるとかなり面倒な能力だ。


「本当の勝負はここからみたいだね」


 堂前さんは自分の能力を我妻に見せたところで、彼女の元へと駆けていく。近接戦は何も相手が近づくことで起こるだけではない。自ら進むことで生まれることもある。


 走って近づいてくる堂前さんを前に、我妻は構えることすらできず、ただ現状を見つめているだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る